第12話 庭師の仕事
「ウッドさん、おはようございます。」
まだ薄暗いうちに庭に出て枯葉を集め、新たに生えた雑草抜きを行う。
葉の虫食いなどのチェックを行い、茎にアブラムシなどの害虫が居ないかの点検をするのだが、広大な庭園では全てを1日で見るのは不可能なのでブロックごとに分けて点検する。
「おう。おはようクロス。飯は食ったのか?」
「いえ、まだですよ。畑とハウスを廻ってから行こうかと思って。」
と、ニヤッと笑う。
「おう。そうか。適当に持って来てくれ。」
「はい。了解です。」
庭師の仕事は庭園の維持だけではない。
畑や温室の管理も含まれる。
それぞれに担当する責任者が居て、統括をウッドがやっている。
しかし、ウッドは寡黙である。
ウッドと担当者とが意思疎通を図るのも、担当者たちは苦労していた。
そこにやって来たのがクロスであった。
彼はウッドの片言で何を言わんとしてるのかをちゃんと理解して皆に伝えていた。
ウッドは中々自分の言いたい事が伝わらずイライラする。
担当者たちは指示も無く手直しをされてイライラする。
それが、互いに一気に解消した。
もろ手を挙げて万々歳である。
朝にウッドが挨拶をして、返事を返してくれるなんて驚天動地のごとく珍しい事だったのだ。
後に担当者たちはウッドの少ない言葉でもちゃんと理解して、徐々にコミュニケーションが取れて行くのだが、クロスが来るまでは酷いもんだったのだ。
庭師のメインは何と言っても庭園の手入れ。
木々の剪定で枝ぶりを整え、見栄えの美しさを誇る。
花の付き方や見せる角度、大きさや色合いなど、魅せる内容は枚挙に暇が無い。
そんな中でクロスの好みは食べられる実の成るモノ。
桜、梅、桃から柑橘系や柿に枇杷、桑やアケビにイチジク、野イチゴまで。しかし美しい花の咲くものばかりでは無いので、勝手に隅に植えていたりする。
花壇に大量に百合を植えて、素晴らしく咲き誇ったのは屋敷の全員が驚いた。
植えたのはヤマユリやオニユリで、白い可憐なヤマユリと赤く艶やかなオニユリは、それは見事に咲き誇った。
最盛期を過ぎた途端に花は刈られて、残った茎だけになった時は皆が落胆したし、ウッドも流石にクロスを問い質した。
しかし、クロスの話を聞いたウッドは、
「そうか。では、楽しみにしておこう。」と咎める事は無かった。
それは皆、可笑しくないか?とクロスを責めたりもしたのだが、相変わらずのひょうひょうとした態度で柳に風なので次第に誰も何も言わなくなった。
「さ~て、そろそろ掘り頃かなぁ」
クロスはウッドのとこで何やら相談している。
あの気難しいウッドがにやりと笑って、やれっとGOサインを出した。
百合を大量に植えていたクロス。
白い山百合やオレンジのオニユリが咲き誇ってる間は見事な物で侯爵様からもお褒めの言葉があったくらいだった。
此れにはウッドからも称賛があったがクロスはあまり気にしていなかった。
そして百合の花が終わって、百合の根の収穫の時である。
数年かけて大きくした方が良いのだが、庭園という事もあり表面上何も植わっていない様に見えるのは好ましくないので植え替えて行かなきゃいけない。
「次は何を植えるかなぁ。食えないと面白くないもんね。」
完全に畑扱いである。
ここは侯爵家の誇る庭園の一角であるのだが…
次の作物を考えながら嬉し気に収穫の準備をするクロス。
百合根の収穫は大成功。
一つづつは小ぶりだが数が多い。クロスが山で掘って来て大量に植えた甲斐が有り、屋敷の人間に行き渡るくらいの数は収穫できたと思う。
今日の夕飯は百合根が振舞われる事、間違いないだろう。
この後、ウッドからリンドバーグさんに報告が上がり料理長が部下を連れてやってくるのが一連の流れである。
ついでにクロスから百合根のレシピを聞いて、炒め物や煮物でも良いがグラタンに
入れてもホクホクして美味しいと教わり、今夜はきっと大量のグラタンが作られる事だろう。
転生エルフ~ここはどこ?~ 三六三 @smkytt
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