第11話 下男の仕事
フリードリヒ侯爵家で雇って貰い、最初は下男の仕事から始めた。
下水のドブ攫いやゴミ出し、所謂雑用と汚れ仕事がメインである。
初日はドブ攫いと排水管の改善などをやったら、思ったよりも感謝された。
気を良くして2日目。トイレの汲み取り作業はスライムで賄えてしまうので生ごみの肥料化と落ち葉などを集めて腐葉土と堆肥作りをしてみた。
「そうかぁ。ここのトイレはスライムで浄化されるから汲み取りが要らないなんてねぇ~。」
そんな事を言いながらトイレの浄化槽を覗き込むクロス。
「おいおい。浄化槽覗き込んで何やってんだ?お前は。」
バグに指摘されて自分が育った村の事を話してみるが、
「お前が汲み取りして肥料に変えられるとしても、お前が居なくなったらやる奴なんて居ないぞ?それにその肥料で育てた作物を侯爵様に食わすのか?執事辺りはぜってー、ウンと言わないぞ。」
「そっかー。最高の肥料になるんだけどね。」
「庭の草花なら良いんじゃんねぇか?」
「あ!そうだね。最初は調理場から生ごみ貰ってやってみるよ。」
「ああ。そのくらいなら誰も文句言わねぇだろ。」
「さすがバグさん!」
「馬鹿言ってねぇで仕事しやがれ。」
「はーい!」
そんなやり取りを見てるメイドや下男たちは、バグの柔らかな態度に天変地異の前触れだと噂し合っていた。
噂を聞かれたバグにどつかれるのはまた別の事。
3日目は庭園のカットされた枝や堆肥に出来ない小枝を集めに集めたて、 集めた小枝を廃棄する縄や伐採した蔓などで結わいて焚き付け材を作っておいた。
焚き付けを見つけたメイドは何をする物なのかクロスに聞いてみる。
「それはねぇ。焚き付け用の小枝だよ。」
竈や暖炉は魔法で火付けをするが、魔法の得意な者以外は意外と火付に苦労をする。
大きな薪は魔法で火付しても、いきなり燃え上がったりはしない。
小さな薪から徐々に火を大きくしていく。
「へぇ~。一個貰って使ってみてもいいかなぁ?」
「いいよ。試してみて。役に立つならまた作ってあげるよ。」
「うん。アリガト。貰ってくね。」
クロスの作った焚き付けが有れば、小さな薪を探したり作ったりしないでも焚き付けに火を付けて直ぐに大きな薪に火を移せるので重宝した。
日々の下男の仕事の中から一工夫して使える物を作ったりして色々工夫を凝らしてみる。どれもこれも非常に有用だと皆から有難がられたので、クロスは内心嬉しくてしょうがなかった。
肥料、堆肥作りはエルフの村でもやっていて、実際に作物が大きく育つのは知っていた。でも誰も褒めてくれなかったし、収穫が増えても食事は増えなかった。
小枝の焚き付けを作っても、勝手に持って行かれるだけで誰もお礼なんて言ってくれなかったが、自分は便利だと思っていたから暇を見て魔法の練習がてら作るのが日課になっていたので作ってみただけだ。
でも、ここでは何かを作ったり役に立つと思う事をすると皆が褒めてくれる。
お礼を言われる。感謝してくれる。
もう嬉しくてしょうがない。
「やってる甲斐があるよね。これで褒めてくれたり、おやつ貰えたりするなんて。」
ますます張り切って下男の仕事に精を出すクロスを見て、面白くない思いをしてる男が舌打ちしながら何かを考えていた。
下男の仕事を一週間熟して次の仕事だとリンドバーグさんから言い渡される。
下男頭のバグに挨拶をしてから次の仕事に向かうと言うので先ずはバグに挨拶に行く事にする。
「クロス。一週間ご苦労だったな。色々助かったし、勉強にもなったわ。まぁまたこの仕事をすることは無いだろうが、ありがとうな。」
バグから労いの言葉を貰って、思わず泣きそうになってしまう。
「僕こそ、何も知らない僕に色々教えてくれてありがとうございます。また機会が有ったら一緒にやりましょうね。」
「ばーか。何言ってんだ。クロスは執事になるんだから下男の仕事なんてやらなくて良いんだよ。」
「でも何かの時は一緒にやるし、バグさんの仕事も知らないと執事なんて出来ないじゃ無いですか。」
クロスの頭をガシっと抱えて、ぐりぐりと抉る。
「何ナマ言ってやがんだ。」
「バグさん!痛い!痛いって!」
ぐりぐりから漸く解放されたクロスは文句を言う。
「もう~!痛いってぇ。」
バグが潤んだ眼でニカッと笑った。
クロスもニッと笑った。
「んじゃバグさん、ありがとうございました。」
「おう。またな。」
バグは直ぐに背を向けて、右手を上げながら行ってしまった。
「すいません。リンドバーグさん。お待たせしました。」
リンドバーグさんは呆けたようにバグさんが行った先を見ている。
「どうしました?」
「あぁ、いやいや。では行きましょうか。」
「はい。」
「バグが慣れあうなんてねぇ…」
「はい?何ですか?」
「ん?あぁ気にしないで良いですよ。」
クロスに関わった者たちがとても良い変化を見せてくれるのを感心しながら今後を考えていた。この子は侯爵家にとって掛け替えの無い存在になるかも知れませんね。
次に来たのは庭師のウッドの小屋だった。
「ウッドさん。こんにちはー!」
「おう。クロス。・・・と、リンドバーグさん。」
「…クロスはウッドを知ってましたか?」
「はい。色々助けて貰ってました。」
「リンドバーグさん。下男の手伝いしてれば自然と庭にも携わるってもんだ。」
「そう言われればそうですね。では説明は不要ですか。」
「ああ。クロス。頼むな。」
「はい。よろしくお願いします。」
庭師のウッドにクロスを預けて、戻る際に考えていた。
「あの気難しいバグと慣れ合い、人に関わらないウッドとも既に馴染んでいる…先天的な人たらしですかね。」
ふふっと笑いながら、誰よりも寡黙で厳しい筈だった自分こそが誑し込まれてる自覚もないまま屋敷に戻り、メイドたちにリンドバーグさんが笑っていたと噂されるなんて思いもしなかった。
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