第10話 仕事
……あれ?
テーブルの傍にはリンドバーグさんが立っている。
あれ?リンドバーグさんがもう一人?
「「ええぇ??」」
ロココラササの二人は思わず声を上げていた。
テーブル横にはリンドバーグさん、旦那様の後ろにもリンドバーグさん。
よく見ると目じりの皺がちょっと違うのに気付いた。
これは影武者?っていうのか?初めて見たな。
後から来たリンドバーグさんの方が皺が深いみたいだ。だからそちらが偽物で…
あれ?最初から偽物が説明してたかも? そうやって惑わすようにしてるんだろう。
だからどちらも本物と考えてれば良いかな。
クロスがあれこれ考えてる間にはロココラササの二人はテンパっていた。
「お、同じリンドバーグさんが二人も居ます。」
「クスクス。」
お嬢様が笑っている。
旦那様も口角が上がっているのでリンドバーグさんの影武者に会わせるのが目的だったのかな?当の影武者さんは澄まし顔で旦那様の後ろに並んだ。
「うん。思った通りの反応で満足だよ。ロココとラササ。でもクロスは無反応だね?知ってたのかな?」
「はい。知りませんでしたが高位の貴族様には影武者を立てる事があると教わりました。どちらが本物のリンドバーグさんか分かりませんが、表情に出してはイケないと言われたので我慢しました。」
「ふむ。100点以上の回答だな。でも正直に言うと驚いて欲しかったかな。」
「あ…、申し訳ありません。」
「いやいや、最初の反応が一番良いんだよ。今のは私の我侭だ。」
「お父様。私もクロスが驚くよりか、無反応かな?と思っていたのですが、思ってた以上の無反応で逆に笑ってしまいましたわ。」
あ~…そう言われてしまうと苦笑いを浮かべるしかない。
「そのクロスの苦笑いで納得しよう。リンドバーグもそれで良いか?」
「私共も初見で無反応は初めてですな。今後が期待出来ると思われます。」
「そうか。今後の成長も期待出来るな。……」
いやいやいや。待って待って。
何?驚くのが正解だったの?
すっっっごいハードル上げた気がするんだけど。
そんなクロスの内心などお構いなしにこの家の使用人頭の紹介は終わった。
リンドバーグさんは直属の上司で侍従長の役になる。
影武者と思った人はリンドバーグさんの双子の兄でランドバーグさんと言うそうだ。
別に影武者とかそういう立場には無いとニヤニヤしながら言われて、旦那様とお嬢様は大いに笑ってくれた……っ
そしてロココとラササの上司はメイド長のアイリスさん。
大体この3人から仕事を受けるが、それぞれの担当者は都度紹介してくれるそうだ。
この屋敷の使用人は全部で100人くらいになるそうで、知らない人を見かけたら申告するように教わるそうだ。逆に知ってるからと言って、普段見ない場所で見かけたらそれも申告対象として申告しないと罰があるらしい。
内容に依っては処刑になる事もあると。そんなのはスパイ行為や裏切り行為になった場合だけどね。
ロココとラササはメイド長に連れられて行ってしまい、残された僕はリンドバーグさんの後ろを付いて歩いている。
先ずは一通りの職場体験から始まる様だ。
最初の仕事は、一番下っ端扱いの下男から。
これは何でも申し付けられた仕事を熟していく。
多いのは荷物運びやお使い。伝言。お届け物。ごみ処理。汚れ仕事全般。
多少汚れても良い制服?に着替えて下男頭の所に連れて行かれる。
「今日から務める子です。少し面倒見てやって下さい。」
リンドバーグさんの言葉に敬礼して返答する厳つい髭のオジサン。
「うん。了解しました。」
「今日からお世話になります。クロスです。よろしくお願いいたします。」
「おう。宜しく頼まあ。」
フリードリヒ侯爵家に来て、最初の仕事が始まる。
エルフ村に居た時とも違う、奴隷館に居た時との教育とも違う、本当の仕事が始まる事に緊張していた。
「先ずは、此処、下男部屋は特定の仕事じゃねぇ。主に汚れ仕事を請け負う所だ。」
「はい。」
「うん。良い返事だ。んじゃ汲み取りとドブ攫いから始めるか。」
「はい。」
連れて行かれたのは屋敷の裏手。
屋敷からの下水や汚水が流れて来る場所と思われる。
「ココのドブ攫いから始めようか。」
何故かニヤニヤと支持を出す下男頭。
「あの、すいません。質問良いですか?」
「あ?何が聞きたい?」
「ココの、この屋敷から周辺の下水道、上水道の見取図って無いですか?」
「……それを見てどうする?」
「はい。屋敷内の下水もそうですが汚れやすい所が詰まりやすい所です。集まって来る所や狭まってる所が有れば重点的に見た方が良いと思いました。」
「……そうか。ちょっと待ってろ。」
待たされてる間に案内された場所のドブ攫いをしておく。
思った通りそんなにゴミは流されて無くて、ヘドロや油が溜まった場所の流れが悪くなってるだろうから、その場所を流してやれば排水の流れも良くなるし臭いも改善できると思う。
水路の図面を持って来た下男頭にそれを説明して実践してみる。
「…お前、すげえな。本当に流れて臭いも無くなったぞ。」
「うん。良かった。本当は水を流す場所でやる対策もあるんだけどね。」
「マジか?そんな方法があんのか?」
「うん。臭いも虫も上がって来なくなるよ。」
「ホントか?聞いても良いのか?」
「んとね。排水するパイプを折り返すの。」
「あ?それじゃ流れなくなるだろうが。」
「厨房でやってみようか。」
二人で厨房に行って下男頭と料理長とその他もろもろの人員で色々試してみる。
「おいおい。お前、コレすげえな。確かに臭いもしないし、これなら虫も上がって来れねえだろ。どっからこんなの聞いてきた?」
「これはコイツが考えたんだぞ。俺が考えた訳じゃねぇ。褒めるならコイツを褒めてやれ。」
「おぉ。そうか!お前は新しく入ったクロスだったな。これなら旦那様の名前で特許を取れるかも知れねえな。」
「えっ!?僕の名前ご存じですか?」
「はっはっは。」
「こいつはクロスの名前どころか嗜好も全て把握してるぞ。」
「ええ~!?」
「挨拶がまだだったね。私はこのフリードリヒ侯爵家にて料理長を任じられているハリソンと言う。宜しく頼むねクロス君。」
「あ、は、はい。改めてクロスです。よろしくお願いいたします。」
「そういえば俺も自己紹介してなかったな。」
「また、あなたはそういうのを端折って。」
「うっせい。」
「改めて俺はフリードリヒ侯爵家で下男頭やってるバグだ。宜しくな。」
「はい。よろしくお願いいたします。」
仕事初日の今日は下男頭バグさんと料理長のハリソンさんに会えました。
ああ、執事長のランドバーグさんにも会いましたが大して関わり合う事が無いと言う事なのでスルーです。関わり合う事って、絶対大それた事だよね。絶対に関わり合いにならない様にしようと思いました。おやすみなさい…
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