第9話 会食前
湯あみを終えて置かれていた新しい下着をはき、新しい執事服?に着替える。
置いてあったからこれで良いんだよね?と思いながらも、かなり上等な服にちょっと臆しつつも着付けて行く。
髪を良く拭いて乾かし、教育された通りに髪に櫛を通して整え、備え付けの化粧品で固める。
身だしなみをチェックして浴室から出ると、案内してくれたメイドさん二人が待機してくれていた。
「お待たせしました。ありがとうございます。」
「…?」
メイドさん二人は赤い顔をしてこちらを見たまま固まっている。
「あの?どうかいたしましたか?」
クロスの問いかけにハッ!?と目覚めたように再起動するメイドさん。
「あ、も、申し訳ありません。旦那様がお待ちになっておりますので、食堂の方にご案内いたします。」
「はい。よろしくお願いします。」
「では、こちらへどうぞ。」
メイドさん二人が先頭に立って案内して来れる。
その後ろを歩きながら、魔力探知や気配察知をしながらクロスは付いて行く。
そうしないと、多分帰りは迷子になる。
部屋から浴室までを先ほど案内して貰ったが、その際にルートを確認していなかったので、慌てて部屋だけは魔力残照を見て確認した。
屋敷内は魔力や気配の防御が多いので、ちゃんと慣れて覚えるまでは探知は怠らずに確認しないと帰ってこれないと思う。
「お二方はこちらのお勤めは長いのですか?」
複雑な屋敷内を案内してくれるメイドさんに疑問は聞いてみよう。
「いえ、私マリはまだ2年ほどにしかなりませんが、カノンは1年目にになります。」
「はい。私カノンはまだ1年目で、もうすぐ2年目になります。」
「お屋敷内は道が複雑のようですが、もう覚えられてるのですか?」
「ふふ。そうですね。確かに複雑になっていますが、壁の下の方に道案内が有るのですよ。」
「へ?」
道案内が有ると聞いて変な声が出てしまった。
壁の下の方?
特に何も表示は無いぞ?
ん~?なんだ?
「「クスクス。」」
「すいません。何も書いてないですが?」
「今はまだ分からないと思いますよ。まだ私たちからはお伝え出来ませんが、執事長からお話が在ると思います。」
「あ、そうなんですね。ありがとうございます。」
今は分らないが、後で教えて貰えるのか。一応教えてくれたお礼を言っておいた。
「いえいえ、他にもお伝えする事は多いので、後ほどお話しましょう。」
「はい。よろしくお願いします。」
なんか他にも秘密は多そうだ。
メイドさんも親切だし、これならちゃんと務められそうだとちょっと安心した。
そんな会話をしてる間に食堂に着いたようだ。
メイドさんがノックをしてくれて、「クロスさんがお越しになりました。」
と、伝えると中から扉が開いた。
中から口髭を蓄えたダンディなおじさんが迎えてくれた。
「クロスさん、お待ちしておりました。どうぞ中へ。」
案内された食堂は、少人数会食用の食堂で大人数用の食堂も別にあるそうだ。
食事に先次て簡単な説明を行ってくれるとの事で、ロココラササも呼ばれているので直ぐに来ると説明される。
席に着いて少し待つと、ロココラササの二人も案内されて席に着いた。
雰囲気的に話も出来ずに黙って座っているとダンディなおじさんが口を開く。
「では、お三人揃いましたので先ずは私から自己紹介をさせて頂く。
私は侍従長を仰せつかっているリンドバーグと申します。」
軽く頭を下げられて思わず頭を下げる。
「「「はい。よろしくお願いします。」」」
顔を上げるといつの間にか三人の前には飲み物と筆記用具が置いてあった。
「湯あみの後なので喉を潤してください。お替りはメイドに言って下さい。
君たちの前に筆記用具が有りますので、それに名前と出来る事を書いて下さい。そして、やりたい事や希望があるならそれも併せて書いて下さい。」
説明を受けて紙を見る。いくつかの項目が書かれていて、出来る事、得意な事、やりたい事等を記載する様になっていた。
奴隷商会でも似たような事をやったので、特に悩むことなく書いていく。
名前:クロス
出来る事:生活魔法、家事全般(料理除く)
得意な事:家事
やりたい事:勉強、料理
やりたくない事:接客
これは奴隷商会で教わった事を書いただけだ。
ただ料理だけは教わらなかったのでやってみたいと思ってる。
だって煮るだけ焼くだけしか知らないし、味付けも塩とハーブ類しか分からない。ここを放り出されたりしても料理が出来れば何とかなる様な気がするから。逆にやりたくない事は接客にしておいた。出来ない訳じゃ無いけど最高に面倒臭いと思う。
使用人として失敗の上位は接客関連だと教わったから。
ロココとラササの二人はメイドさんと赤い顔して話している。
聞き耳を立てると、”男性を…満足?”
ああ、と思って聞くのを止めた。
そういえば、奴隷商会に居たジャンの奴が僕にその話を良くしていた。
「クロスお前、顔が良いんだから女を誑し込む方法はちゃんと覚えておけよぉ」
ニヤニヤと気持ち悪い顔で言っていたのを思い出して気分が悪くなる。
リンドバーグさんに紙を渡して、置いてあった水を飲む。
「美味しい。」
レモン水の様で、爽やかな酸味と仄かな甘みがあって美味しい水だった。
「それは良かった。お替りもどうぞ。」
リンドバーグさんに進められて水のお替りを貰う。
その間にロココたちも紙を渡したようだ。
「この用紙は旦那様にお渡しします。質問などが在るかも知れませんので正直に答えて下さい。では旦那様がいらっしゃるまでお待ちください。」
リンドバーグさんが退室して、ちょっと空気が緩んだ気がする。
ロココが話し掛けて来るが、メイドさんたちは特に何も言わずに控えてるので話しても大丈夫の様だ。
ロココラササの二人もフカフカのベッドの広い部屋で気付いて、やらかした事を思い出してガクブルしてたが、咎められることなく湯あみをして今に至ると。
お客様扱いなのは今だけなので、気を引き締めて行こうと話してたらリンドバーグさんが戻って来た。
「旦那様がいらっしゃいます。」
その言葉に三人で立ち上がる。
メイドさんが扉を開けて、奴隷商会で会ったフリードリヒ侯爵が入って来た。
三人で頭を下げて待つ。
「ああ、そんなに畏まらないで良いよ。頭あげて。」
「「「はい。」」」
頭を上げると、侯爵の後ろにお嬢様。そして口髭を蓄えたダンディなおじさん。
もう一人はメイド長のアイリスさん。
……あれ?
テーブルの傍にはリンドバーグさんが立っている。
あれ?リンドバーグさんがもう一人?
「「ええぇ??」」
ロココラササの二人は思わず声を上げていた。
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