第19話 はじめての夏休みがやってきた?  オープンキャンパスボランティア編(その1)

 学内看護研究発表会と並行して、夢歌さん達1年生は普通の授業もあった。


 でも、2年生は発表会2日目を午前午後聴講するんだって。


 3年生になったら自分達も発表しなくちゃいけないし、その予行練習の意味もあるんだろうな、と予想していたけど。


 実際に2年生後半から、発表の前段階、研究そのものを実践するための授業「看護研究」が始まるとあとで教えてもらった。


 


 それはさておき。


 


 夏休み前日の金曜日は1時限目に外部講師の授業があり、2時限目は夏休み前のホームルームだった。


 ホームルームなのに、最初は全校で演習ホールで全体集会。


校内で一番偉い、学校長先生から夏休みの決まり事や注意事項、緊急時の対応やなんかの説明を受けた。


 学校で一番偉いはずの学校長先生は、どこかのクリニックだか病院だかの院長先生で、入学式や学校祭で顔を見たきりで、実は夢歌さん、顔も名前も覚えていない。


 


「楽しいことも沢山あると思いますが、事故に遭わないように気を付けてください。そして夏休み明けには3年生は実習、1、2年生は前期試験もありますので、学習も忘れずに。学校は図書室も実習室も開放していますから活用してくださいね」


 


 副学校長先生に釘を刺され、入学してすぐの頃、先輩に言われた言葉を思い出す。


 


『夏休みは、休みじゃないからね』


 


 実はすでにいくつもの教科で夏休みの課題が出されていて、目の前が真っ暗になりかけていた夢歌さん。


 前期試験、それも筆記だけではなく、実技試験もあることを思い出して、本格的に目の前が真っ暗になった。


 沈痛な気持ちのまま、今度は校内の大掃除。


 


 教室の私物もすべて撤去と言われ、机の中を整理する。


 


 夏休みのはじめに、オープンキャンパスが開催されるので綺麗にしておいてね、と整美委員長の3年生に、念を押されていた。


 


 机も椅子も窓も黒板もピカピカに拭いて、お掃除完了。


 


 ようやく、本当のホームルームが始まった。


 


 とはいえ、諸注意はすでに聞いたので、1年生のみの連絡や、夏休み明けの時間割表の配布、追加の課題(!)の提示がされたくらいで終了。


 


 


 


 午後はもう空きコマなので解散なんだけど、このあと先ほど出たオープンキャンパスの学生ボランティアの打ち合わせが予定されていた。


 


 7月始めにボランティアの募集があり応募していた夢歌さんも対象だった。


 


30分くらいで終わるから、すぐに帰れるよう通常の昼休み時間に集まることになっていたので、空腹を抱えたまま夢歌さんは集合場所に向かった。


 


 オープンキャンパスは翌週の金曜日に開催され、前日に準備があるため、細かい内容はそこで改めて説明されるとのことで、この日は役割分担やタイムスケジュールとかが書かれた資料を配布されて、よく読んでくるように指示された。


 


 当日はお弁当やおやつも出るとのこと。


 


 これはお弁当のことは募集案内にも書いてあったし、実は先輩達からも聞いていた夢歌さん。


 


 もちろん、入学前に参加したオープンキャンパスが楽しかったし、そこでボランティアをしていた先輩達がすごく楽しそうで生き生きとして、おまけにとても優しかったから、自分も入学したら同じように受験を考えている将来の後輩候補の皆さんを明るく迎えるお手伝いをしたい! と心密かに決めていたのだけど。


 


 美味しいお弁当が出るので学生に人気が高いボランティアで、のんびりしていると定員が埋まってしまうと聞いて、募集開始時にソッコー応募したのだった。


 


 だから、誰が参加するとか聞いていなかったんだけど、集合場所にいったら、歩くんがいて、ちょっとドキッとした。


 


 まあ冷静に考えたら、何事にも積極的に関わる歩くん。


この手の行事やイベントも同様だろうし(あと、参加者に男子が増えてきているので、ボランティアも男子学生の多数の参加を求めているって、募集案内にも書いてあった)。


 


「あ、あのさ、夢歌ちゃん……」


 


 打ち合わせが終了して、そそくさと自分の教室に戻ろうとした夢歌さんだったけど、いつの間にか出入口の外に待機していた歩くんに進行方向をふさがれるようにしてつかまってしまった。


 


「……あ、……な……何?」


 歩くん、と普段のように口にしようとしたけど。


喉をふさがれたように声が出せなくなってしまい、絞り出すようにして返した言葉がものすごく不機嫌そうに聞こえて、夢歌さん、軽く自己嫌悪。


 


 う、気まずいよぉ……。


 


「……」


「……あ、あのさ!」


 重たい沈黙を破るようにして、いつもは快活な歩くんが、どもりながら同じ呼びかけを繰り返して。


 


「このあとっ、お昼ごはんっ、どっか食べに行かない? あ、お弁当持ってきてるなら、僕も買ってくるから、どっかで一緒にっ!」


「……ゴメン、奈央達と食べにいく約束していて」


 


 勢い込んで誘ってきた歩くんに、断りを入れた夢歌さん。


 そしてそのタイミングで、当の奈央さんが「夢歌ぁ! もう行ける?」と教室から迎えに来た。


 家の用事で今回のオープンキャンパスボランティアには参加しない真央さんだったけど、仲のいいメンバーでランチに行こうと教室で待っていてくれたのだ。


 


「あ、今行く! ……ゴメン、行くね」


「あ…‥」


 


 なかば逃げるようにして小走りに奈央さんの方に行く夢歌さん。


 背中にかぶさる歩くんの戸惑った声も必死で無視して。


 


「九重さん、廊下は走っていけませんよ……って、なんか、邪魔しちゃった?」




 


 先生の口真似をしてからかった奈央さんだったが、後半は少し申し訳なさそうに夢歌さんの顔色をうかがう。


「ううん、大丈夫だよ…‥」


 


 全然大丈夫そうじゃない声で返答して、再び自己嫌悪する夢歌さん。


 


 あんなに楽しみにしていた仲良しメンバーでのランチも、半分上の空で。


 


 何で、あんな態度取っちゃったんだろう……。


 来週、どんな顔をして会えばいいんだろう?


 


 夏休みが始まったのに、モヤモヤして、ため息ばかり。


 


 楽しみだったオープンキャンパスボランティアも、何だか憂鬱になってしまった夢歌さんだった。



 


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いつか山の麓へ~ナースのたまごのつくりかた 看護学生物語~ 清見こうじ @nikoutako

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