七日目 君がいるから俺がいる
ん、ああもう朝か。ついに今日 か。
俺は朝、目を覚ますと死ぬのが今日という事を噛みしめた。
今はまだ何ともないな。体もちゃんと動かせる。
俺はリビングへと向かい朝ごはんを簡単に済ませ、朝の準備を終わらせて学校へと向かった。
「行ってきます」
「おはよー」
「おはよー。りょうちゃん」
「昨日は楽しかったな」
「そうだね~。あの二人も上手くいったし、最高だったよ」
「そうだな。お、先生が来たな。戻るわ」
「うん」
先生がクラスに入ってきて朝のHRが始まった。毎日のようにこの後の連絡をして朝のHRは終わった。
先生はクラスを出ていき、クラスの中は次の授業の準備をする者や友達と喋る者がいた。
俺は先生の後を追ってクラスを出た。
「先生!」
「ん? どうした」
「先生にはいろいろお世話になってたくさん困らせたと思います」
「そうだな。確かに困ったぞ」
「そんな正直に言いますか」
「事実だしなw けど、嫌ではなかったさ。生徒から頼られる、その結果困ることになっても嫌がることはない。むしろ嬉しいもんさ。先生にとって生徒から頼られることが一番うれしいことで大切なことだ」
「そうですか」
「おう」
「先生、今までありがとうございました。たくさん、たくさんお世話になりました」
「どういたしまして!」
「最後にそんな先生にお願いがあります」
「言ってみろ」
俺は先生にこれまでの感謝を伝え、あるお願いをした。
「わかった。お前がそれでいいならそうするよ」
「ありがとうございます」
「ああ。後、早く戻れよ。そろそろ授業始まるから」
「はい!」
そして、先生は職員室に向かっていった。
俺は教室に戻り授業の準備をした。
それからは普通に授業が始まり、俺は最後の授業を楽しんだ。
一限から六限まで何事もなく終わった。
ほんとうに最高の一日だった。なんだろうか、今日という日に心がとても温まった。
今日はいつも通り変わらないようなそんな日だったのに。これまで以上に笑って、これまで以上に楽しかった。
きっと七日前の俺の考え方だったらこんな日々は過ごせなくなったと思う。たくさんの人に支えられて、たくさんの人に救われて。そのおかげで今日がある。ほんとに感謝しかない。
今日という日を過ごさせてくれてありがとう。
帰りのHRが終わり、俺と
だが、俺が家に着くことはなかった。
ドタッ
俺は下校中、何もないところでいきなり倒れた。
あれ、足が動かなくなった。立とうとしても力が入らない。ああ、そうかもうここまでなんだな。だんだん意識もなくなってきたし。もう死ぬんだろう。
他の三人が俺に近寄ってきている中、俺の意識はなくなっていった。
あれ、ここは見たことある天井だ。
「りょうちゃん気が付いた?」
「あれ、陽菜?」
俺は陽菜の方を向こうとしたが体のある異変に気付いた。首は動く。だが、それ以外の部分が全く動かなくなっていることに。
「うん、私だよ。あの後すぐに救急車に来てもらったの」
「そうか」
「
「悪いな。和真」
「けど、もうそろそろお別れなんだよな」
「そうかもな、もう体も動かないし。限界も近いかもしれない」
「なんかほんとに実感がないよ。もうお前と離れ離れになるなんて。これからもバカやらかして楽しく生活できると思ってたのによ」
「そうだよな。俺ももっともっとお前と一緒にいて騒ぎたかったよ。お前がいたから今までの生活が最高なものになったんだから。ありがとな、和真」
「ああ、それは俺も同じだ。お前がいたから俺はたくさん笑えた。俺がだれにも頼れないときお前が最初に声をかけてくれた。それが一番うれしかった。こちらこそほんとうにありがとう」
「お前は本当に最高の親友だよ」
「俺もお前が親友でよかったよ。またな。亮哉」
和真はそう言って由衣と一緒に部屋を出て行った。きっと俺と陽菜を二人きりにしてくれたんだろう。
「なあ、陽菜。手はもう動かせないんだけど感覚だけはまだあるんだ。だから手をつないでくれないか」
「うん、いいよ」
そう言って陽菜は俺の手をつないでくれた。
「陽菜」
「うん?」
「もう我慢しなくていいよ」
俺は亮哉がいた部屋を出て病院の休憩所に行った。
「あれ、先生ここにいたんですか。もう亮哉の意識は戻りましたよ。行かなくていいんですか?」
「そうだな。行きたいっては思う。けど、俺はもうあいつからお別れの言葉はもらってるんだ。それに今は二人きりなんだろ。だったら邪魔するのは悪いじゃねえか」
俺は先生の隣の長椅子に由衣と腰かけた。
「そうなんですね」
「お前こそまだいなくていいのか? いろいろ話したいことはあったと思うが」
「それはそうですけど、なんて言うんですかね。あいつとはこれでいい気がしたんですよ。俺も何となくですけど。あいつには伝えなくても気持ちは伝わってると思うので」
「そうか」
先生は俺の顔を見て席を立った
「男が人前で泣くことは女を泣かせることの次にしちゃあいけないことだ。男が泣いていいのは誰もいない一人の時か女の胸の中って決まってんだ」
「え、」
「じゃあ俺はトイレに行ってくるから」
「は、はい」
先生が角を曲がり見えなくなった瞬間
「え、」
由衣が俺のことを抱きしめてくれた。
「和真君。もういいよ。もういいんだよ」
俺の頭の中は一瞬動揺したがすぐにある感情が溢れ出て来た。
もういいのかな。
「うわああああああ。俺はやっぱりあいつと離れたくない」
「うん」
由衣は俺の頭をゆっくり撫でてくれた。
「これからもずっとあいつと遊んで楽しい学校生活送って、卒業して、いろんなことしたかった」
「うん」
「なのに、やっぱり嫌だよ。あいつと離れるのは、あいつは俺のかけがえのない親友だから」
俺はずっと由衣の胸の中で泣き続けた。
「え、、」
「ずっと俺のために我慢してくれてたんだろ。俺が不安にならないように悲しい感情を全部正面に出さないように過ごして、俺がどうしようもなくなった時、ずっと俺を励ましてくれた。支えてくれた。それが俺はとても嬉しかった。だから陽菜も俺に気持ちを全部ぶつけてほしい」
陽菜はずっと我慢していたんだ。俺に対しての本当の気持ちを...
「もういいんだよ。陽菜」
その瞬間陽菜は俺の胸に飛びついてきた。
「もう我慢しないでいいの? 全部言ってもいいの?」
「ああ」
陽菜は泣き出した。
「私だってりょうちゃんが死ぬのはほんとに嫌。ずっと小学校から一緒にいていきなりお別れなんて。そんなの納得できないよ。これからもずっと一緒にいるつもりだったのに。こんなの悲しすぎるよ」
「そうだな。俺もずっと陽菜といたかったよ。それなのに、こんなことになって... 本当にごめんな」
「んーん。りょうちゃんが悪いんじゃないよ。だから自分を責めないでね。けど、それでもやっぱり悲しいよ。これからもずっと一緒にいて、卒業して、大学は離れ離れになるかもしれないけど、ずっと仲良くしていきたかった。それをすることができないことが本当に悔しい」
「ああ、俺もだ」
「ねえ、りょうちゃん。私は最後までりょうちゃんの立派な彼女で入れたかな?」
「もちろんだ。陽菜がいてくれた。それだけで俺はとても救われた。ずっとずっと何度だって。陽菜っていう存在だけで俺はとても救われた。だから陽菜は俺にとって立派な彼女だよ」
「そっか。ありがとう」
「なあ、この前“俺が死んでもお前を幸せにする“っていう約束の話しただろ。今思い出したんだが、その後にも実はもう一つ約束してたんだ」
「え、あったっけ?」
「ああ、それは・・・」
「うわあああああ。りょうちゃんが車に引かれそうになった~」
「危なかったけどじっさい引かれてないから」
「それでも、それでも~」
「泣くなよ。俺は生きてるんだから」
「けど~。りょうちゃんがいなくなったら私一人だよ。まだ友達もいないから」
「じゃあ俺が他の人と友達になれるようにしてやるよ。俺が死んでもお前を幸せにするよ。俺が死んでもお前が一人にならないように」
「けど、りょうちゃんが死ぬのは嫌だ」
「もしの話だ。俺はお前の側にずっといるよ。まあ、もし俺が死んだらその時は
俺が生きてた時以上に幸せになれよ」
「うん、わかった」
「だから、陽菜には幸せになってほしい。今まで以上に」
「わかった。私幸せになるから。りょうちゃんはずっと見守っていてほしい。私のことをこれからもずっと」
「いいよ。陽菜が幸せになっているのかちゃんと見ておくよ」
「約束だよ」
「ああ、約束だ」
「うん!」
「そろそろかな。もう体中の感覚がなくなってきた。もう喋ってるのも少し限界かもしれない。だからそろそろお別れだよ」
「わっかってもやっぱりつらいよ」
「陽菜。陽菜には笑顔で見送ってほしいな。最後に笑った顔が見たいよ」
「わかった。りょちゃんいままでありがとうね。大好きだよ」
「俺の方こそありがとな。俺も陽菜が大好きだよ」
そして俺は静かに息を引き取った。
病室では泣き声が部屋中で響いていた。
「よお、少しは落ち着いたか?」
「そうですね。まだ悲しいですけど。少しは実感が湧いてきました」
「そうか。実は亮哉から手紙を預かっててな。後でお前に渡してくれと言われたよ」
「え、」
先生はバックの中から一通の手紙を取り出し私に渡した。
「じゃあ俺は席を外すわ」
そう言って先生は部屋から出て行った。
「りょうちゃんからの手紙...」
私は手紙の封を開き中身を取り出した。
陽菜へ
今まで本当にありがとうな。俺が今まで困っていた時も、悲しんでいた時もずっと側にい
てくれて。俺は本当に助かったよ。何気ない日々がとても楽しくなったのは陽菜がいてくれ
たからだと思う。陽菜がいなかったら俺はすぐにだらけてダメな方に進んでしまってたな。
それを陽菜がすぐに修正してくれて俺はここまでやってこれたよ。梨花のことだってそう
だな。俺がもう駄目だと未来に諦めえてたのを支えてくれた。それで俺は最後まで生き抜く
ことができた。陽菜。君がいるから俺がいることができたんだ。ありがとう。感謝は本当に
しきれないと思う。ずっとずっとありがとうな。大好きだよ。陽菜。
私はこの手紙を読んで流れていた涙をぬぐった。
「私もりょうちゃんが大好きだよ。これからもずっと見守っててね。ありがとう」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「じゃあ、ママにとってたいせつなひとがここにいるの?」
私は娘の
「そうだよ~。ここに眠ってるの」
「じゃあ、おはかきれいにしないと!」
「はなちゃんえらいね。ありがと」
「えへへ」
けど、墓はそこまで汚れていなかった。よく見るとお花もきれいにしてあって、線香を入れるところには三本の線香が刺さっていた。
そこまで掃除をするところもなかったので私と花はお墓に水をかけて私たちの分の線香を付けた。
私と花はしっかり両手を合わせてお参りをした。
「りょうちゃん。私は今とても幸せだよ。花も生まれてきて、ここまで育ってくれた。ちゃんとしっかりしてるし。思った以上に娘の成長って速いんだよ。毎日毎日がわからないことだらけだけど私たちはとっても仲良しで幸せだよ」
「ママもそのたいせつなひとにおはなししてるの?」
「そうだよ~ ママはねその人から幸せになってねって言われたからちゃんと私は幸せだよって伝えてるの」
「ふ~ん」
すると、いきなり
「えい!」
花から抱き着かれた。
「え? どうしたの?」
「ママのたいせつなひとへ。はなはねママのことがだいすきだよ。いっつもこうやってだっこしてもらってるんだ」
「花...」
私は花のしてくれたことに驚いたが同時にとても嬉しかった。
りょうちゃん私はちゃんと幸せだよ。これからも天国で私たちを見守っててね。
「さ、帰ろっか」
「うん」
私たちは立ち上がり道具を直しに行った。
「今日の夕飯はハンバーグにしよっか」
「やったー! ママのハンバーグだいすきだからうれしい」
「じゃあ腕によりをかけて作らなきゃ」
—よかった
「え?」
私は後ろから声が聞こえた気がして振り返ったが、そこには誰もいなかった。
そっか...
「ママ~?」
「あ、ごめん。ごめん」
私は前を向き花と歩き出した。
「そうだ、花ちゃんにママの大切な言葉教えてあげよっか」
「え、なになに~?」
「その言葉はね~」
君がいるから俺がいる―(完)
君がいるから俺がいる 縦槍ゴメン/高橋悠一 @tateyari
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