六日目 大切なもの

 朝の光が部屋の窓から差し込み俺は目が覚めた。ベッドにはすでに陽(ひ)菜(な)の姿はなかったのでそのまま起きて、


 「おはよう、梨花りか


 俺は梨花との写真に挨拶をしてリビングへと向かった。


 「おはよー、りょうちゃん」


 「おはよう、陽菜ひな


 陽菜はキッチンの方で朝ごはんを作ってくれていた。


 「ありがとな」


 「全然いいよ。盛り付けたやつから机に並べてほしい」


 「おう」


 俺は陽菜に言われた通りに机の上に並べ、席に座った。陽菜も準備を終えて席に座った。


 「じゃあ」


 「「いただきます!」」


 「今日は十時からだっけ? 集合」


 「ああ、そのはずだよ。今が七時だから、まだ余裕があるだろ」


 「え、もうそんな時間? 急がなきゃ」


 「そんな急ぐほどの時間じゃないだろ」


 「バカ、女にはね、いろいろ準備することあるの」


 「そうか」


 そう言って陽菜はごはんを急いで食べた。


 「ごちそうさま。じゃあ私一回家に帰るから。迎えに来てね」


 「ああ、わかった」


 陽菜は部屋を出て家に帰っていった。陽菜の家は俺の家から近いこともあり、すぐに着く距離である。


 俺もしばらくして食べ終わり、食器などの片付けをした。


 俺もそろそろ準備するか。


 俺は洗面所に行って朝の準備をして、部屋に行き着替えて準備を終わらせた。


 「そろそろ行くか」


 時計は九時を回り、集合時間まであと一時間だった。


 「行ってきます。父さん、母さん  梨花」


 俺は少しだけ感傷に浸り、家を出て、陽菜の家に向かった。





 ピンポーン


 俺は陽菜の家に着きインターンを鳴らした。


 『少しっ待ってて、もう少しで終わる』


 「わかった」


 俺は家の前で数分だろうかそれくらい待つと、


 「お待たせ。ごめんね。待たせて」


 ドアを開けて陽菜が出て来た。髪をキレイに巻いて、少しだけ化粧もしているのかなんて言い表せばいいのだろうか、ただ


 「かわいい」


 「え、今なんか言った?」


 「いや、言ってないよ」


 今の声に漏れてたか。危な。


 「絶対なんか言った~」


 「そ、そんなことより行くぞ」


 「は~い」


 俺と陽菜は手をつないで駅まで向かった。


 駅に行くまでの途中で俺は


 「陽菜、頼みたいことがある」




 駅には集合時間五分前に着いた。そこには、すでに和真かずま由衣ゆいの姿もあった。


 「お待たせ~」


 「あ、陽菜ちゃん。それに亮哉君も。おはよ~」


 「おお、亮哉に陽菜。おはよ」


 「おはよ~」


 「亮哉君。聞いたよ。妹さんの事。その、、」


 「心配かけて悪いな。由衣。でも、もう大丈夫だから」


 「ああ、そんな気にすることないだろ。な」


 「お前は、少しは心配しろ」


 「してるって」


 「「はははははは」」


 「じゃあ改札に行こっか」


 「うん、あ、待って。私トイレ行きたい。由衣ちゃん行こ。二人は先行ってて」


 「分かった」


 陽菜と由衣は駅内のトイレに向かって行った。


 「じゃあ俺らも行くか」


 「待ってくれ」


 俺は改札に向かおうとする和真を止めた。



 俺にはやらなきゃいけないことがある。絶対に伝える。俺は逃げたりしない。もう何も後悔しないために。


 「実は和真、お前に話さなきゃいけないことがある」


 和真は何かを察したような顔つきに変わった。


 「俺は、」


 よし、言おう。


 俺は唾をのみ、


 「俺は明日で死ぬ。つい先日、お医者さんからそう言われた。いままで伝えられなくてごめんな」


 本当のことを伝えた。


 「・・・」


 「なんでも治療は不可能な病気らしい。陽菜には伝えたが、お前らには伝えられずにいた。すまない」


 和真は無言で俺の方に近づいてきて


 「ふん!!」 


 「え、」


 俺は和真にいきなり殴られた。


 「言うのが遅えぇよ」


 「ごめん」


 「そういう大事なことはもっと早く言えよな」


 「ごめん」


 「お前のことだから俺らに心配させないためにとか思ってたんだろうが、俺はお前のことが心配だったよ。ここ最近、お前がいつもの様子じゃなくて」


 「ごめん」


 「ちゃんと言えよな。俺らは友達じゃねえか。お前が困ってることがあるなら相談に乗ってやるし、お前に嫌なことがあるなら愚痴相手になってやれる。だから、そういう事は早めに言え」


 「ごめん」


 和真の顔には涙の粒が出ているように感じたが、


 「けど、ちゃんと言ってくれてありがとな」


 スッキリしたような顔にもなっていた。


 「うん」


 俺は嬉しかった。和真に殴られはしたものの、ちゃんと受け止めてもらえたことが何よりうれしかった。


 「和真。この後遊ぶってのに悪かったな。けど、これは先に言わなきゃいけないって思ってたから先に言わせてもらった。この事を忘れて遊びを楽しんでくれって言っても無理だと思う。だから、」


 和真はこの話を聞いて少なからず俺のことを気にするだろう。俺はそんなことは望んでない。和真だって今日告白する予定だったはずだ。それを俺のせいで壊したくない。だから、


 「俺にとってもお前らにとっても今日という日が最高の思い出になるような大切なものにしたい。だから、今日が最高な日になるように、みんなで楽しもう」


 「ああ」


 和真はスッキリした顔で返事をしてくれた。


 ありがとな。ほんとに。


 「そうと決まったら早く行こうぜ。もうそろそろ電車も出るしな」


 「ああ、行こう!」


 俺は和真の後を追い改札の中へと向かった。


 「おい、もう出るぞ」


 「ごめん。トイレ混んでてさ」


 陽菜と由衣が遅れて駅のホームにやって来た。由衣の目には涙を拭いたような跡が残っていた。


 「行こうか」


 先に和真と由衣の二人が乗り、俺と陽菜も後に続こうとした。


 「陽菜、ありがとな。頼み聞いてくれて」


 「うん、いいよ。由衣ちゃんには私から伝えといたけど、ちゃんと和真君には伝えられた?」


 「ああ、ちゃんと伝えたよ」


 「そっか。よかった」


 「お前ら何してんだよ。早く乗れよ」


 「おう」 「はーい」


 俺と陽菜は電車に乗り込んだ。そして、電車は走り出した。




 電車は目的の駅に着き、俺らはそこからバスに乗り換えて目的地のイエローランドに向かった。




 「つ、着いた~」


 「なんか疲れたな」


 「何言ってんの。これからたくさん遊ぶのにもうへばってたら意味ないよ」


 「そうだな。失敬。失敬」


 俺らはチッケトを購入し、中へ入った。


 「さて、まずは何に乗ろっか」


 「そうだなぁ、最初はゴーカートとかがいいんじゃないか?」


 「そうだねぇ。うーん。由衣ちゃんと和真君はどう思う?」


 「私もそれでいいと思うよ。後は追々考えるとして」


 「・・・」


 「和真君?」


 「ああ、悪い。トイレ探しててよ。さっきから実は我慢してんだ」


 「そゆことね。トイレならあっちにあるよ」


 「悪い、行ってくる」


 「俺も。 え、」


 俺も一緒に行こうと思ったが、陽菜から制止させられた。


 「今は一人にしてあげよ」


 と耳の近くで言われた。


 やっぱり和真もつらいよな。いきなり死ぬなんて事実伝えられて。


 「じゃあ、私たち三人でその後のこと考えよこっか」


 「そうだね。私は次これ乗ってみたいかな~」


 「いいね」


 俺ら三人はこれからの計画を考えた。







 くそっ! よりによって明日かよ。いきなりすぎだろ。なんでなんだよ。なんでこんな、こんなことになるのかよ。今までの暮らしがいきなり終わるのかよ。最悪だろ。そんな気はしてたけど、やっぱりそれでも、それでも   親友が死ぬのはつらいな。






 

 あー誰も知り合いいないな。


 「ねえ、お前ってどこの小学校出身なの?」


 俺は前の席の人からいきなり話しかけられた。


 「え、俺? 俺は西小学校」


 「あーそっちか。ここ、北小か東小が多いからよ。西小って珍しいな」


 「そうなんだ。周り知ってる人他に誰もいなくて。心細かったんだ」


 「じゃあ俺が最初の友達だな。これからよろしく。えっと和真(かずま)君だっけ?」


 「和真でいいよ」


 「じゃあ俺の事も亮哉って呼んでくれ。よろしくな和真」


 「ああ、亮哉こちらこそ」


 俺はさし伸ばされた手を握り握手をした。







 「なあ、ここで陽菜待ってて、来たとこ脅かそうぜ」


 「お、いいな。やろうやろう」


 俺と亮哉は教室のドアの近くで待ち陽菜が来るのを待った。


 「お、来た。来た」


 「よし、見つからないようにな」


 亮哉が陽菜を見たことを確認し俺らは息を潜めた。


 コツコツと足音が近くまで聞こえて来た。


 よし、行くぞ~


 俺は出る姿勢を取り、出ようとした。


 「おい、止まれ」


 「わ!」


 「うわああああ」


 ドタッと地面に尻をつく音が聞こえ、俺は大成功だと思って、教室の外を覗くとそこには、


 陽菜ではなく斎藤さいとう先生の姿があった。


 あ、やべ


 「お前らーーーー」


 俺らは怒られて今後こんなことするなと注意された。


 「お前なちゃんと来たって言ったよな」


 「お前こそちゃんと確認してから飛び出せよ」


 「「く、ははははははははははは」」


 やっぱこいつといると楽しいな。普通の日常が特別なものに感じられる。まじで




 最高だ!








 俺はトイレの洗面所で泣いた。少しの間だが亮哉との思い出に浸りながら泣いた。


 バシャバシャと顔を洗い。俺は涙の跡が見えないようにした。


 「よし、戻るか」


 俺はみんなの元へ戻った。







 「お、来た。来た」


 「悪りい。遅くなった」


 「遅せえよ。バカ。もう何するか決めたから行くぞ」


 「おう」


 俺たち四人は最初に乗ろうと思っていたゴーカートへと向かった。


 「きゃああ。ぶつかる。ぶつかる。ハンドルしっかりしてよ」


 「これ地味にむずいんだって。 やばい。やばい」


 俺と陽菜二人でゴーカートに乗っていた。一方その後ろでは、



 「和真君。運転うまいね。運転とかしたことあるの?」


 「いや、そんなことないけど。俺でもわかんないけどマリオカートめっちゃしてたからかな」


 「それ、関係ないでしょw」


 「そ、そうだよな。ははは」


 それから二人っきりになる機会はたくさんあったが特に関係が発展することはないままお昼になった。


 「おい、まだ告ってないのかよ」


「お、俺だってちゃんと告ろうと思ったさ。けど、言おうと思っても、なんかこう。のどに詰まる感じがするんだよ」


 やっぱみんなそんな感じになるんだな。


 「俺が言えた義理じゃないがそういうのは伝えるって思っても難しいと思う。だけど勇気を出してちゃんと伝えるのが一番大切だと思う。だから、頑張れよ」


 「わかってるんだけどな~」


 「べたかもしれないけど最後に観覧車に乗るからその時に伝えてみたら?」


 「観覧車か~ 頑張ってみるよ」


 俺らは昼飯を食べる場所でちょうど男子だけになっていたのでこれからの話し合いをした。女子はというと


 「お待たせ~ 買ってきたよ」


 「ありがとう」


 「りょうちゃんがこれね」


 陽菜と由衣はお昼ご飯を買ってくれていた。俺らは先に席取りというわけだ。


 「じゃあみんな座ったな。それじゃあ」


 「「いただきます」」


 俺らは昼飯を食べながらおしゃべりして過ごした。


 そして、昼飯を食べ終わり、次のアトラクションへと向かった。


 俺は陽菜と並びその前に由衣と和真が進んでいた。


 「まだ、あいつらくっついてないんだと」


 「そうみたいだねぇ」


 「陽菜から見てあの二人はうまくいくと思うか?」


 「うーん。もう言っていいって許可もらってるから言うけど実はね由衣ちゃん結構前から和真君のこと好きだよ。なんでも、一年くらいかな片思い中だって」


 「え、まじかよ。やば、両想いじゃん」


 「そうなんだよねぇ。それで私にも協力してほしいとか言っててさ、今日のこれ誘った後とかめっちゃ喜んでたからね」


 「まじか。ならさっさとあの二人くっつけばいいのに。何ごちゃごちゃしてんだか」


 「由衣ちゃんはああ見えて結構奥手だからね。多分自分からはいけないと思う。だから、和真君が行くしかないって感じ」


 「そっか。和真頑張れよ」



 「へくしゅん」


 「和真君、風邪?」


 「いや、そんなことないよ」


 その後、俺らはアトラクションを何個か乗ってベンチに腰かけていた。


 「一通りアトラクション回ったから次はジェットコースターに行こうぜ」


 「まじかよ。俺疲れたから少し休憩」


 「私パスで」


 「私は大丈夫だけど、二人が、」


 「なら、二人で行ってきなよ」


 「確かに俺らは休憩しとくからよ」


 「え? あ、えっとどうする? 由衣」


 「じゃあ行こっか」


 「おう」









 やばい。ほんとにいつ告ろ。多分今日行かなかったら絶対この後できないと思う。だから今日絶対に成功させてやる。


 「あ、順番来たみたいだよ。行こ」


 「おう」



 えーどうしようかな。マジ悩む。


 「ねえ」


 「は、はい」


 「なんで今日は誘ってくれたの?」


 「そ、それは、、その」


 「ごめんね。なんか変な質問で。けどね、私は今日誘ってもらって嬉しかったよ」


 「え、今なんて?」


 俺は最後に行ったことが聞こえず聞き直そうとしたがジェットコースターは


 「きゃああああああああああああああああああああ」


 「うわあああああああああああああああ」


 進んでいった。


 ジェットコースターは一周し、俺らはジェットコースターから降りた。そして、二人のところに戻ろうとした。


 「いやー楽しかったね」


 「そうだな」


 今日はなんで誘ってくれたの?


 「由衣!」


 「ん?」


 「さっきの質問答えてないと思って」


 「え、」


 これが正解なのか不正解なのか俺にはわからない。告白するってなったらムードとか大切っていうけど俺には分らん。俺はこの状態をどうにかしたい。変えたいそう思うから俺は伝える。俺の思いを。


 「俺は由衣。お前のことが好きだ。ずっと前から好きだった。だからその、俺と付き合ってほしい」


 俺は好きという事、付き合ってほしいことすべてを伝えた。


 「ダメかな?」


 俺は顔をあげ由衣の顔を見た。由衣の顔は赤かった。


 「嬉しい。私も和真君のことが好きだった。それこそずっと前から。だから、私でよければお願いします」


 「よっしゃー!」


 俺は気持ちが抑えきれずガッツポーズをした。


 「あ、ごめん」


 「ふふ、いいよ。さ、行こ。二人が待ってるから」


 「そうだな」


 俺は一緒に二人の元に戻った。






 「あ、来たよ」


 「お、ほんとか」


 「あ~もしかしたら上手くいったみたいだよ」


 「え、なんで   あ~なるほどな」


 二人は手をつないで戻って来た。


 「お待たせ~」


 「じゃあ最後に観覧車行こうか」


 「そうだな」


 俺ら四人は観覧車に向かって互いの恋人と手をつなぎ歩いて行った。


 そして、二人きりの空間をそれぞれ観覧車で過ごした。





 「いやー今日は楽しかったな」


 「そうだね」


 ほんとに楽しかった。最後にみんなとこうしてして遊んで最高だった。今日は俺にとって大切な思い出になった。ありがとなみんな。


 「お、バスも来たな。帰るか」


 「おう」


 俺たちはバスに乗りここに来たようにして駅まで帰った。


 「じゃあ私たちはこれで」


 「うん、またね」


 「じゃあな和真(かずま)。今日はありがとう」


 「おう、またな」


 「ばいばーい」


 俺と陽(ひ)菜(な)は由(ゆ)衣(い)と和真(かずま)と別れ一緒に歩きだした。


 「あの二人ほんとにうまくいってよかったね」


 「そうだな。何気にあの二人なら長続きしそうだし」


 「だね~」


 あの二人はお似合い同士だと思うし。結構続くだろ。


 俺はあの二人のことを応援しながら今日のことを振り返り家に帰っていった。


 「じゃあ、またね」


 「おう」


 「その、なんかあったら呼んでね。すぐに行くから」


 「ありがとな。今日はいろいろ楽しかったよ。じゃあな」


 「うん!」


 俺と陽菜は別れそれぞれの家に帰っていった。



 「ただいま~」


 俺は家に帰り、簡単にだが夜ご飯を食べた。


 この家とももうお別れなのか... 最後にしっかり掃除でもするか。


 俺は今まで暮らしてきたこの家に感謝しながら家の済み済みまで掃除をした。


 そのご夜も遅くなったので風呂に入り自分の部屋へと向かった。


 「ふうー。やっとか。なんだかんだ言って早かったな。けど、明日までって言われたけど明日のいつなんだろうな」


 俺はいつ死ぬのかと考えていた。


 そして、俺はあることを考えて机に向かった。



 「よし、じゃあ寝るか」


 俺はやることを終えて眠りにつこうとベットに入った。


 きっと俺は死んでも今日の事これまでの事を忘れないだろう。今までの楽しい思い出が、何気ない日常が物という形あるものはないけれど、そのすべては俺の心に入っている。


 なんだろうか心が嬉しいような、暖かいようなそんな感じだ。


 きっと今までの思い出が、何気に日常が、そして、和真(かずま)や陽(ひ)菜(な)っていう存在が




 俺にとっての





 “大切なもの”なんだろう。

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