五日目 側にいてくれてありがとう 後編

「はぁ、はぁ。やっと着いた」


 私はりょうちゃんの家まで全速力で向かったこともあり、来るのにそこまで時間はかからなかった。私は家のインターホンが鳴らした。けど、何の音沙汰もなかった。


 りょうちゃんどうしたのかな? そりゃあそうだよね。ずっと一緒にいた人、たった一人の家族。そんな人を失ったんだから


 私はりょうちゃんの事を心配しながら家のドアに手をかけた。  ガチャ。


 あれ、開いてる。


 「りょうちゃんいるー?」


 私は家のドアを引くと鍵は掛かっておらず、ドアは普通に開いた。私はドアを開けたまま中にいるであろうりょうちゃんに向かっているかどうか聞いたが、全く返事はなかった。


 「もう。 入るよー」


 そう言って私は中に入り、りょうちゃんの部屋に向かった。


 何してんのかな、、返事全然ないし...寝てるのかな。


 私は部屋の前まで着き、りょうちゃんの部屋のドアに手を掛け、ドアを開いた。


 「え、」



 部屋の中で見た光景が私には信じられなかった。







 死のう そう決めた。もうどうでもいい。どうせ死ぬなら今死んでしまおう。


 俺の心は絶望しかなかった。喪失感に覆われて全てがどうでもいいと思った。もう生きることに何の希望も持てなくなっていた。


 死ぬって言ってもどうやって死のう。ここは二階だから飛び降りても死なないだろうし。


 ピンポーン


 やっぱり首を吊って死ぬのがいいのかな。けど、部屋には縄上のものを引っ掛けるところはないし。


 りょうちゃんー


 どうしようか


 入るよー


 そうだ、、カッターで手首切れば死ねるかな、


 そう思い俺は机にしまってあるカッターを取り出した。


 死のう。


 俺はカッターの刃を出し手首へともって来た。


 あれ、なんで手 震えてるんだろ。もうどうでもいいのに。死んでしまいたいそう思ってるのになんでこんなに手が震えてるんだよ。


 俺は震えた手を止めようと少し深呼吸をし、手を切ろうとした瞬間


 バタンとドアが開く音が聞こえた。


 「え、」


 「ひ、陽菜ひな


 「りょうちゃん何してんの!」


 そう言って陽菜は俺が持っていたカッターを振り払い俺の前に座った。


 なんで、陽菜がここにいるんだよ。今日は


 「学校じゃないのか?」


 「もう終わったよ。そんなことより、何してんの!。 手にカッターなんか持って!」


 「もう疲れたんだよ。梨花りかが死んで、俺にはもう何もない。梨花(りか)がいてくれた、いままでずっと生活を一緒にしてきた。なのにいきなり死んでそれがいきなり終わった。だから、生きることに疲れたんだ」


 「なんでそんなこと言うの? 確かにりょうちゃんにとって梨花ちゃんは大事だったかもしれない。んーん。ずっとずっと生活してきて大切な存在だったと思う。けど、私は? 私だって梨花ちゃんには敵わないけど長い間りょうちゃんと一緒にいた。側にいた。彼女としてりょうちゃんの側で支え続けた。私はりょうちゃんに生きててほしい。例えあと二日だとしても、最後まで生きていてほしい。そう思ったらダメかな?」


 そうだよな。俺には陽菜がいる。小学校からずっといてくれた。俺の大切な人。けど、それでも、


 「それでも限界なんだ。陽菜にはたくさん支えられた。ついこの間だってそうだ。けど、それでももう疲れたんだよ。それだけ梨花の存在は俺にとって大きいんだ」


 「それでも生きてよ。生きて最後まで生き抜いてほしい」


 「陽菜にはわかんないよ! 俺の気持ちなんて!」


 「わかんないよ」


 「だったら、ほっ、」


 パチンッ!


 部屋中に大きな音が鳴り響いた。その音は陽菜が亮哉りょうやの頬を叩く音だった。


 え、


 俺は戸惑った。叩かれたほっぺたを抑え呆然としながら陽菜の顔を見た。陽菜の顔には涙が流れていた。


 「だから話してよ! 全部話してよ。亮哉が思ってること全部私に吐き出して! 私は両親を失ったわけでもないし、大事な人を失ったことがあるわけでもない。だから亮哉の気持ちをわかることはできない」


 俺は心のどこかが少しだけ揺らいだように感じた。


 「けど、亮哉に寄り添ってあげることはできる。今までつらい時、悲しい時寄り添ってきたように一緒にいてあげることができる。亮哉のつらい気持ちも、悲しい気持ちも私に共有してよ。亮哉がつらくて、悲しい思いをしていて、もう疲れたって思っているかもしれない。それでも、それでも一人で抱え込まないでほしい。側に寄り添って支えさせてほしい。 彼女として。 ね?」


 そう言われた瞬間俺の中で何かが溢れ出て来そうに感じた。


 もう疲れた。



 けど、陽菜に全部吐き出したら何か変わるかな。もうつらい思いしなくていいのかな。死ぬ以外に楽になれるのかな。


 俺は悩んでいた。このまま死ぬのが正解なのか、全て俺の気持ちを吐き出すことが正解なのか分からなかった。


 ただ一つ俺が思っていることは


 楽になりたい。




 お兄ちゃん、大好きだよ。




 その瞬間、俺の心からいろんな感情が溢れ出来た。




 「うわあああああああ」


 俺は陽菜の膝に顔をうずめて泣き出した。もうすべて吐き出そう。そう思った。


 「俺は、ずっと 梨花に、梨花に支えられてきた。お父さん、お母さんがいきなりな死んで、俺に家族は梨花だけになって 最初は俺が支えなきゃって思ってたのに。なのにいつの間にか俺が梨花から支えられていた」


 「うん」


 陽菜は俺の頭に手をのせて俺の話を聞いてくれた


 「俺はそんな梨花に何も恩返しできてない。いっつも迷惑かけてばかりだった。こんな俺でも梨花は大好きって言ってくれた。なのに なのに、梨花は、梨花は、、死んでしまった」


 「うん」


「それに梨花に伝えなきゃいけないことも伝えられなかった。たった一人の家族なのに隠し事をしてしまった」


「うん」


 「ちゃんと俺はもうすぐ死ぬってそう伝えるって決めたのに、結局伝えることができなかった」


 「うん」


 「だから、もうどうでもいいって。全部どうでもいいって。そう思った。だから、死のうって思った。もうあと二日で死ぬから。死んでしまおうって思った」


 「うん」


 「けど、それを陽菜が止めてくれた。俺には陽菜がいるって気づかせてくれた。だから俺は勇気がもらえた。死ぬ以外の方法を考えることができた」


 「うん」


 「こんな俺 最悪だよな。梨花が死んで周りが何も見えなくなって。陽菜っていう大切な存在がいるのに、それを無視して楽な方に逃げようとして...本当に最悪な人間だよ」


 「そうだね。確かにりょうちゃんがしようとしてたのはよくないと思う。けど、亮ちゃんの苦しみを渡しに吐き出してくれたから私はりょうちゃんの側に寄り添うことができる。話し相手になってあげられる。私はりょうちゃんがちゃんと気持ちを吐き出してくれてうれしく思うよ」


 「陽菜」


 「たとえあと二日で死ぬとしても私はりょうちゃんの側にいたい。りょうちゃんの彼女でありたい。私がりょうちゃんの心の支えになってあげたい。そう思うよ」


 俺は嬉しかった。俺のこと心配してくれる、俺のことを大切に思ってくれる人がいるだけで俺はとても嬉しかった。


 「陽菜」


 「うん」


 「こんな俺でも、、あと二日だけ、 陽菜の彼氏でいていいですか」


 「うん! 大好きだよ。りょうちゃん」


 「ありがとう。 俺も陽菜が大好きだ」


 俺は心が満たされたように感じた。梨花を失ったことによる心の穴が、その事実は絶対になくならないが、その穴を埋めてくれるようなそんな気がした。


 「本当に ありがとう」







 俺は眠っていたのか部屋で目が覚めると陽菜の姿はなかった。俺の体は自然と軽く感じた。すると、下からなんだかいい匂いがしたので俺はリビングへと向かった。


 「あれ、りょうちゃんおはよう」


 「ああ、うん」


 リビングに着くとキッチンの方には陽菜が料理を作ってくれていた。もうすでに出来上がっている料理もあるのか机に並べられているものもあった。


 「どうしたんだよ、これ」


 「りょうちゃん疲れたのか寝てたから夕飯作っとこうかなって」


 「そういうことか、ありがとうな。けど、陽菜は家に帰らなくていいのか?」


 「ああーえっと、私、ここに泊まるから」


 「え、」


 「さっきね、りょうちゃん寝てる時、少しうなされてたんだ。それで、まだ側にいてあげたいなって」


 「そういうことか」


 陽菜は陽菜なりに俺のことを心配してくれてるのか。本当に


 「あありがとな」


 「うん。さあ料理も出来たし食べよ」


 「ああ」


 そう言って俺は席について陽菜とご飯を食べた。その時間は今まで以上に幸せに感じた。


 その後、ご飯を食べ終わった俺たちは食べ終わった食器を片付けていた。すると、


 ピンポーン


 家のインターホンが鳴った。


 「誰かな?」


 「俺が出てくるよ」


 時間も八時くらいになっていたのでいったい誰だろうと思いドアを開けた。


 「どちら様でしょうか」


 見ると、そこには二人の少女が立っていた。よく見ると制服はうちの高校のものだった。


 「えっと、梨花ちゃんのお兄さんでしょうか」


 「はい、そうですけど」


 「私達、学校で梨花ちゃんの友達なんです。実は渡したいものがあるんですけどいいでしょうか」


 「ああ、いいけど外寒くないか? よっかたら家に入ってくれ」


 そう言って俺は二人を家に案内して、リビングのソファに座らせた。俺と片付けが終わった陽菜も向かいのソファに座り話を聞いた。


 「で、渡したいものって?」


 「これ、梨花ちゃんのバックなんですけど、、事故があった日の後、担任の先生が預かっていたんです。けど、先生は今日午後から出張だったそうで、斎藤(さいとう)先生が持っていこうとしてたんですけど、私たちが割って入って持っていくと言ったんです」


 「そうか、ありがとうな。わざわざここまで」


 「それで、その、、バックの中。見てもらってもいいですか」


 「ああ、別に構わないが」


 そう言われ俺はバックの中を確認した。するとそこには


 「小さな箱と、これは、、手紙?」


 「はい。それなんですけど、実は、、」






 「梨花ちゃんそれなーに?」


 「うわあああ、びっくりした。え、もしかして見た?」


 「見た。え、もしかして彼氏でもできたのかな?w」


 「違うよ。もうほかの人には内緒にしてよね。これはお兄ちゃんへの差し入れみたいなもん」


 「きゃあああ、兄妹ラブラブとか熱いねえ」


 「別にそんなんじゃないよ。もうううう、からかわないでよ」


 「ははは、ごめん、ごめんって」







 「それ梨花ちゃんからだそうです。昨日渡す予定だったらしいんですけど、あんなことがあってしまったので、差し出がましいかもしれなかったんですけど私たちが代わりに持ってきました」


 「いや、届けてくれてありがとうな。中身みてもいいか」


 「それはもちろん、気にしないでどうぞ」


 俺は箱の中身を見た。中にはエナジードリンクが入っていた。


 「エナジードリンク?」


 と不思議に思いながら手紙の方に目を向け中身を見た。





 お兄ちゃんへ。お兄ちゃん最近元気なさそうにしてたから。これあげるね。これ飲んでちゃんと元気出すこと。わかった? お兄ちゃんが元気になってくれなきゃ私が困るんだからね。お父さんとお母さんが亡くなって私には頼れる人がお兄ちゃんしかいなかった。それから私はお兄ちゃんに支えられてばっかりで、何も恩返しできてなかった。これが全部ってわけではないけどこれからさきたくさん恩返ししていくからちゃんと元気になって私のかっこいいお兄ちゃんでいてよね。ずっとありがとうね。そして、これからもよろしくね。大好きだよ。お兄ちゃん。





 俺は嬉しかった。梨花がこんな風に俺のことを思ってくれていることに。とても嬉しかった。


 俺の方こそお前に支えられえてばっかりなのに。なんだよ、もう。


 俺の目に大粒の涙が流れた。





 ありがとうな、梨花。






 「二人ともありがとうな。これを届けてくれて。俺にとって最高のプレゼントだ」


 「いえいえ、私たちは当然のことをしただけです。では、私たちはこれで」


 そう言って二人は席を立った。


 「ああ」


 俺と陽菜も席を立ち、玄関まで行き


 「では、さようなら」


 「おう、気を付けてな」


 二人を見送った。


 「よかったね」


 「ああ、本当にうれしい」


 「じゃあ私先にお風呂に入ってくるから」


 「うん、行ってらっしゃい」


 陽菜は風呂場へ向かっていった。そして、俺は玄関にしゃがみ込み


 「う、うう、梨花、梨花。いままでありがとな」


 泣いた。



 陽菜が風呂から上がったので俺も風呂に入り、上がった後は、俺の部屋に行き二人で過ごした。


 「ふうー。少しはスッキリした?」


 陽菜は俺のベットに寝っ転がながら聞いてきた。俺はというと椅子に座った状態だった。


 「ああ、楽になったよ。陽菜のおかげで救われた感じだ。多分陽菜がいなかったらもう俺はダメだったかもしれない。だから、ありがとな」


 「うん、私は彼女として当然のことをしたまでです!」


 「なんだよそれw」


 「「ははははははははははは」」


 しばらくの間、俺たちは楽しくしゃべり続けた。


 「けど、あと二日かー。早いね」


 「まあ、まだ実感ないけど。楽しく生きたいな」


 「そうだねぇ」


 ああ、俺は陽菜にたくさん救われたな。ずっと支えてくれた。ほんとうに助かったよ。


 「陽菜!」


 「きゃっ!」


 俺は陽菜のいるベットにダイブした。


 「しばらくこのままでいさせてくれ」


 「うん、いいよ」


 そう言って陽菜は俺を抱きしめてくれた。


 「陽菜本当にありがとな。今までずっと」


 「もう、なによ」


 「陽菜」


 「うん」


 「ずっと、ずっと」


 ああ、俺は陽菜が大好きだ。感謝しきれないほど感謝している。本当に大好きだ。





 


 「側にいてくれてありがとう」

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