大昇〈食屍鬼(グール)〉後篇 結び その二
一九一九年七月 長野県重井沢 外吮山頂上
◇
楽しそうに武悪の遺骸を拾い集める嘯吹を尻目に、翁は媼に指示を出す。
「媼サンハ、天芭 隊長ト中将サンノ治療ヲ御願イシマスネ」
「解ったよ翁さん。
はあ、それにしても酷くやられたもんだ。
確かに、この数相手じゃ天芭 隊長もきつかったろうね。
嘯吹さん、凍光法をこっちに回しておくれ」
「もう、媼が自分でやってくれぷ~ん。
めんどくさいぷ~ん」
「あたしゃもう年なんだ。
少しくらい手伝ってくれてもいいだろうに。
それに、あんたは術の練習も必要だよ。
後で武悪さんの死骸集め手伝ってやるからこっち来な」
「解ったぷ~ん。
やればいいんでしょやればぷ~ん。
そうれ、ぷぷんぷ~~ん♪」
老齢の女声で嘯吹を
自身は薬師如来・平癒法、韋駄天・神行法の三密加持を行ない、天芭 大尉の火傷治療を開始した。
「流石は天芭 隊長。
毒素が広がる前に傷口を綺麗に焼いてるね。
〈ミ゠ゴ〉による侵食はなさそうだ。
そこは大丈夫なんだけど……銃創と火傷の方は
銃創の方は敵にやられたんだろうけど、天芭 隊長がまた自分の身体を焼く羽目になるとは。
全く、何の
どちらにせよ、霊創はあたしの術だけじゃ全治できない。
また
天芭の応急手当を終えた媼と嘯吹は、少し離れた場所に倒れていた中将の許へと向かう。
中将は腕拉ぎ十字固めから
だが中将も無事ではなく、〈
骨が皮膚を突き破っている箇所さえ在った。
[註*
相手の頸部と片腕を両脚で挟み、相手の頸動脈を絞める技。
仕掛ける体勢によって幾つかの種類がある。
作中で中将が〈
「中将さん、あんたも良く頑張った。
筋肉が硬直して動けないんだろ。
頑張った証拠さね。
いま治療してやるから待ってな」
媼の回復術は外法衆の中でもズバ抜けており、その並外れた回復術で正隊員にまで成り上がったのである。
その秘術が、〘薬師如来・平癒法・
平癒法の使用は想像にかたくないだろうが、そこに神行法と凍光法を加えるのがこの秘術の
神行法を使う理由は、対象の細胞増殖を極限まで高速化させる為。
但し、そのまま神行法を掛けてしまっては熱で細胞が壊れてしまう。
そこで凍光法を使い、細胞が破壊されない限り限りの温度を保って増殖させるのだ。
この秘術は、霊創以外の外傷、遺伝病以外の疾患を極短時間で治療できる為、彼女の存在は今や外法衆の守りの
中将の両脚は、媼(と嘯吹)の秘術によって瞬く間に治癒した。
治療が終わると中将が目を覚まし、状況を察して同僚に礼を述べる。
「
「嘯吹も手伝ったぷ~ん。
嘯吹にもお礼してぷんぷん♪」
「……忝い嘯吹」
中将は立ち上がり、未だ失神している〈
「夫婦共々美しかったぞ。
また
倒れている宮森へと近付いた中将は、彼の眼窩に突き刺さっている
「……この男、最後の最後まで瑠璃家宮を守るとは、余程の
どちらであろうと、死んでしまってはもう楽しめないがな……」
大事な宝物を失ったが如き残念な面持ちで宮森を一瞥した中将は、意識を失った天芭を
両人の治療を済ませた媼は、武悪の死骸集めを手伝い回収作業を終わらせた。
翁は仕事の
「ココニ来ル途中ニ地下牢ガ在リマシタ。
ソコニ入レラレテイタ囚人達とアノ方ハ、本当ニ貰ッテ良イノデスネ?」
「ああいいとも。
あ奴がおると酒代が
〈死霊秘法〉のおまけじゃ、他の囚人と一緒に持ってけ持ってけ!」
「
コチラデ有効活用サセテ頂キマスネ」
「後、アプトン……鎧を着た体格のいい〈食屍鬼〉の事じゃ。
あ奴も持って行ってくれ。
後で儂が改造したい」
「改造!
ワタシモヤッテミタイデス!
一ツ御指南ノ程ヲ!」
改造、と云う言葉で意気投合してしまったふたり。
図らずも話が弾んでしまう。
「翁と言ったの。
其方は儂と随分気が合うようじゃ。
一つ、共同研究でもしてみんか?」
「イイデスネ。
天芭 隊長ガ意識ヲ取リ戻シ次第相談シテミマス!」
「では宜しく頼む。
共同研究はそちらの目的の為にも大変有用じゃからの。
損はせん筈じゃて……」
表情こそ面に隠れて視えないが、翁の声色はウキウキルンルンを隠せない。
「ソレニシテモ、今回ハ良イ取リ引キガ出来マシタ。
又ノ御利用ヲ御待チシテオリマス」
「ふぇっふぇ。
まるで商売人みたいな言葉を吐きよるわ。
して翁よ、本業はなんじゃ?」
「貴方ト同ジ、カドウカハ判リマセンガ、医者デス。
コレデモ、祖先ハ一応日本人ナノデスヨ……」
「ほう、奇遇じゃな」
ふたりの会話も弾んで来た所だったが、翁も帰り支度に掛かる。
「ソレデハ播衛門サン、
「御娘じゃのうて、
憶えておけ……」
「オウ!
ワタシトシタ事ガ間違エテシマイマシタ。
日本語ハ難シイデスネ。
デハ、ワタシ共ハコレデ……」
最後は
◇
大昇〈食屍鬼(グール)〉後篇 結び その二 了
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