外吮山頂上決戦 終盤 その六
一九一九年七月 長野県重井沢 外吮山頂上
◇
瑠璃家宮の触手による墨攻撃の追加で、外法衆両人の
天才魔術師である天芭 大尉と体術に秀でている中将でなければ、この連携は凌げなかっただろう。
その連携効果が薄いと見るや、瑠璃家宮は攻撃方法に手を加えた。
今迄は墨をある程度の
霧の粒子は細かい。
少量では大した事にならないが、粘性の強い墨が付着し続ければ動作に支障をきたすのは明白。
特に、体術を武器とする中将には死活問題だろう。
それ故に外法衆両人は常に
天芭の
加えて、触手を躱す為に逃げ回らねばならない。
時間切れを狙っていた天芭だが、このままでは自分達も霊力を削られ、瑠璃家宮と同じ状況に追い込まれるのも事実。
天芭は
そして、ある事に気付く。
⦅瑠璃家宮が異形化できる時間は限られている筈だ。
なのに、奴は時間稼ぎのような真似をしている。
ほう……矢張り墨吐きは目眩ましか。
その証拠に、倒れていた家臣たちの姿が無く、生体活性術式の
触手内に家臣共を囲って治療しているな……⦆
天芭は瑠璃家宮の計略を見抜き中将へ伝える。
『中将さん、殿下は逃げ切りを許してはくれないみたいですよ。
都五鈷杵剣を用意して下さい。
次で本当にけりを付けますので……』
『委細承知しました』
これまでの状況を
中将は金剛薩埵・豪剣法の三密加持を行ない、更に聖観音・連壁法も重ねた。
『武悪であればもっと良い連壁法が練れたものを……』と中将は思う。
だが、武悪が散った今では栓なき事。
自身の実力が及ぶ分を施すしかない。
天芭は持ち前の八臂を利用し、秘術を多重発動させた。
内容は、水天・自在法、風天・自在法、伊舎那天・衝撃法、帝釈天・雷撃法である。
これだけでも驚くべき事なのだが、天芭は阿閦如来・障壁法、孔雀明王・飛行法、如意輪観音・戦輪法、千手観音・増臂法も常時展開しているのだ。
天芭の魔術の才がどれ程のものかは、今さら言う迄もない。
墨雨が降り注ぐ中、触手を履帯代わりに進撃する瑠璃家宮。
その触手戦車に向け外法衆両人は急接近。
中将は生身の左半身へ、天芭は異形の右半身へと突撃した。
瑠璃家宮は、霊力中和用の触手と墨吐出用の触手を左右に振り分け迎撃を図る。
接近して来る外法衆両人に、墨噴霧では間に合わないと踏んだ瑠璃家宮。
墨を霧状から塊状へと変更する。
散弾さながらに発射される墨塊を防御しようにも、触手で障壁を中和される外法衆両人。
遂に両人の身体に墨塊が届く。
半顔で笑う瑠璃家宮。
墨塊が広がり動きを封じれば
その後は好き勝手に
出来なかった。
墨塊が外法衆両人に届いた時には既に乾燥し切っており、粘性を失った只の固形物と化していたのである。
然も、墨塊を吐出していた触手に異変が起こっていた。
墨液が触手内に在るにも拘らず、完全に固形化していたのである。
⦅墓穴を掘った……。
いや、
ちんけな墨など、乾燥させてしまえばどうと云う事はない⦆
そう、天芭は風天・自在法と水天・自在法を用いて
飛来する墨を片っ端から乾燥、固形化させたのだ。
更に、
この一計により触手墨攻撃は無効化され、異形化していない瑠璃家宮の左半身が手薄になった。
そこへ滑り込んでいたのは中将。
天芭が触手を引き付けている間に
中将の
それどころか、瑠璃家宮の口角はますます
「ヒョォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
中将が
極度に膨張した右半身から飛び出て来たのは、気を失い倒れていた筈の面々。
瑠璃家宮は触手履帯で地上を走破する途中、臣下達をその身に回収していたのである。
瑠璃家宮の半身から突如として現れた臣下は、触手から掴まれ中将へと
最初に飛び出た宗像は、ウィンチェスターM1912ソードオフ
ほぼ全弾が命中したが、
中将は殆ど速度を落とさず瑠璃家宮へと迫るが、散弾を追い弾丸の如く飛び出す者達がいた。
蔵主 社長と〈
蔵主は
〈
だが、天芭の
その所為で
蔵主も
結果、ふたりの
蔵主と〈
双剣を逆手に持ち替え、並んだふたりの鎖骨上方から突き入れる。
蔵主は右鎖骨、〈
その後、剣を引き抜く
その隙を窺っている者がいた。
ひとりだけ上方に飛び出していた〈
「
確かに吹き飛ばされた。
〈
彼女の行動を読んでいた天芭が、伊舎那天・衝撃法を放ったのだ。
⦅ちっ、孕み子が障壁を張ったか。
絶命はしなかったようだが、これ以上の戦闘は無理だろう⦆
〈
孕み子が
〈
◇
外吮山頂上決戦 終盤 その六 了
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