外吮山頂上決戦 終盤 その七
一九一九年七月 長野県重井沢 外吮山頂上
◇
〈
防御の構えは取らず、渾身の
今の〈
生半可な攻撃は甲殻で弾き返す事が出来るし、顔部や装甲の繋ぎ目を狙われたとしても、主君に対する攻撃は失敗に終わらせられる。
主君さえ無事であれば、自身の負傷、
今〈
戻しの速さではなく、
これで中将の
真正面から接近するふたり。
〈
御互いの攻撃を躱せない間合い。
接触した。
〈
それに対し、防御の構えも攻撃の動作も行なわない中将。
⦅たとえ防御したとしても、障壁は割られ剣は折られる。
攻撃したとしても〈
そう分析した中将は、
そして、〈
中将は彼女に剣で勝とうとは思っていない。
それこそが中将の狙いなのである。
〈
この時 中将の股間は彼女の左肩に密着。
右膝裏で彼女の顔面をきつく挟み込んでいる。
次に彼女の左手親指を前方へと向け、左手首全体を両手で押さえた。
〈
「う、腕を折る積もりかっ……」
中将が
人体の
反対の小指方向へは絶対に曲がらない。
それを利用した腕拉ぎ十字固めは、筋骨の構造が人体とさほど変わらない今の〈
中将が力を込め、〈
彼女の左肘関節に掛かる負荷が臨界に達し、超える。
『ボキャァッッ!』
「ウガッアアアァガアアアアアアアアァァァァッ!」
〈
中将の金剛薩埵・豪剣法に一度敗れ去った〈
甲殻装甲の特性を活かし一度は雪辱を果たしたが、最後の最後で中将の戦闘嗅覚が上回る。
肘関節を破壊された〈
地面に落下してもそのまま彼女を固め続けた。
「天芭 隊長、後は御任せします……」
〈
そう、中将の攻撃は囮で天芭 大尉の攻撃こそが本命だったのだ。
天芭は瑠璃家宮の右後方から彼の頭上へと移動し急襲する。
「――布瑠部 由良由良止 布瑠部――」
天芭 目掛け飛び出して来たのは、多野 教授。
その手には仕込み杖が握られ、武悪を斬り伏せた居合の構えだ。
多野の斬撃は神速に達する。
思考と感覚の
更に瑠璃家宮の触手によって
『ズアアアアアアァァッ!』
眩い電光と共に多野の剣閃が奔る……かに思われたが、奔った電光は天芭の帝釈天・雷撃法だった。
鞘に電撃を受け乍らも抜刀する多野。
しかし肝心の抜刀速度が、神速とはほど遠かった……。
「
抜刀はしたものの天芭には躱されてしまい、多野は仕込み杖を握りしめたまま地面へと落下する。
「あ奴めっ!
うおっ、あぉあぅああぁああぃあぇ……」
天芭は仕込み杖だけでなく、多野 本人にもタップリと電撃を食らわせる。
多野は感電死を防ぐ為、天芭から放たれた電撃を地面へと流すのに精一杯。
霊力をほぼ使い果たし、これ以降攻撃に参加する事は出来なくなった。
地面にへばり付く多野と
⦅甘い。
お前の抜刀術は鞘内の電気抵抗を無効化し、その上で神の記憶から技を読み取り抜刀を行なうものだ。
私は雷撃法を用いて仕込み杖に電流を流し、電気抵抗を無効化する状態を壊しただけよ……⦆
ここで、天芭が多野の超伝導抜刀術を破った
通常、物体が超伝導状態を保っている際、外部磁場はその物体中に侵入できなくなる。
これをマイスナー効果と云う。
しかし強い外部磁場が付加され続けると、一定の値を超えた後に超伝導状態が破壊されてしまうのだ。
天芭は多野が抜刀する前の仕込み杖へと放電。
鞘内に張り巡らされていた磁界を乱し、超伝導状態を破壊したのである。
それ故、多野が抜刀した時は既に超伝導状態ではなく、
⦅多野の攻撃も防ぎ切ったぞ。
残る臣下は宮森ひとり。
さあ、どう出る?⦆
瑠璃家宮の頭上から迫る天芭に対し、遂に宮森が姿を現した。
瑠璃家宮が履帯代わりに使っている触手群の下から上半身の一部だけを覗かせ、仰向けの姿勢で地面に寝そべっている。
「っひゅぅ……。
ぁぁばああああああああああぁぁぁぁっ!」
腹と
ただ瑠璃家宮の触手の下敷きになって壊れたのか、眼鏡を着用しておらず目の焦点も合っていない。
発砲の際も腕を
宮森の発砲と同時に瑠璃家宮の触手も殺到するが、触手の回避を優先する天芭。
⦅ん?
宮森の様子がおかしい。
瞳孔が開いているのは、未だ〈ミ゠ゴ〉の菌糸に侵されているからなのか?
それに、放たれた銃弾には霊力が込められていない。
霊力切れでの単なる
もしそうなら間抜けな話だが……⦆
天芭は
触手を掻い潜った
⦅宮森 遼一……。
もしこの男が成長すれば、私や井高上 大佐にとって脅威となったかも知れん。
本気を出してはいなかったとは云え、この私を一度は退かせた男。
好敵手として相応しいと思ったのだが、
正直、買い被り過ぎていた……⦆
既に事切れた宮森を目の当たりにした天芭は、退屈な映画でも観賞した後のように無表情である。
視線と意識を宮森から瑠璃家宮へと切り替え、回転力にまだ余裕の有る
瑠璃家宮も頭上の天芭を仰ぎ視る。
御互い仲間もおらず一対一。
両者、動く。
極彩色にうねる触手が大波の如く天芭へと襲い掛かった。
この触手は、
「
対する天芭は、帝釈天・雷撃法を最大出力で放射。
触手の生体電位信号を狂わせ、動作不良を引き起こさんとする。
天芭の策が功を奏し、彼を取り囲んでいた触手は動きがままならない。
天芭は瑠璃家宮の頭上から足先まで、異形の右半身をなぞり地上へと降下した。
当然、その途中も電撃を放射し続けている。
電撃により粗方の触手が機能不全に陥ったのを見計らい、天芭は
◇
外吮山頂上決戦 終盤 その七 了
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