外吮山頂上決戦 終盤 その四
一九一九年七月 長野県重井沢 外吮山頂上
◇
纏っていた
地上へ帰った〈
水中でしか異形化を保てない〈
『お兄様……。
お願いだから、どうにかして……』
火球が迫る中、〈
流石にいたたまれなくなったのか、瑠璃家宮に代わり苦肉の策を進言する宮森。
『殿下、ここに在るありったけの水を火球へとぶつけて下さい。
水が火球に当たったら、水分と熱、衝撃を通さない障壁で上空に
向こうは、上空と恐らく側面にも、こちらが呼び寄せた水を通さない障壁を張っているでしょう。
こちらが張った障壁と向こうが張った障壁とで挟み込めます。
そしてこちらが水を送り込む事さえ叶えば、あちらは火球の熱で水が蒸発。
瞬間的に膨張して水蒸気爆発を起こす筈です。
勿論、こちらの障壁が爆発の衝撃で破壊されない事を前提とした話ですが……』
『ふむ……それに賭けるしかあるまい』
作戦要綱が決まると皆一丸となって動く。
〈
それを〈
瑠璃家宮、多野 教授、〈
火球との接触に備える。
迫り来るは蒼い火球。
迎え撃つは
大昇帝 派と瑠璃家宮 派、双方の力の結晶が激突せんとしていた。
「かかりましたね。
天芭大尉が声を張ると、水球と接触前に大火球が弾け分裂する。
大火球は
大火球の落下を想定していた瑠璃家宮 陣営は面食らい、
「何や、花火かいな⁈」
宗像の感想も言い得て妙である。
皆が落下して来る小火球から逃げ惑う中、地上へ到達した小火球はベッタリと地面に伸び広がり、勢い良く燃え立った。
足の踏み場も無い程に
気が動転した一同は、火球と相打つ筈だった水球を分割して炎上地帯の消火に努める。
しかし炎は消える事なく燃え続け、遂には〈
「綾 様!」
〈
『皆さん、発火しているのは油脂類のようです。
水では消えません。
このまま上空に逃げましょう!』
その時外法衆の面々は、地上で右往左往する瑠璃家宮 陣営を見下ろし
「げははははっ、犬っころみたいに駆け回ってやがるぜ!」
「破局も又、美しいものだ……」
『武悪さん、中将さん、仕上げと参りますよ』
天芭の号令が下り、武悪と中将は出来るだけ地上に近い位置に
だが、武悪と中将がふたり掛かりで展開した
「そんな⁈
ここから出せーーーーーーっ!」
失神した〈
しかし
天芭は
そして、最終段階へと入る。
武悪と中将の展開した
天芭が風天・自在法を用い、瑠璃家宮 陣営を閉じ込めている
空気の流入を断たれた地上では、油脂類を媒体とした燃焼で酸素が瞬く間に消費されて行った。
酸素欠乏状態になった瑠璃家宮 陣営は、ひとり、又ひとりと失神して地上へと落ちて行く。
『頼子、生きているか……』
『あなた、悔しいわ……』
『多野 教授ぅ、殿下ぁ……』
『殿下。
多野 剛造、力及ばず、無念……』
『宮森はん、後を頼むで……』
『くっ……天芭 大尉の方が、一枚も二枚も上手だった……』
『……』
ほぼ勝敗が決した今、天芭は自慢げに秘術の解説を始める。
『貴方方が、火球に水をぶつけ水蒸気爆発を引き起こそうとしていたのは明らかでしたからね。
火球を分裂させて頂きました。
しかもその火球は只の
例え炎熱を防ぎ焼殺は免れても、空気を遮断する閉鎖空間を作り出しさえすれば、酸素欠乏か一酸化炭素中毒は避けられませんから。
どちらにしろ詰み、だった訳ですね……』
天芭の説明を補足したい。
ここで云う増粘剤とは、ナフテン酸、パルミチン酸、アルミニウム塩を混合した物質だ。
これらの増粘剤にナフサなどの主燃焼剤を混合させた物が、俗にナパーム燃料と呼ばれる物である。
瑠璃家宮 陣営の殆どが気を失っている中、武悪が天芭に問い掛けた。
『天芭 隊長、あいつらを焼き殺したり水蒸気爆発でフッ飛ばしたりしねえんですかい?』
『ええ。
状況が変わりましたし、焼き魚にしたり
それに、バラバラになった死体を持ち帰るのは面倒です』
『ちげえねえ。
それにしても、火球に粘性を持たせるたあ考えやしたね』
ここで中将が会話に割り込んで来た。
『水では消えないどころか、水分が多い状態で閉鎖すると水蒸気爆発を。
水分が少ない場合でも、酸素欠乏や一酸化炭素中毒まで引き起こせる……。
天芭 隊長の手腕には
『ええ。
これが私の必殺秘術、〘烏枢沙摩明王・浄火法・
瑠璃家宮 陣営全員の意識断絶を確認した天芭 達は、目下の
それにより、酸素を得た炎は獲物を
だが、先ほど言っていた通り焼き魚にはしたくないのだろう。
天芭は指を『パチン』と鳴らし、炎を消した。
発火と消火、火力調整が火天・自在法の権能である。
続いて武悪が天蓋を解除し、上空に留め置いていた水を下界へと流した。
彼らに止どめを刺す積もりなのか、天芭はゆっくりと降下する。
中将も造床法で階段を作り、それを下った。
一方 武悪は、降ってくる水を
大量の水は下界へと零れ落ち、地に伏していた瑠璃家宮にも降り掛かった。
天蓋が破れ、水が巡る。
神力が呼び、神力で形造られる。
それは、神への
それは、
武悪は自尊心が満たされたのか、下界の敗者達に
「あんだけ欲しがってた水だぜ。
たんとくれてやる。
もう飲めねえだろうけどよ。
げっははははははははははははははははは……はびりっっ⁉」
地上から突如放出された触手の群れが、武悪を
◇
外吮山頂上決戦 終盤 その四 了
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