外吮山頂上決戦 終盤 その三
一九一九年七月 長野県重井沢 外吮山頂上
◇
天芭 大尉は益々火球の火力を引き上げに掛かる。
その余りの高熱ゆえ、断熱効果の有る
それに、天芭がいま行なっている三密加持は烏枢沙摩明王・浄火法だけではないのだ。
左手は掌を上に向けて腹の前に横たえ、人差し指、薬指、小指は真っ直ぐに伸ばし、中指を第二関節から深く曲げ、中指の第一関節の上に親指を乗せる。
右手は親指を手前に立てて左手の指先に掌底を位置させ、中指、薬指、小指は真っ直ぐに伸ばし、親指は第一関節を曲げ、人差し指は第二関節のみを曲げて直角にする形状の
『――ナウマク・サンマンダ・ボダナン・アギャナウエイ・ソワカ――』と
火天・自在法は文字通り火炎攻撃の秘術だが、既に烏枢沙摩明王・浄火法を成立させている今、どのような使い方を天芭は見せるのか。
彼は残りの
一方地上では、〈
三人の回復を確認した蔵主 社長は、その身を
彼はウィンチェスターM1912の標準
天芭は散弾をブッ放されるも、新たな秘術でそれを迎え撃つ。
「
天芭の掛け声と共に衝撃波が放たれ、散弾とその先の蔵主ともども地上に叩き返された。
地上に返還される蔵主を観た、宮森、宗像、多野 教授には
天芭の放つ衝撃波に憶えが有ったからだ。
指向性の衝撃波を放ち対象を攻撃する術式で、かの井高上 大佐の得意技だ。
蔵主は再び上昇を試みたが、衝撃法で追い返されてしまう。
瑠璃家宮と神力を共有しているので身体がバラバラにならないだけましと云えるが、何度やってもその度に衝撃波が放たれるので埒が明かない。
結局、彼は上空の天芭に手が出せなかった。
「ふふふ、これで一気に片付けてあげますよ!」
天芭の烏枢沙摩明王・浄火法を目の当たりにした瑠璃家宮 達は直ぐさま対策を話し合い、火球を速やかに無力化する事を決定した。
一同は蔵主の固有術式である
その神力を使い全員で
外吮山西方を流れる
起死回生の水を外吮山頂上にまで呼び込み、滝の如く降らせる瑠璃家宮 陣営。
だが、その
空中に座す外法衆達の頭上に広がり、そこから一滴たりとも落ちてこないのである。
困惑する瑠璃家宮 陣営を見下ろし、武悪が底意地の悪い感想を述べた。
『天芭 隊長。
奴ら水が降ってこねえもんだから、これ以上ないほど物欲しそうな顔してますぜ。
こりゃあ
げはははははははっ!』
『ええ、何人かは絶望しているでしょうね。
武悪さん、楽しむのはいいですが
いま瑠璃家宮 陣営の周囲に浮遊している水は、瑠璃家宮が一度取り落とした水を地面から吸い出したものである。
陽光で煌めく天蓋を見上げ、〈ミ゠ゴ〉の呪縛から解放されたばかりの〈
『何なの?
何で水がおりてこないのよ!
誰か説明して!』
宮森が苦々し気に解説する。
『綾 様、恐らくあれは武悪の障壁術です。
水分を通さない障壁を張り、自分達が持って来た水を空中で
『水が使えないんじゃ、どうやってあの蒼い火の玉けすの?
天芭が衝撃波うってくるから近付く事も出来ないし……』
『火球を止める手段は限られますね。
最も良い方法は、綾 様、益男さん、頼子さん、蔵主 社長らに飛んで頂き、天芭 大尉の集中を乱して術を不発にして頂く事です』
さんざん天芭の衝撃法でいたぶられた蔵主が割り込んで来た。
『宮森さぁん、そんな事が出来るのでぇ?』
『綾 様の攻撃音波は、天芭 大尉の放つ衝撃波と原理的には同じ仕組みです。
ですので、綾 様に衝撃波を相殺して貰い、残りの
『私は構いません。
頼子、君は?』
『あなたが行くのに、私が行かないなど有り得ません』
『あたしがこの作戦のカナメね。
がんばらなきゃ!』
『仕方ありませんねぇ。
じゃぁ、わたくしもぉ』
〈
『武悪の方は、自分と宗像さんが地上からの射撃で何とか抑えます。
殿下におかれましては、精神感応と感覚共有で皆さんの連携を監督して下さい。
多野 教授は、天芭 大尉が我々を狙い衝撃波を撃って来た時の為に障壁を御願いします』
『相分かった。
多野 教授も良いか?』
『
作戦が決定し、〈
当然 天芭の衝撃法が来る。
「ド~~♪」「レ~~♪」
「ミ~~♪」「ファ~~♪」
「ソ~~♪」「ラ~~♪」
「シ~~♪」「ド~~♪」
〈
その後衝撃波と逆位相の音波を放射し、衝撃の
天芭は風天・自在法も使用しているので、〈
それでも衝撃波の威力を削ぐ事には成功。
天芭 攻撃組の三人を無事上空へ送り出せた。
宗像はコルトM1911で、宮森はスプリングフィールドM1903で武悪を射撃。
宮森がスプリングフィールドM1903を撃つのは初めてだが、瑠璃家宮と感覚を共有しているので練習せずとも最適な射撃を行なえた。
残弾を使い切る覚悟で銃撃するふたりの活躍もあってか、天芭から離される武悪。
衝撃法を掻いくぐり、天芭へと迫る三人。
天芭から見て、右方が〈
遅れて空中に上がった〈
そして三人は互いの位置を調整。
三位一体の同時攻撃を仕掛け……ようとしたその時、〈
異常を察知した瑠璃家宮が〈
『貴方には〈
ゆっくり楽しめないのが残念だ……』
既に治療を終え意識を取り戻していた中将が、地天・造床法を用いて〈
「なに?
いだぁっ!」
寝そべり姿勢で空中を遊泳していた〈
彼女が落とされた事で空中の戦況は一変する。
衝撃法を相殺する者がいなくなった天芭は、〈
地上の宮森と宗像から狙われていた武悪も、中将の助けで銃撃を
このまま粘れば弾切れまで持って行けるだろう。
そして遂に、上空の火球を指差す天芭。
「瑠璃家宮 殿下御一行様。
では、さようなら……」
瑠璃家宮 陣営に、滅びの蒼い浄火が迫る――。
◇
外吮山頂上決戦 終盤 その三 了
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