外吮山頂上決戦 中盤 その二

 一九一九年七月 長野県重井沢 外吮山頂上





 他所の戦況が気になる宮森だったが、自身も襲われている最中で余裕が無い。

 しかし、ここは何としてでも粘らなければならないのも確かだ。


 宮森は果敢にも〈アルスカリタイプ〉のふところに飛び込み、至近距離での戦いを挑む。

〈アルスカリタイプ〉の周囲を駆け巡り乍らコルトM1911で銃撃する宮森。


 蹴りで攻撃された時などは、躱して肘鉄ひじてつを入れたりしていた。

 勿論〈アルスカリタイプ〉の障壁バリアを破れる筈もなく、特に損傷は与えていない。


 一方の武悪は、一見無駄な行動を取る宮森を警戒する。

 宗像へも目を向けるが、彼に自陣を崩せる能力は無いと捨て置いた。


 宗像は武悪からの監視が外れたのをいい事に弾薬を補充。

 武悪の牽制に終始する。


 他の戦場では、〈ダゴン益男〉が中将の許へ向かい〈ハイドラ頼子〉の救助に成功したようだ。


〈アルスカリタイプ〉からの攻撃をしのいでいた宮森。

異魚〉の手が空くのを確認した途端、彼女に請願する。


『綾 様、自分が〈アルスカリ型〉に取り付きますので、合図をしたら自分に攻撃音波を放って下さい』


『ええ~⁈

 そんな事してダイジョウブなの宮森さん……』


『信じて下さい綾 様。

 そして、攻撃音波が自分に集中するよう御願いします』


『分かったよ宮森さん。

 アタシ頑張る!』


『有り難う御座います。

 では、宗像さんは引き続き武悪の牽制を』


『上手く行くか心配やが、何もやらんよりましやろ。

 やったれ!』


異魚〉と宗像への連絡が終わり、宮森は〈アルスカリタイプ〉との白兵戦を続ける。

 神力で身体能力が向上しているとは云え、〈アルスカリタイプ〉の攻撃を捌くのは一苦労だろう。


 疲れが出て来たのか、どことなく宮森の動きが鈍い。

 そして遂に、〈アルスカリタイプ〉の拳が彼を捕らえる。


 その威力で宮森を覆っていた障壁バリアは破砕され、彼の左腕に〈アルスカリタイプ〉の拳が打ち込まれた。


⦅ぐぅっ!

 左腕は折れてしまったか……。

 だけど、ここで終わる訳には行かない!⦆


 宮森は骨折の痛みをものともせず、巨人の左腕に触れた。


『綾 様、今です!』


「ラ~~~~~~~~~~~~~~~~~♪」

「ラ~~~~~~~~~~~~~~~~~♪」

「ラ~~~~~~~~~~~~~~~~~♪」


異魚〉が三つの声帯から破壊の歌声を放つ。

 攻撃音波を宮森へと集束させ、他の対象には効果を及ぼさないよう調整する〈異魚〉。


 障壁バリアなしでまともに食らえば、肉体がバラバラになる威力の音波をその身で受ける宮森。


『ッドンムゥ……』


 くぐもった音が辺りに広がった後攻撃音波でバラバラになったのは、宮森ではなく〈アルスカリタイプ〉だった。


「何だと⁈

 いったい何やってくれたんだい、頭の切れる宮森さんよお!」


 驚いた武悪は宮森に錫杖を振り下ろした。

 障壁バリアを破られ左腕を骨折している今の彼にとって、この一撃を食らえば致命的なものになる。


 ふたりの距離が近い為、援護を躊躇ちゅうちょする宗像。

 天芭が宮森の殺害を禁じているとは云え、食らえば戦闘不能は免れまい。


『綾 様、御願いします!』


 宮森が回避不能になる瞬間を見据えて振り下ろされた錫杖に、彼が触れた。


『ッドンムゥ……』、『カシャッァァァン!』


〈アルスカリタイプ〉に続き、武悪の錫杖も砕け散った。


 自分がやられているにも拘らず、感心した声色こわいろで尋ねる武悪。


「なあ宮森さんよ。

 障壁が張ってある雑仏と錫杖を、どうやってバラバラにしたんだい?」


「貴方も御存じでしょうが、自分は井高上 大佐とやり合った事が有ります。

 その時の経験が活きましたね」


「ほう……聞かせて貰えるかい!」


 武悪は拳を振り回し宮森に迫った。


 障壁バリアが再生成され余裕が出て来た宮森は、痛覚を遮断し骨折の応急処置を行なう。

 武悪の拳を捌きつつ回答する宮森。


「井高上 大佐は、振動波を使い対象を一瞬で破壊する術式を使っていました。

 確か、伊舎那天いしゃなてん衝撃法しょうげきほう颶風殺ぐふうさつと云った筈です。

 それと似たような事を……した迄!」


「似たような事だと!」


 続けて武悪の拳が来たが、それを受け止めた宮森は〈異魚〉に振動波を送って貰う。

 感付いた武悪が拳を退くと、宮森の掌からは膨大な振動波が放出された。


「貴方が〈アルスカリ型〉に張った障壁を破る為、障壁の霊波動を自分が読み取ったのです。

 そして、張ってある障壁とは逆位相の障壁を掌に構築しました。

 その逆位相の障壁で〈アルスカリ型〉に張られていた障壁を中和し、綾 様に放って頂いた攻撃音波を流し込んだのです」


「するってえと、アンタは障壁の中和と攻撃音波の伝達を同時にやってたって訳かい?」


「そう、なりますね。

 勿論、普段はそんな大それた事なんて出来ませんよ。

 殿下の神力を共有している今だからこそ可能な芸当です」


 宮森の仕掛けを聞いた武悪は、その面の下の素顔に凄絶せいぜつな笑みを浮かべた。


「んじゃ、俺もそろそろ本気だすぜ……」


 そう豪語した武悪の足元には、幻魔の死骸と〈ミ゠ゴ幻魔〉の残骸が広がっている。


 武悪は三度目の普賢菩薩・延命法を執り行なった。


 幻魔と〈ミ゠ゴ幻魔〉の墓場が盛り上がり、植物のつるが激しく宙をむしる。


 武悪がその場から後退あとずさると、最後の〈ミ゠ゴ幻魔〉が出現した――。





 外吮山頂上決戦 中盤 その二 了

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