外吮山頂上決戦 中盤 その三
一九一九年七月 長野県重井沢 外吮山頂上
◆
「くっ、頼子……」
〈
だが、瑠璃家宮 達の状況も
天芭 大尉が繰り出す日天・焦光法の権能で、瑠璃家宮 達周囲の水が急速に熱せられているからだ。
「ほらほら。
もう打つ手なしですか、瑠璃家宮 殿下?
このまま手を
「天芭め、シュラシュラシュラシュラシュラーーーーッ!」
天芭の挑発に乗った訳ではないが、思わず力んでしまう〈
〈
更にそこらの地面に
〈
瑠璃家宮と多野 教授も、上昇を続ける気温と水温とで劣勢に傾く〈
多野などは
事態を好転させる策でも考えているのだろうか。
このままではいけないと、〈
その隙を天芭は見逃さなかった。
『ギャリーーーッ!』
蔵主の左脚膝下から、足の甲までを縦断する
「ああぁ、やっちゃいましたぁ……」
責任を感じた〈
蔵主は残った右脚で何とか体勢を整えようとするものの、天芭はそれを許さない。
追い詰められる蔵主。
天芭の
「――石の
一瞬で石化してくれるっ!」
多野の
天芭が水で包まれると、多野は即座に帯電していた電気を解き放つ。
天芭を包む水に電撃が奔る中、〈
対象を水などの液体で覆い、そこに膨大な電流を流す事で瞬間的に石化させるのが多野の固有術式である。
加えて、石化した対象は多野の意思で自由に砕く事が出来るのだ。
対象がどれ程の霊力の持ち主だろうと関係ない。
まさに一撃必殺。
決まれば天芭の命もそれ迄。
残念ながら、そうは行かなかったようである。
「皆さんはいったい何に
この私が石化対策を講じていないとでも?
多野 教授、貴方は青森で井高上 大佐とまみえた筈。
学者のくせに、ちと勉強不足では有りませんか?」
「な、なぜ石化しておらん⁈
水で包み電流も流れている筈……」
多野の言う通り天芭へと電撃は放たれているが、一向に石化する気配が無い。
正確には、天芭の体表が徐々に結晶化してはいる。
だが、その速度が余りにも遅いのだ。
そして、地面に落ちている白い粉を発見して自身の失策を悟る多野。
「こ、この粉はまさか……。
水から塩などの無機物を取り出したのか。
と云う事は、あ奴を包んでいる水は塩水ではなく……純水!
しかしいったいいつからだ……。
はっ⁈
若しや最初からか!
殿下が水に無機物を混ぜられた傍から陰で水天・自在法を行使し、無機物を取り除き続けている‼」
天芭の石化速度が
水に塩などの無機物が加わると導電率は上昇する。
飽和状態の塩水で対象を包み込めたならば、多野にはそれこそ一瞬で対象の石化が可能。
と云う事は、水分中の不純物が少なければ少ないほど導電率は下降する。
天芭は自身を包み込む水から極限まで不純物を取り除き、
石化を大幅に遅らせているのだ。
漸くその事に気付いた多野だが、時すでに遅し。
天芭が前もって投擲していた
舞い戻って来た
戦闘序盤に多野に掛けていた、不空羂索観音・誘導法の権能である。
誘導法による
半分は叩き落とせたが半分には抜かれた。
残りの
『バリィン!』、『バリィン!』、『バリィン!』、『バリィン!』
小気味良い音が響き、多野を切り刻む寸前の
瑠璃家宮が霊力を込めて発砲したのである。
多野の無事を確認し、天芭を包む水を取り去る瑠璃家宮。
続けてサベージM1907二丁を構え、天芭に向け発砲する。
通常であれば
その固定された弾丸の底部に、新たに発砲された弾丸が突き立つ。
二個、三個と、
⦅流石は瑠璃家宮、弾丸が重い。
このままでは障壁を破られる恐れがある。
それに、武悪の雑仏ももう直ぐ仕上がりそうだ。
ここは間合いを取り、出直すとしよう……⦆
霊力が込められた弾丸を受け続けるのを避け、一旦退避する天芭。
天芭が離れた事を確認した瑠璃家宮は、周囲に侍らせた水を冷却して蔵主と〈
多野と蔵主には、周囲を警戒させ乍ら回復を促した。
「益男、只今より中将の相手をせよ」
「はっ、行って参ります!」
瑠璃家宮は〈
◇
外吮山頂上決戦 中盤 その三 了
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