外吮山頂上決戦 中盤 その六
一九一九年七月 長野県重井沢 外吮山頂上
◇
何度目かの
中将のはす向かいから、左腕の
交差するふたり。
凄まじい勢いの着地に、粉塵までも巻き起こった。
猛進斬りを双剣で受けて立った中将の背後で、〈
「頼子から聞いたよ。
その刀身の煌めき、金剛石らしいな。
だが、
中将は見た。
彼の
中将は視た。
彼が猛進した軌跡に掛かる虹を。
中将は観た。
自身の
虹光を背に受け舞い上がる〈
直ぐさま左腕と都五鈷杵剣を回収して離脱を図る。
勿論それを許す〈
地を駆ける中将に対し、彼は宙を泳いでいる。
どちらが速いのかは明白だ。
〈
⦅ちっ、ここで天芭の戦輪!
中将に止どめを刺し損ねた。
殿下達が天芭を抑えて下さっている御蔭で向こうは膠着状態。
中将は何としても俺が仕留めねば!⦆
天芭 大尉からの
その間に距離を稼いだ中将は三密加持に入る。
中将は左腕が落とされているので、
だが、
片腕だろうと手指が欠損していようと、脳神経が無事なら問題ない。
本来ならば内縛の後両親指を立てて伸ばし、両人差し指は内側に曲げ、第二関節の甲を付ける形の薬師如来印を、右手のみで行なう中将。
続けて彼は『――オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ――』と
この薬師如来・平癒法は、病気や怪我の治療に特化した秘術である。
生物の成長を促進する秘術である普賢菩薩・延命法も治療に使えるが、平癒法は成長促進の効果を削っている分、治療効果は格段に高い。
三密加持を終えた中将は、斬り落とされた左上腕を斬断面に宛てがった。
見る見るうちに断裂した筋繊維や骨が繋がれて行く。
ここまで治癒速度が早いのも、
若し
平癒法で左腕を繋いだ中将は
金剛薩埵印を結び『――オン・バサラ・サトバ・アク――』と
中将の握った二つの都五鈷杵から、刃部分が抜け落ちた。
それは抜け落ちるそばから粉々になり、中将の両足元へと落ちて行く。
そして磁石に砂鉄が付着するかの如く、中将の履いている
中将の都五鈷杵に新たな刀身が生成される。
今度の刀身には、
いま迄の豪剣法と何が違うのだろうか。
中将は感謝の思念を天芭に送る。
『天芭 隊長、御力添え有り難う御座います。
只今から本気を出します故、もう御心配には及びません』
『いいでしょう。
〈
天芭との交信を終えた中将は、向かって来る獲物を新たな刃で迎え撃つ。
一閃、また一閃と刃を交わすうち、新たなる刃の片鱗を感じ取る〈
⦅何かが、先程の剣とは何かが違う。
先程の物とは違う材質か。
それにしても、奴の剣を受ける度に身体の芯まで響いて来るこの
加えて、刀を合わす度こちらの刃から細かい粉末が……まさか⁈⦆
〈
打ち合わせた両腕の
〈
両足の
だが、中将の双剣を受ける度に図らずも体勢が崩れてしまう。
⦅剣だけではない。
奴の足音も今迄と違う。
気の所為か……いや、奴は革靴を履いている筈なのにどことなく硬い音がする。
何か企んでいるのかも知れないがその正体を掴めない。
今は捨て置くしかないか……。
このまま受け身に甘んじていても事態は好転しない。
それならばいっそ!⦆
反撃を決意した〈
両踵ごと
「……っづああああぁーーーーーーーーっ!」
両足を落された〈
前回の双剣との違い。
それは、〈
以前の
その刃は〈
しかし、今回の刀身はその欠点を丸ごと解消した多結晶
多結晶
又、靭性では翡翠や鋼玉を上回り劈開性も無いため非常に割れにくい。
中将はその多結晶
これが、金剛薩埵・豪剣法真の能力である。
両足と武器を共に失った〈
[註*多結晶
黒色になるのは、鉄鉱石やグラファイトなどが
希少性は高いが色が黒いので、宝石としての人気は低い。
現在では、主に
◆
外吮山頂上決戦 中盤 その六 了
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