外吮山頂上決戦 序盤 その四

 一九一九年七月 長野県重井沢 外吮山頂上





 如意輪観音・戦輪法で生成した戦輪チャクラム二枚を放った後、天芭 大尉は孔雀明王・飛行法を使い地上から七、八メートルの高さまで上昇する。


 その天芭 目掛け、蔵主 社長がコルトM1911で発砲した。


 蔵主の狙いは概ね正確で、阿閦如来・障壁法の使用霊力を節約する目的なのか、天芭は限り限りで銃弾を躱して行く。


⦅フン、牽制の積もりか。

 瑠璃家宮は神力の調整で派手な動きは出来ない筈。

 多野はその反動を抑え込むため瑠璃家宮に付きっ切り。

 その護衛に蔵主と〈ダゴン益男〉が就くと。

 向うからすれば盤石ばんじゃくの布陣と云った所か。

 それならば狙いは、自ずと定まる……⦆


 不空羂索観音・誘導法は、対象を捕捉ロックオンする術式だ。

 対象の霊格レベルが使用者の霊格レベルに及ばない場合、使用者が解除しない限りこの術式を解く術はまず無い。

 この秘術は複数の対象に掛ける事も出来るが、今回は誰になるのか。


⦅多数を相手取る時は、回復役から潰すのが定石じょうせき!⦆


 天芭 頭部左右の造腕マルチアームが多野に向け誘導法を放った。

 霊力で生成された羂索の輪が巨大化し、多野を縛り上げようとする。

 多野は羂索を視認するも、全く抵抗せずその輪に収まった。


 天芭は直ぐさま戦輪チャクラムを四枚装填。

 多野に向け断続的に放つ。

 狙われた多野の前に蔵主と〈ダゴン益男〉が立ちはだかり、両人それぞれの水刃ハイドロブレード戦輪チャクラムを処理した。


 四枚では効かぬと見たのか、天芭は戦輪チャクラムを最大数である六枚装填する。

 六枚の内自身の両手に生成した二枚を投擲とうてきした所で、瑠璃家宮 陣営が動いた。


「ラ~~~~~~~~~~~~~~~~~♪」

「ラ~~~~~~~~~~~~~~~~~♪」

「ラ~~~~~~~~~~~~~~~~~♪」


異魚〉が戦場一帯に音波を放射する。

 これにより、空中を飛び回る天芭の位置を瑠璃家宮 陣営全員で共有できるようになった。


 瑠璃家宮は、周囲にはべらせていた大量の水の一部を〈ダゴン益男〉へと下賜かしする。


 水が〈ダゴン益男〉の全身を包み込むと、胸郭きょうかくに左右一対いっついの大きな切れ込みが走った。

 その切れ込み……えらで体内に水を取り込む〈ダゴン益男〉。


 鰓呼吸に身体を順応させた〈ダゴン益男〉は、地面を蹴り一気に跳躍。

 天芭 目掛け猛然と宙を駆けた。


ダゴン益男〉が宙に舞った後の地上では、武悪の秘術によって産み出された雑仏がそれぞれの戦場に向け進撃。


 瑠璃家宮の許にも〈食屍鬼グールタイプ〉と〈ヴーアミ族タイプ〉が四体づつ向かい、それを蔵主が迎え討っている。


 宮森と宗像からの報告によると、あの怪物達は幻魔の死骸で〈ミ゠ゴ〉を培養した疑似生命体らしい。


食屍鬼グールタイプ〉と〈ヴーアミ族タイプ〉は、共に連携の取れた動きで瑠璃家宮 達を牽制する。


「中々攻め込んで来ませんねぇ。

 時間稼ぎしているのでしょうかぁ」


 攻撃して来たかと思えば直ぐに退き、蔵主が攻めれば攻めた分だけ退く。

 蔵主がたおした分は、〈食屍鬼グールタイプ〉と〈ヴーアミ族タイプ〉それぞれ一体づつに止どまった。


 ここで、宮森からの精査スキャン結果が瑠璃家宮 陣営に共有される。

 宮森が命名した〈ミ゠ゴ幻魔〉は、〈ミ゠ゴ〉同様に胞子を飛散させる恐れが有るとの事。


 胞子に対する防衛策を瑠璃家宮に請願せいがんする宮森。


『承知した。

 宮森の思い浮かべている通りにすれば良いのだな……』


 臣下の願いをこころよく引き受けた瑠璃家宮は、水に包まれている〈異魚〉と〈ダゴン益男〉を除いた全員の頭部に念動術サイコキネシスで水を送り込み、水の全周囲兜フルフェイスヘルメットを装着させる。

 その水の全周囲兜フルフェイスヘルメットで、〈ミ゠ゴ幻魔〉の胞子を遮断する積もりなのだ。


 胞子を吸い込む恐れの無くなった蔵主は、〈ミ゠ゴ幻魔〉に格闘戦を挑む。

 だが、統率の取れた〈ミ゠ゴ幻魔〉達は互いにかばい合い逃げの一手。


 業を煮やした蔵主が細胞融解弾を撃ち込み対象の一部組織を融解させるも、それを免れた箇所は何事も無かったかのように振る舞う。

 頼みの瑠璃家宮も、今は他の戦場の指示で忙しい。

 然も宮森と宗像の居る戦場からは、〈ブホールタイプ〉が追加で流れて来る。


「書類整理よりしんどいですねぇ……」


 蔵主のぼやきが漏れ始めた頃、〈異魚〉と〈ハイドラ頼子〉の方から〈ミ゠ゴ幻魔〉攻略法がもたらされた。


「……なるほどぉ、あの円盤を狙えば良いのですねぇ」


 地上部隊が〈ミ゠ゴ幻魔〉の対応に追われる中、空中では天芭と〈ダゴン益男〉との闘いが開始される。


異魚〉と同じく水管チューブに包まれ迫り来る〈ダゴン益男〉。

 天芭は造腕マルチアーム戦輪チャクラム四枚をその場で回転させ、丸鋸まるのこの要領で扱う気だ。


ダゴン益男〉は天芭に到達するも、遊泳速度を落とさず擦れ違いざまに一閃いっせん

 神力の共有で大幅に斬れ味の増した水刃ハイドロブレードは、天芭 左膝横の戦輪チャクラムを真っ二つにした。


 一旦離脱した〈ダゴン益男〉は向きを反転させ、再び勢い良く天芭へ突進。

 今度は右膝横の戦輪チャクラムを潰しに掛かる。


 天芭は頭上左右の造腕マルチアームで迎撃を図った。

 だが〈ダゴン益男〉周囲を覆う水管チューブが抵抗を作り出し、あと一歩の所で斬り刻めない。


 一撃離脱戦法が功を奏し、天芭 右膝横の戦輪チャクラムも破壊した〈ダゴン益男〉。

 そのまま天芭を抜き去り次の手番ターンに移る。


 勿論 天芭も黙ってはいない。

 戦輪チャクラム二枚を投擲とうてきした時から、既に三密加持を行なっていたのだ。


 右手の指を上にして両手の指先を軽く交差させる帰命合掌きみょうがっしょうから、両親指と両小指は交差を外し直立させる。

 両中指の交差も外し指腹を付けるは千手観音印。


 天芭は『――オン・バザラ・タラマ・キリク・ソワカ――』と真言マントラを唱え、千手観音せんじゅかんのん増臂法ぞうひほうを再度成立させる。


 秘術再成立後、天芭の造腕マルチアームが四臂から八臂はっぴへと増加。

 これも、千手観音・増臂法の権能である。


 消失した戦輪チャクラムを補充した天芭は、この態勢で〈ダゴン益男〉を迎え撃つ積もりなのだろう。





 外吮山頂上決戦 序盤 その四 了

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