外吮山頂上決戦 序盤 その六
一九一九年七月 長野県重井沢 外吮山頂上
◆
戦闘開始から間もなく、中将は摩利支天・隠形法で姿を消す。
天芭 隊長からの指示でもあり自身の望みでもある、〈
〈
⦅美しい……。
見れば視る程に焦がれてしまう。
あの
観たい。
彼女らの泳ぐ様を。
彼女らの舞う様を。
触りたい。
彼女らの内面を。
彼女らの中身を……⦆
半ば
両手を軽く握り親指の爪と人差し指の爪の先端を合わせる。
左拳は伏せ、右拳の
中将は『――オン・バサラ・サトバ・アク――』と
中将は、腰の
彼が霊力を注入すると、都五鈷杵の片側中央から刃渡り二尺(約六〇・六〇六センチメートル)ほど有る鋼鉄製の両刃が伸長する。
単純明快な武器錬成術式。
これが金剛薩埵・豪剣法なのだろうか。
双剣を錬成した中将は、隠形法で姿を消したまま〈
⦅少々
この方法が、彼女の美しさを最も保ったまま
中将が双剣を眼前で交差させ斬首に及ぼうとしたその時、突然に外吮山頂上の大気が振動した。
「ラ~~~~~~~~~~~~~~~~~♪」
「ラ~~~~~~~~~~~~~~~~~♪」
「ラ~~~~~~~~~~~~~~~~~♪」
〈
それにより周囲の反響音を受信した〈
当然、〈
すんでの所で中将の
「防がれてしまったか。
なるべく貴方の美を汚さずに終わらせたかったのだが……。
仕方ない。
別の表現を模索するとしよう」
隠形法の最中、対象である術者の声が周囲に聞こえる事は有り得ない。
だが〈
「コソコソと闇討ちするわ御下げ髪だわ。
まるで女の腐ったような
恥を知りなさい!」
このまま隠れていても霊力の無駄と悟り、中将は隠形法を解除する。
「初めまして〈
貴方は美しい。
だから私が殺す」
「美しいのは百も承知ですわ。
でも、貴方にこの私が殺せるかしら?」
〈
神力の共有で、普段の
これなら外法衆にも遅れは取らないと、〈
対する中将は
膂力で勝る〈
凄まじい速さで
何十回目かの応酬を終え、互いの実力を把握したふたりは打ち合いを止めた。
宮森と宗像の戦場から、珍客が侵攻を開始したのだ。
珍客は〈ヴーアミ族〉に似た姿だが、身体の所々から木の幹に似た柔組織が覗き、特異な形状の傘も確認できた。
そして、頭部が在るべき場所には短い突起を生やした渦巻き状の円盤。
〈ミ゠ゴ〉が幻魔の死骸を苗床として成長した、〈ミ゠ゴ幻魔〉である。
〈ミ゠ゴ幻魔〉の〈ヴーアミ族
敏捷性は元の〈ヴーアミ族〉よりやや劣っているものの、警戒心や恐怖心と云うものが無いため行動に迷いが無い。
水分を送り込まれた
珍客の胴体へと打ち込まれ、上半身と下半身を泣き別れにした……。
珍客をあしらった〈
〈ブホール
〈ブホール
〈ブホール
〈
そこに罠が在った。
先ほど泣き別れになった〈ヴーアミ族
双剣で斬り込んだ。
彼女は
『ここで芋虫もどき(〈ブホール
すると、〈ブホール
その振動は強力で、〈ブホール
上体を起こしていた一体はそのまま地面に突っ伏し、もう一体は激しく体節を仰け反らせ半狂乱の
どうやら、あの渦巻き状円盤が〈ミ゠ゴ幻魔〉の思念送受信器らしい。
そこを破壊されてしまったので武悪からの命令を受け付けず、肉体の制御が出来ていないのだ。
この情報は勿論、瑠璃家宮 陣営で共有される。
〈ブホール
〈
それを察知した中将は、〈
こうする事により、〈
先の配置は中将にとって理想の布陣である。
何故ならば、〈
たとえ押し込めなくとも、〈
中将は双剣を斜めに交差させ十字の構え。
ここぞとばかりに〈
その時、〈
⦅かかった!
奴は綾 様の放った指向性音波を、芋虫もどきを破壊した攻撃音波と同様に考えている。
しかしその実は、私に力を与える為の振動波。
振動波が私に到達すれば、私自身の身体を通じて
その振動波と闘杖の回転が合わされば……⦆
〈
体内の水分を凝集して
そして〈
瑠璃家宮の神力を共有している今なら、厚さ一五センチメートルの鋼鉄板をも易々とブチ抜けるだろう。
「中将と云いましたね。
私達の美しさを目に焼き付けて……砕け散るがいいわ!」
『ブシイィィィーーーーーーッッン……』
激突した瞬間、内部に充填されていた水を噴き出して
「何ですってっ⁈」
〈
それにより、彼女を覆う
「こぉっ⁉」
双剣は〈
肺や心臓を斬られた事を認識しつつ、血と粘液の池に倒れた〈
『頼子がやられた……』、その感覚を共有した瑠璃家宮 陣営に戦慄が走る。
〈
⦅普通の金属で私の闘杖を破壊する事など、出来るはずもない……。
いったい奴はどんな方法で……。
奴の剣の刀身が……光っているわね。
まるで……天の星々を
キラキラして……とっても綺麗。
あの輝きは、まさか……⦆
都五鈷杵剣の刀身に宿る光。
その正体は金剛石。
詰まりはダイヤモンドである。
では、斬れ味を鋭くする為に
又、
それゆえ衝撃に大変弱く、
中将はこの性質を逆に利用したのである。
鋼鉄の刀身表面に微細な
そして〈
それにより無数の斬れ目が入った
これが、金剛薩埵・豪剣法の能力である。
[註*
[註*
『〈ハイドラ〉を斃した』、思念のやり取りで
『頼子が倒れた』、感覚共有でそれを味わう瑠璃家宮 陣営。
彼らに迫る絶望の足音。
瑠璃家宮 陣営は、その足音を掻き消す事が出来るのであろうか――。
◆
外吮山頂上決戦 序盤 その六 了
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