第七節 外吮山頂上決戦 序盤
外吮山頂上決戦 序盤 その一
一九一九年七月 長野県重井沢 外吮山頂上
◇
〈白髪の
帝国陸軍の軍服に身を包み、三人が並んでいた。
夏の日差しの中、三人共能面を着けている。
向かって左は
着けている面は
彼は錫杖で地面を衝いては
[註*
腫れぼったい
能だけでなく狂言にも使用される]
[註*
小環の数は、四個、六個、十二個など種類がある]
向かって右、細身でやや長身の人物は
その人物は
左腰の
その都五鈷杵は、覚者密教の儀式に使われる通常の物より
彼は顎に右手を当て、瑠璃家宮 陣営を値踏みする仕草を見せていた。
[註*
今エピソードで使用されている十六中将面は髭なしの
[註*
元々はインド神話の神、雷神インドラの武器であるヴァジュラを模した物。
先端の形状が異なる様々な種類が存在し、刃の少ない順から、
又、三鈷杵の中央の刃だけが他の二本に比べて長いものを
先端が刃ではない種類も存在する(作中での設定)]
中央の人物はかなり小柄な体格で
両手を腰の後ろに回しており、落ち着いた雰囲気を見せている。
面など着けているが、瑠璃家宮 陣営はその人物の正体を一目で見抜いていた。
大昇帝 派の魔術実戦部隊である
天才魔術師、
童子面が瑠璃家宮 陣営に肉声で話し掛けて来る。
「皆さんこんにちは。
私は天芭 史郎と申します。
多野 教授と蔵主 社長、瑠璃家宮 皇太子殿下と綾 殿は初めましてですね。
権田 夫妻と宗像 先生、そして宮森 遼一さん、御久しぶりです。
特に宮森さん、貴方は私に大火傷を負わせて下さいました。
大変感謝していますよ。
私の両脇に控えて頂いているのは、外法衆正隊員の皆さんです。
彼らが着けている能面の名で御呼び下さい。
私の右が武悪さんで、左が中将さんです。
以後……が貴方方全員に有るかは判りませんが、御見知り置きを」
「丁寧な紹介、痛み入る。
余が
其方が天芭 大尉であるな。
龍泉村の温泉で大火傷したそうだが、具合はどうかね?」
「御心配には及びません。
ほら、この通り……」
瑠璃家宮の明らかな挑発に
「火傷
それにしても天芭 大尉、臣下の者から聞いていたのだが、其方らは
何故に先制の利を捨てるのだ?」
ここで〈白髪の
『儂が禁じたからじゃ。
いきなり結論が出ても詰まらんでの。
無論、討論中は存分に
「だそうでしたので、今回はそのまま姿を現わしたと云う訳です。
では、目的のモノの所有権を賭けて論じ合うとしましょうか」
天芭は腰の後ろに回していた両手を前に出す。
その手には、黄緑色の手袋が嵌められていた。
瑠璃家宮 陣営は各々が銃器を準備。
霊力を高揚させて外法衆を警戒する。
『
ここで負けたら全部オジャンだからな』
『天芭 大尉相手に自信は無いけど、今回は瑠璃家宮がいる。
何とかするさ』
ここで宗像が外法衆の三人を指差し、〈白髪の
『ちょっと待たんかい!
ワイらはここに来るまで、仰山の化けもんと
何であいつらだけはここまで素通りなんや。
おかしないか?』
宗像が〈白髪の
一同は思考と感覚の
『皆の者、確と
相手は外法衆、戦闘特化型魔術師の最高峰である。
余が全力を挙げて闘えば、勝利する事自体は
だが奴らは神力を解放した反動で余が石化するのを見計らい、残りの者共で帝居を襲撃するだろう。
当然その事態は避けねばならんが、余が神力を解放せぬままに闘っても勝ち目は無い。
そこで余の方から対抗策を示す。
蔵主 社長の固有術式である共有を使い、神力を皆に共有させる』
『殿下、そ、そのような事が可能なのですか?』
瑠璃家宮の奇策を危ぶむ宮森だったが、それについては蔵主が説明する。
『理論的には可能ですよぉ。
わたくしの固有術式である共有はぁ、共有する側が出来る範囲までの事しか出来ませぇん。
ですからぁ、〈ショゴス〉との融合を果たしていない方々に肉体の変容は起こりませんのでご安心下さいぃ』
『し、しかし、神力を解放すれば石化が起こるのですよね。
神力を共有する以上、その現象は自分達にも起こり得るのでは?』
今度は多野が答える。
『そう、であるからこの私がいるのだ。
私が使う石化解除の術式も同時に共有して貰い、石化を極力防ぎ乍ら闘う事になる』
瑠璃家宮が纏めに入った。
『細かい動きは余が支持する。
宮森よ、其方も良策を思い付いた際は遠慮なく申し出るがいい。
皆も良いな』
『はっ!』
宮森の返事を皮切りに、臣下一同が続く。
『御意に御座りまする!』
『同じくですぅ』
『緊張して来たけど、アタシ頑張る!』
『頼子、綾 様を頼むよ』
『分かりましたわ、あなた』
『殿下の御力を共有?
何かどえらい事になりそうやな……』
瑠璃家宮 陣営が秘匿通信を終えると、宮森は明日二郎と連絡を取る。
『明日二郎、瑠璃家宮が神力を自分らと共有するらしい。
お前の存在が知られる可能性が有る。
念の為に精神感応連鎖を切ってくれ』
『仕方ねえさ。
リンクは切るが、オイラがいなくなるわけじゃねえ。
いっちょ気張って来いや!』
『明日二郎、ありがとうな……』
宮森が明日二郎に
明日二郎の気配が消えた脳中を寂しく思いつつ、事の成り行きを見守る宮森。
秘匿通信前の宗像の質問には、〈白髪の
「その化けもんてぇのは、こいつらの事かい?」
武悪が錫杖を『シャン……』と鳴らすと、外法衆背後方向から
武悪が
掘っ立て小屋はその上方も
その何かは
[註*
瑠璃家宮 一行がその正体を掴む。
それらは多数の〈
今度は中将が
「ここに来る途中、植物の化け物と体格の良い〈ヴーアミ族〉に襲われたが殆どが焼けてしまったのでね。
もうこれぐらいしか残っていない」
それは明らかに、〈トロル〉と〈
夏の陽射しで湧き立つ
その中で瑠璃家宮 陣営は
そう、外法衆の面々も幻魔達と闘い、
「な、何や、あんたらも
宗像の
しかし瑠璃家宮 陣営は気持ちを切り替え、闘いに向けて奮起するよりない。
比星 一族を巡る争いに天芭の
『それでは、存分に討論会を楽しんでくれろ……』
〈白髪の
◇
外吮山頂上決戦 序盤 その一 了
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