ザ・グール・オブ・ザ・デッド Ⅱ Aルート その六

 一九一九年七月 長野県重井沢 外吮山内部





『ゴアアアアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーッン!』



 山全体を鳴動させる程の大爆発が起こり、一行は対気体障壁アンチ・ガス・バリアごと吹き飛ばされる。


 冷凍瓦斯ガス噴射装置の密閉容器ボンベ内に密閉されていた窒素が大膨張。

 元々の大気を押し退けた事で、一行は坂の上に押し上げられた。

 濛々もうもうけぶる坂の下は壁面が崩落しているらしく、単眼巨人の生死は判らない。


「あ痛たたたた~。

 えらい爆発やったな。

 地震かと思うたで……」


「う~っ、まだ頭がガンガンするよ~」


「蔵主 社長、出口への通路はまだ無事でしょうか……」


「ちょっと待って下さいねぇ……」


 蔵主 社長が指鳴らしフィンガースナップで振動を起こし、反響定位エコーロケーションで位置を確認する。


「出口は塞がってませんから大丈夫ですぅ。

 問題は通路ですねぇ。

 所々崩落が起きていますので急いだ方がいいでしょう」


 蔵主の指針に従い、大爆発の現場を後にする一行。

 坂道を登り切った後は傾斜の無い通路を暫く進み、ある程度の広さを備えた空間に出た。


「ここを抜けてもう一度折り返し坂を登れば出口に辿り着けますぅ」


 蔵主の宣言で安心したのか、皆足取りが軽い。

 冷凍瓦斯ガス噴射装置を手放した宗像は更に軽い。


 荷物から解放された宗像は綾から松明を譲り受け、快適さの余り踏譜スキップしている始末だ。

 その所為ではなかろうが、宗像の着地と同時に微震が起こる。


「がははは、すんませんな。

 近頃は太ってもうて、歩く度に地震じふるいが起こりよる」


 そう言って宗像が踏譜スキップを止めても、微震は未だ続いていた。

 然も段々と強まってくる。


「ウゴーーーーーーオオオォォン!」


 そしてあの雄叫おたけび。


「またアイツなの~」


 綾のウンザリした溜め息は現実となる。


 諦める事を知らない追跡者がその姿を現した。

 それも壮絶な姿で。


 先ず目を引くのが、体表前面である。

 大爆発の衝撃で、限度指定障壁リミテイションバリアが破壊されたのだろう。

 皮膚が焼けただれ筋肉が剥き出しとなっていた。

 加えて、石片や爆発した密閉容器ボンベの金属片も大量に突き刺さっている。


 すると、単眼巨人の筋肉はモクモクと高温の蒸気を上げ、体表前面に刺さっていた各種破片を体外へ押し出さんとするばかりに盛り上がった。


 単眼巨人の異相に気付いた〈ダゴン益男〉が呟く。


「奴は再生能力まで有しているのか?

 いや、再生機能の収まりが付いていない。

 あれは……膨張!」


 普通の生物ならば立ち上がる事さえ難しい負傷を負いつつも、それをものともせずに膨張を続ける単眼巨人。

 その体躯は今や、広間ホールの天井に届かんとしている。


 自らの任務を果たすべく、どこまでも猪突猛進して来る単眼巨人。

 その姿はまさに、人間の命を宿命さだめ邁進まいしんする【死神デス】と言っても過言ではない。


 一行は単眼巨人の襲撃に備える。

ダゴン益男〉はコルトM1911一丁を綾へ渡すと、自身の水刃ハイドロブレードを展開。

 宗像は松明を地面に置き、蔵主からウィンチェスターM1912を受け取った。


 単眼巨人がその圧迫感を存分に発揮して一行を追い込んで来る。

 勿論、一行も負けじと応戦を開始した。


 しょぱなは蔵主の懐中電灯による恒例こうれいの目潰し。

 しかし単眼巨人は眼球の感度調整を済ませたのか、全くひるむ素振りを見せない。


 綾は〈ダゴン益男〉から借り受けたコルトM1911で射撃してみるものの、細胞融解素が単眼巨人の体温に耐え切れず死滅してしまう。

 命中した弾丸自体も、膨張を続ける筋肉に押し出されてしまった。


 細胞融解素が効かないとなると、頼みの綱は必然的に宗像のウィンチェスターM1912となる。

 的は大きいので狙う必要はない。


 宗像が爆裂弾を叩き込んだ。


 一発目は土手どてぱらに命中、腹筋が飛び散る。

 宗像はそのまま銃把筒ハンドグリップを操作し連続射撃スラムファイア

 二発目は胸板に着弾。

 単眼巨人の肋骨あばらぼねあらわになる。


 ここまでの負傷で危険を感じ取ったのか、右手に握っていた棍棒の先端で顔を覆う単眼巨人。


『チイィン……』


 三発目の散弾は顔面にも飛び散ったが、単眼巨人の掲げた棍棒に阻止された。


 流石魔術を扱えるだけはある。

 もしかすると、この単眼巨人は思考と感覚の高速化クロックアップすら行なっているのかも知れない。


 単眼巨人本体の限度指定障壁リミテイションバリアは冷凍瓦斯ガス噴射装置の爆発で破れたが、棍棒に施された限度指定障壁リミテイションバリアいまだ健在である。

 その事に気付いた宗像は、棍棒を持った右手を狙い四発目を発砲。


 宗像の狙いを見越していた単眼巨人は、棍棒を振り下ろして散弾を弾き散らした。

 弾かれた散弾の一部が一行の許へも飛来するが、単眼巨人の動きを注視していた〈ダゴン益男〉が障壁バリアを張って事なきを得る。


 最後の五発目。

 単眼巨人の脳、又は心臓を吹き飛ばすのを諦めた宗像は足を狙った。


 三回目の足止めを狙っての事である。

 二度ある事は三度あるのことわざ通りとなるか。


 散弾は両脚に見事着弾。

 単眼巨人の腿肉ももにくを吹き飛ばした。

 単眼巨人が前のめりに倒れる……が、棍棒を口にくわえ、四つん這いになってまで一行に迫って来る。

 もうウィンチェスターM1912に弾を込める時間は無い。


 宗像の作った急所に当たればと思い、綾がコルトM1911を発砲する。

 しかし単眼巨人が四つん這いな為、肋骨が剥き出しの胸板や、あと一歩で内蔵まで見えそうな土手っ腹を狙えなくなっていた。


 遂に単眼巨人が宗像と綾に追い付く。


 口に銜えていた棍棒を左手で握り直し、左へと真一文字まいちもんじぎ払った。

 綾の孕み子が障壁バリアを展開するが、威力を相殺そうさいできずふたりは吹っ飛ばされる。


「きゃあああぁぁ!」

『ボフゥ~~ン』

「がべっ!」


 体重の軽い綾は空中に浮いてしまい危険な体勢で落下したが、着地点に宗像の太鼓腹が待ち受けていたので大事には至らずに済んだ。


 綾と宗像が吹っ飛ばされ危機におちいっている。

 それを見ていた〈ダゴン益男〉と蔵主は、助けに入らざるを得ない。


ダゴン益男〉はもう一丁のコルトM1911を蔵主に預け、一足先に単眼巨人へと突貫する。

 背後から近付き大腿部の裏を狙うが、単眼巨人はそれを予期し左脚を突き出した。


ダゴン益男〉は単眼巨人の攻撃は躱せたものの奇襲には失敗。


 単眼巨人は散弾の傷を修復し続け、胸部と腹部は元に戻りつつあった。

 このまま単眼巨人が脚部を修復し終えると益々厄介になる。


 蔵主は身体強化の術式を展開して味方と共有シェアし、一刻も早い撤退を提言した。


「皆さぁん、このままではらちが明きませぇん。

 後退した方がいいですぅ」


「そやな。

 ここでたたこうても決定打は出せんやろ」


「悔しいけどさんせ~い」


「仕方ありません。

 出来れば殿下達と合流して助力を乞いたい所ですが……」


 満場一致で撤退が決定し、一行は脱出を試みる。


 綾と宗像を先に逃がす為、蔵主がコルトM1911で牽制射撃。

ダゴン益男〉は単眼巨人に狙いを絞らせないよう、水刃ハイドロブレードで翻弄。


 蔵主と〈ダゴン益男〉が時間を稼いでくれている間に、綾と宗像が松明と懐中電灯を拾い出口方向へと急ぐ。


 遂に単眼巨人が立ち上がり蔵主と〈ダゴン益男〉にこう勝負を挑まんとしたその時、天井が崩れ何かが這い出て来た。


「何やあれは⁉」


「うそっ、木かなんかの根っこなの?」


「何が起こっている⁉

 若しや殿下達が闘っている相手?」


「これはぁ……」


 蔵主のみが冷静に場の霊力を精査スキャンする。


⦅恐らくぅ、あの根は殿下達と闘っている化け物のものらしいですねぇ。

 しかしぃ、あの根からはかすかに殿下のお力も感じますぅ。

 殿下がお力を使われるとはぁ、苦戦を強いられているようですねぇ。

 けれどこちらにとっては好都合ですぅ。

 利用させて頂きましょう……⦆


 天井を破って現れた怪奇植物根に、生体活性術式を流し込む蔵主。


 あの怪奇植物は比星 播衛門を名乗る〈白髪の食屍鬼グール〉が用意した刺客しかくであるらしく、完全に独自の意思を持っていたのだ。

 但し、その意思は千々ちぢに乱れ混乱の様相を呈している。


 それを瑠璃家宮の仕業であると看破かんぱした蔵主は、この状況を利用し怪奇植物根を操ろうと考え実行した。


⦅あの植物内を流れる電気信号を殿下が乱してくれているようですねぇ。

 根っこ部分だけならなんとか操れそうですぅ……⦆


 幾ばくかの抵抗が有ったが、蔵主は怪奇植物根の操縦権を手中に収めた。


 蔵主が信号を操作すると、根は次の栄養分に狙いを定める。


 そう、単眼巨人だ。





 ザ・グール・オブ・ザ・デッド Ⅱ Aルート その六 了

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