ザ・グール・オブ・ザ・デッド Ⅱ Aルート その五

 一九一九年七月 長野県重井沢 外吮山内部





 蔵主 社長が号令を発すると、皆が行動に移った。

ダゴン益男〉は槍の残骸で細工し、綾も念動術サイコキネシスで手伝う。


 宗像は冷凍瓦斯ガス噴射装置を準備し、蔵主は懐中電灯を用意した。

 総員準備を終え、四方へと散らばる一行。


 遂に単眼巨人が広間ホールへと飛び出して来た。


 単眼巨人が現れたのを確認すると、一行は先ほど仕掛けを施した場所を目指し移動を開始する。

 只今の所、照明は綾が持つ松明のみ。


 それについて蔵主が考えを巡らす。


⦅巨大芋虫もそうでしたがぁ、一つ眼も僅かな光源で活動できるよう、光に対する感度が高い筈ですぅ。

 もしくは完全な暗闇でも活動する為ぇ、魔術的改造を施されているやもしれませんねぇ……⦆


 殺意をみなぎらせて突進して来る単眼巨人めがけ、蔵主が懐中電灯を点灯させた。


 案の定、眼を覆って立ち止まる単眼巨人。


 そこへ綾が手を叩きれ歌を贈る。


「鬼さんこちら、手のなる方へ♪」


 揶揄からかわれているのを察したのか、単眼巨人は綾の方へ盲進する。


 綾は続けて手を叩き、単眼巨人をある場所へと誘導した。


 ようやく眩しさに慣れた単眼巨人が眼を開き、にっくき綾の姿を捉える。

 棍棒の射程圏内に彼女を捉えんがため一歩踏み出した単眼巨人は、足の感触が奇妙な事に気付いた。


 そして、今更になって自身の愚かさをいる事となる。


 宗像が単眼巨人の足元に向け冷凍瓦斯ガスを噴射した。

 単眼巨人は体温が高く、凍結させるには時間が掛かる筈である。


 それを知ってか知らずか、単眼巨人も冷凍瓦斯ガスから逃れようと動いた。


 動けなかった。


 宗像が冷凍瓦斯ガスを浴びせていたのは、何も単眼巨人だけに限ってではない。


 単眼巨人がいま踏んずけているモノにも噴射していたのである。

 それは、一行が退治した巨大芋虫達の死骸だった。


 巨大芋虫は粘液を多量に分泌し、それを加工した唾弾だだんも作り出している。

 詰まり、巨大芋虫の死骸には多量の水分が含まれている筈なのだ。


 蔵主の懐中電灯による閃光攻撃で一時的に盲目となった単眼巨人は、綾の手拍子と戯れ歌に釣られ、巨大芋虫の死骸が横たわった場所へと入り込んでしまう。

 そして巨大芋虫の死骸からあふれ出た粘液に足を絡め捕られ、動くに動けない状態となってしまったのだ。


 加えて冷凍瓦斯ガスの成分である液化窒素が気化した事により、一帯の空気をことごとく押し出す。

 その御蔭で酸素欠乏のき目に遭う単眼巨人。

 無論、綾が気流制御を行い自陣に被害が及ばぬよう調整するのも忘れない。


 巨大芋虫の死骸ごと凍結させられた単眼巨人を尻目に、一行は捨て台詞ぜりふを吐いてその場を後にする。


「よっしゃ!

 これで足止め成功や!」


「その図体ずうたいとおつむは反比例しているようですねぇ」


「だからお前は帝居襲撃の人員に選ばれなかったのだ。

 看守風情ふぜいがお似合いだな」


「バカ鬼さんこちら、手のなる方へ♪」


 単眼巨人の足止めに成功した一行は、地上への出口を目指し走り出した。


 一分ほど走った時点で、蔵主が反響定位エコーロケーション術式を再使用。

 出口位置を割り出しに掛かる。


「ふむふむぅ、こちらですねぇ」


 蔵主の案内で洞窟を進んだ一行は、出口へと続く通路に入った。

 通路は山の頂上に向かっているらしく、登り傾斜が付いている。

 幅も狭くなって来ており、大人ふたりが並んで歩けるぐらいの幅しか無い。


 一行は登りの折り返し坂に差し掛かった。

 蔵主の見立てでは、ここを登れば出口までもう少しらしい。


 一行が坂を登ろうとしたその時、どこからともなく地響きが伝わる。


 段々と近付いて来る。


 その正体に見当が付いた一行は、坂を登り乍ら戦闘態勢に入った。


「はあ~、やっこさん来よったで」


「私が前衛に立ちます!」


「益男さんお願い」


「上手く行きますかねぇ」


 あんじょう、単眼巨人が姿を現した。


 巨大芋虫の死骸と共に凍結していた足元は、僅かに巨大芋虫の残骸がこびり付いているのみでほぼ元通りになっている。

 そして、一向に対する怒りでなのか将又はたまた別の要因が有るのか、単眼巨人は身体から蒸気を噴き出していた。


「ごっつ熱いやんけ……。

 何がどうなっとるんや?」


 宗像の疑問に答えようとしたのか、単眼巨人を精査スキャンする蔵主。


「一つ眼の周辺気温が異常だぁ。

 おそらく摂氏五〇度を超えているかとぉ。

 通常だと体細胞がとっくにゆだってるはずですぅ。

 おそらく奴は霊力で身体を冷却してるんでしょう。

 筋肉モリモリのくせに魔術師なんですよぉ、あの一つ眼はぁ。

 それにぃ、先程より背丈せたけが伸びてるんですよぉ!」


 正確には背丈だけではなくそのままの縮尺スケールで巨大化しているのだが、一行にはそれを吟味ぎんみする余裕も無い。


 取り敢えず、懐中電灯の灯りを単眼巨人に対して浴びせてみる蔵主。


「ガアアアアァ!」


 叫びを上げてまぶたを閉じはしたが、単眼巨人の盲進は止まらない。

 単眼巨人の体躯たいくが通路一杯なので、行き先について迷う必要がないからである。


 前に出た宗像が冷凍瓦斯ガスを噴射してみたが、単眼巨人の体温が高過ぎて効果が薄い。

 それに単眼巨人が乱暴に棍棒を振り回す為、継続しての噴射も不可能だった。


『このままではあかん!』と、宗像が一か八かの策を披露する。


「もう冷凍瓦斯ガスでは奴を止められへん。

 せやから、冷凍瓦斯ガス噴射装置の容器ごと奴に投げ付ける。

 蔵主 社長、その容器を散弾銃で撃ち抜いてくれ。

 一つ眼に張られてる障壁が破れればそれで良し。

 破れなくとも、酸欠で倒す事が出来たらそれも良し。

 最悪、通路自体を崩落させて生き埋めにしたる!」


 通路の崩落は一行にとっても命取りになり得るが、今は手段を選んではいられない。


 皆も宗像の意見に賛同し、行動へと移った。


 宗像が密閉容器ボンベバルブを閉めて〈ダゴン益男〉に手渡し、彼が単眼巨人へと投げ付ける。

ダゴン益男〉は爆発に備え対気体障壁アンチ・ガス・バリアを展開。

 綾は酸欠に備え気流制御。

 対気体障壁アンチ・ガス・バリアと気流制御を確認した蔵主が、ウィンチェスターM1912で密閉容器ボンベを撃ち抜く。


 散弾が飛び散り密閉容器ボンベに穴が開くと、凄まじい勢いで液化窒素が気化した。


 それにより、洞窟内で大爆発が起こる――。





 ザ・グール・オブ・ザ・デッド Ⅱ Aルート その五 了

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