ザ・グール・オブ・ザ・デッド Ⅱ Aルート その四
一九一九年七月 長野県重井沢 外吮山内部
◇
鉄扉内部に突入した一行。
そこは洞窟内にも増して人工的な通路になっていた。
床面と壁面共に石材の削り出し跡が消え、滑らかな質感の石造りである。
天井もかなり高く、四メートル近くは有った。
どうやら、完全に岩盤中を掘り進んで造られた通路らしい。
今は灯りが灯っていないが、壁面には松明受けも取り付けられている。
少し進むと折り返し階段に行き当たり、更に下降して行った。
階段の終点に辿り着く一行。
先には通路が伸びており、
一行が行き当たったそこは、鉄格子の嵌まった部屋が並ぶ牢屋だった。
通路の両側は
右側に九房と左側に九房。
牢全体としてはかなりの広さだ。
外壁には突き出し
これにより、この牢屋が何者かの管理下である事が判明した。
突き当たりには又もや鉄扉があり、その先の空間と看守の存在を匂わせる。
一行は雑居房を観て回る事にした。
最初の房の前まで来た一行が中を覗くと、益男と宮森が
「これは、私と宮森さんで
ここに運び込まれていたとは……」
不思議と腐敗臭がしなかったのも奇妙な点だ。
又、細胞融解素を使って
『どこかで見た事がある……』と〈
「もしかしてここ、大発見じゃない?
お兄様に知らせた方が……」
「綾 様、洞窟に入る前に〈白髪の食屍鬼〉が言った言葉を思い返してみて下さい。
奴は洞窟内と外部との精神感応は出来ないと言っていました。
自分も一応 頼子に信号を送ってみたのですが、応答が有りません」
「益男さんでもダメなんだー。
めんどくさいねー」
「恐らくぅ、ここの情報を早い段階で漏らしたくなかったのでしょうねぇ」
蔵主 社長が見解を述べた後、その先に並ぶ房を順に確認する一行。
その他の雑居房には、一房当たり十数人程の人間が詰め込まれている。
死んでいる者も多く、死んでいない者も深い眠りに落ちているようで殆ど動かない。
一々房内に入らなくとも良いかと思われたが、最低でも比星
その為に〈
一行が房内に入って確認作業を行なう。
当然各房からは屍臭が漂っており、宗像などは吐き気を
しかし、今のところ澄は見付からない。
一行が奥に近付くに連れ、饐えた匂いとも糞尿の匂いとも屍の匂いとも違う刺激臭が漂って来た。
珍しくひとり部屋である。
中の囚人が一行に声を掛けた。
「おお~良く来たのぉ。
うぃーひっくっ……。
酒を持って来てくれたのか?
何、酒じゃない?
ふざけるな!
余は……余は酒が呑みたいのである!
そ、それも普通の酒では駄目なのじゃ!
ウヰっ、スキーでない事には~むにゃむにゃ……。
満足できんのであるううぅ、うっぷ!」
この囚人は〈
囚人を観て、宗像 以外の顔が嫌悪に
「ああ、
〈夜鬼〉に攫われ
「なんであんたがいんの?
てか生きてんの?
信じらんない」
「まあまあぁ、益男 君も綾 様も落ち着いてぇ。
ここに捕らえられているという事はぁ、あの〈白髪の食屍鬼〉が利用価値を認めているという事ですぅ。
このまま放って置いても我々の益にはなり得ませぇん。
せっかくの機会ですからぁ、ここで殺してしまいましょう」
「皆さん、この男誰でっか?」
ひとりだけ男の正体を知らない宗像が問い掛けるも、三人は徹底的に無視する。
「何だあ~、余に
この……ゔぉえぇっ!」
酔いが回り過ぎて
『ガタン!』と云う音と共に突き当りの鉄扉が勢い良く開き、熱気を
〈
鉄扉を開けて入って来た者、その姿を見た一行は恐怖を覚える。
毛むくじゃらでもなければ
その者は毛皮を腰に巻き、右手には一メートルを超える
左手の親指と人差し指で摘まんでいるのは、
その者の背丈は一丈(三・〇三〇三メートル)を軽々と超えており、頭部が天井に届かんばかりだ。
これは何故かと云うと、生物は体積が大きくなるに連れて身体の表面積が小さくなり、体内で発生した熱が逃げにくくなるからである。
足先は〈
〈
犬顔とも猿顔とも違う
単眼。
数々の神話で語られる所の〖サイクロプス〗。
この国で呼ばれる所の〖
単眼巨人の登場により、一気に室温が上昇した牢屋内。
一行は余りの巨体に絶句していたが、一部の者が手を叩き
「おお~やっと来てくれたか。
待ちわびておったぞ……うぃーひっくっ!
ささっ、
何じゃ、また焼酎か……。
ウヰスキーが良い!
余はういっ、スキーが呑みたいのじゃ~むにゃむにゃ……」
あの酔っ払いである。
単眼巨人は酔っ払いの独房に一升瓶を置き、黒い一つ眼で侵入者達を見据えた。
危機を感じた〈
一番近くにいた〈
彼はその一撃を受けずに何とか
そして、石の床面を砕いた棍棒に対し軽く
『キィィン……』
観たところ単眼巨人の棍棒は木製だが〈
彼はこれと同じ事をつい先日体験していた。
「皆さん、この棍棒には障壁が張られています!
恐らく奴自身にもです!
この場所は狭く闘いにくいので今は逃げましょう。
〈
そこで蔵主が身体強化術式を展開し、自身の固有術式でそれを一同と共有した。
その結果、綾も身重とは思えない機動力を獲得する。
牢屋を脱出した一行は、来た道を戻らざるを得なくなった。
折り返し階段を引き返す途中で、身体強化術式共有条約が
「何や、身体強化共有して
「ごめんなさいぃ。
宗像さんには冷凍
それよりも走っている間は精神感応で話しましょう」
「あ、そやったわ……」
宗像が
『とりあえずー、登った先の広間で闘う?』
『そうなるでしょう。
しかし綾 様、一つ眼に展開されている障壁に銃弾は効果が無いと思われます。
他の方々は何か妙案がお有りでしょうか?』
『ワイには一応あんねんけどな。
その為には、出口と狭い通路を見付ける事が必須や。
一つ眼から逃げ乍ら、出口を探索し乍らやからな。
けっこうきついで……』
『探索の方は私が請け負いましょう。
毎度で申し訳ないのですが益男 君は一つ眼を牽制して下さいぃ。
余裕があればで宜しいですからぁ、綾 様は益男 君の補助をお願いしますぅ』
作戦
「皆さんお静かにぃ……」
人差し指を唇に当てた蔵主は沈黙の仕草。
皆が黙ると、蔵主は唐突に
『パチン!
…………』
その音は地下空間中を伝わり、床、天井、壁からの反響という形で蔵主の耳へと
蔵主は目を
【
[註*
コウモリ、一部のクジラ、イルカなどは自身の器官を用いて音波を発し、その反響から周囲の環境把握を行なっている。
鳥類であるアナツバメやアブラヨタカも、
蔵主が
『皆さぁん、山頂へと通じるかも知れない道を見つけましたよぉ。
それでは当座の作戦をお伝えしますぅ……』
◇
ザ・グール・オブ・ザ・デッド Ⅱ Aルート その四 了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます