ザ・グール・オブ・ザ・デッド Ⅱ Aルート その三
一九一九年七月 長野県重井沢 外吮山内部
◇
〈
すると、懐中電灯に何かが張り付き地面に転がった。
地面に張り付いた懐中電灯は放光が鈍い。
巨大芋虫が苦手とする人工光を先に封じられた形になる。
蔵主が皆に注意を促した。
「皆さぁん、芋虫野郎は粘液を分泌するだけでなく吐き出して飛ばせるようですぅ。
充分に注意して下さいぃ」
蔵主が言った
思考と感覚の
⦅お願い赤ちゃん……⦆
綾は躱すのを諦め、孕み子の展開する
その願いは功を奏し、巨大芋虫の唾が吐き掛けられる寸前に
綾の安全を確認した〈
巨大芋虫は
見事巨大芋虫に接近を果たした〈
ちから一杯槍を突き刺し、穂先下に
巨大芋虫の内部で爆裂弾が炸裂し、一頭をバラバラに吹き飛ばした。
続く宗像も一頭を発見。
冷凍
巨大芋虫も唾弾で接近を阻もうとするが、それらも一瞬で凍結し地に落ちた。
宗像は冷凍
蔵主の標的は少々位置が離れているが、彼は気にも留めず走り寄った。
意外に運動能力が高いのか、巨大芋虫の唾弾をスイスイと躱し滑らかな動作で槍を突き出す。
槍は粘液層を突破して巨大芋虫の皮膚に突き刺さり発火。
彼の霊力に呼応して細胞融解素が獲物を
「こっちは効きましたよぉ」
蔵主の報告を受けた〈
そして綾の許へと戻ろうとしたその時、彼女の悲鳴が響き渡る。
「またコイツ来た~、丸呑み二回目~!」
〈
そのまま綾の丸呑みを完了した巨大芋虫は、膨れた巨体を横たえ空間奥へと姿を消す。
綾が連れ去られる様子を目にした〈
彼は
何らかの処置を施さない限りこの
全速力で追跡しようとする〈
「益男くぅん、お止めなさいぃ。
地面は巨大芋虫の吐いた唾で足の踏み場もない状態ですよぉ。
もし踏んずけでもしたら今度は足を断つのですかぁ?
障壁は展開されていましたのでぇ、綾 様がすぐに消化される事はないと思いまよぉ。
今は冷静になるべきですぅ」
蔵主の一言もあり、〈
綾を
先ずは邪念水や血入り紅茶を飲み、各人体力と霊力を回復させた。
次は弾薬補給に取り掛かる。
地面に転がっていた〈ヴーアミ族〉の槍も二本見付かり、巨大芋虫に対して有効だった
後は地面に転がっていた槍の残骸を利用し、懐中電灯に付着していた巨大芋虫の唾をこそぎ取る。
その御蔭で、懐中電灯は何とか使用できる迄になった。
諸々の用事を済ませた所で、一行は今後の方針を協議する。
「綾 様が攫われて、こっから先どないしますのん」
「この権田 益男、耐え難い失態を犯しました。
勿論追い掛けますよ」
「それは良いのですがぁ、巨大芋虫が行く先々で唾を吐いているやも知れませぇん。
地面を注視しながら進みましょう」
「それにしても蔵主 社長、何かすばしっこく動けてましたな」
「ああぁ、身体能力強化の術式ですねぇ」
「蔵主 社長、男 宗像たっての願いなんやけど、その……身体強化の術式も共有して下さらんか?」
「霊力を消耗するので嫌ですぅ。
でもぉ、いざとなったら
「思い切りが悪いな……。
いざとなったら、ホンマ頼みますよって!」
宗像と蔵主が身体強化術式共有条約を締結した所で、一行は綾の探索へと乗り出した。
◇
先程の取り決め通り、一行は地面に吐かれた巨大芋虫の唾に注意して進む。
〈
洞窟は次第に下り傾斜となり、途中からは更に
加えて空間の幅も
「おっ、また広い場所に出よったか?」
宗像の声が空間に響くが、どこかしらでその響きが
突然、自身の打ち込んだ
「複数の気配が在ります。
おそらく奴……いえ、奴らです!」
一行が警戒して歩みを進めると、巨大芋虫がいた。
然も複数が合体した五頭形態である。
中心の一頭は大きく膨れており、丸呑みにされた綾の所在が知れた。
多頭芋虫が
蔵主が松明を地面に置き、槍を構えた。
「又ようけ
今度は逃がさへんからな」
宗像の言葉に反応したのか、多頭芋虫は急速に地面を這い進んで来る。
途中で首を
一行の動きを牽制して来た。
〈
多頭芋虫の左側面に回り込む。
宗像は多頭芋虫の右側面、蔵主は槍を構えて正面に陣取った。
多頭芋虫との間合いが詰まり、乱戦に
右に左にと噛みつき攻撃を仕掛ける多頭芋虫。
〈
宗像は斜め後方に待機。
冷凍
多頭芋虫が
『綾 様ぁ、芋虫野郎のお腹の中はどうですかぁ。
気持ちいいですかぁ?』
『う~ん、まあまあね。
でも、そろそろ息が続かなくなってきちゃったから、
『はいどうぞぉ』
蔵主と連絡を取った綾は、その身を異形化させた。
『アタシの赤ちゃん、一瞬だけ障壁を解いてっ!
お願いっ!』
綾が孕み子に言い聞かせ
続けて穂先の下に括り付けられた弾丸を霊力で発火。
中心個体の体内で爆裂弾が炸裂する。
当然そのままでは〈
計三つの声帯と
爆裂弾の衝撃波に指向性を与えた。
すると中心個体の上部が丸々吹っ飛び、内部から無傷の〈
爆裂弾の衝撃と〈
その隙を逃す一行ではない。
〈
細胞融解素の餌食とする。
蔵主は槍を地面に置き、〈
異形化により両脚が一体化している彼女を中心個体から引き
小柄な蔵主が妊娠した人魚姫を御姫様抱っこする姿は、中々に
宗像は〈
「これでキンキンのカチンコチンの……カチ割り氷やー!」
勢い余った宗像は
「うおらぁー、いったれー!」
出来立ての氷像に叩き付けるが、あえなく『ガイ~~~ン』と弾き返されていた。
「か、硬いやないけ……」
その様子を苦笑して眺めていた〈
彼は即座に
「そんな恨めしそうに見ないで下さいよ宗像さん」
「ええなー。
益男はんは強うて、ええなー」
「そ、それより綾 様、芋虫に呑まれた御感想は……」
〈
「なんかー、アタシを食べるっていうかー、どっかに運びたがってたみたいなんだよねー」
「それはもしかしてぇ、あの扉の向こうでしょうかねぇ」
蔵主が懐中電灯を向けた先に巨大な鉄扉が見えた。
鉄扉の許へと近付き吟味する一行。
「この大きさ城門並みやで~。
何が出入りする為の門なんか、大きさだけでも想像付くわ」
「巨大芋虫のような化け物の巣、なんでしょうか?」
「なんか牢屋っぽいし、そうじゃない?
もしかしたら宮司さんのお母さん(比星 澄)がいるかもよ」
「確かにぃ、比星 播衛門を名乗る〈白髪の食屍鬼〉はぁ、自分と宮司殿が山の頂上にいると言っただけですからねぇ。
本当かどうかも判りませんしぃ、澄 殿がいる可能性はありますぅ」
一行は協議の結果鉄扉を開けて進む事を決定したが、丸呑みにされていた綾の為に小休止を取る事にした。
綾は自らが爆破した巨大芋虫の中に置き忘れて来た運動靴を〈
綾が回復して運動靴を履いた後、一行は開門に掛かった。
「あっ、松明はアタシが持つね」
綾へ松明を渡すと、鉄扉の裏に掛けられている
蔵主が
これから鉄扉内へと足を踏み入れる一行。
宗像が振り返り、カチ割氷になった巨大芋虫の残骸を眺め乍ら呟く。
「ワイもかっこ良く必殺技決めたかったわ。
益男はん、ええなー……」
◇
ザ・グール・オブ・ザ・デッド Ⅱ Aルート その三 了
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