ザ・グール・オブ・ザ・デッド Ⅱ Bルート その三
一九一九年七月 長野県重井沢 外吮山八合目
◇
巨体〈ヴーアミ族〉に左下膊を切断された〈
瑠璃家宮は切断された左下膊を彼女に放り投げ、再生を命じる。
そのやり取りを横目で見ていた宮森は右手でコルトM1911を構え乍ら、
今度巨体〈ヴーアミ族〉が接近してきた時にぶっ
警戒態勢を可能な限り万全にし、多野 教授に
緊急事態の為、ふたり共思考と感覚の
『多野 教授、あの巨大な〈ヴーアミ族〉は一体……』
『むぅ、あれはまさか……』
『知っているのですか多野 教授!』
『うむ。
あれは恐らく〈トロル〉だろう』
『北欧神話で言及される巨人や妖精の、ですか?』
『表の世界ではそうだろうが、起源は〈ヴーアミ族〉にある。
何を隠そう、〈ヴーアミ族〉と
〈ヴーアミ族〉自体が現在では発見できないと云う事もあり、どのようにしたら
ではこれより、あの個体を〈トロル〉と呼称する』
『〈トロル〉か、巨人や妖精だったら日光が弱点なんですがね。
それも叶わないか……』
『然も頼子 君が足の鉤爪でやられておる。
この分では、手の鉤爪も自在に出し入れ出来ると考えた方が良かろうな。
全く、げに恐ろしき技よ……』
多野の〈トロル〉講釈は
それを知ってか知らずか、〈トロル〉は宙空を這う蔓触手を
生理的に嫌悪を
その相棒である〈
偽茎上部を一周する〈ヴーアミ族〉の顔の
〈トロル〉にとっての【
もう
狙うは、〈トロル〉ではなく〈
細胞融解素がキッチリと仕事をこなし、犬顔一つをグズグズにした。
だが瞬く間に白い泡が発生。
組織の修復を開始してしまう。
〈
その
『明日二郎、あの白い泡は何だ?』
『おでこのメガネでデコデコッでこり~ん。
う~んと……おーおー……ハイハイ。
ありゃ水分と栄養分だな。
竹なんかと一緒で、根から吸い上げて組織を修復してるみたいね。
それプラス、周りの植物なんかから水分と栄養分を吸い取り続けてる。
細胞融解素は一応効くみてーだけど、あの程度のダメージじゃあ焼け石に水だな。
ライフル弾使うのはもったいねーって、ルリヤノミヤに言っとけよ』
『犬顔一つ黙らせただけか……。
明日二郎、引き続き精査を頼むぞ』
『ロジャー!』
早速 明日二郎の分析結果を瑠璃家宮に報告する宮森。
「殿下、〈地獄の植物〉に細胞融解弾は効果が薄いようです。
自分が別の方法を考えますので、小銃弾はなるべく温存して下さい」
「もう敵の性質を見抜いたか。
では宮森、其方の良策を期待する……」
瑠璃家宮の期待に精神的な
宮森はその飛礫に違和感を覚える。
⦅何だこの派手な黄色は?
飛礫の砕け方が粉っぽいし、甘い匂いもする。
花の蜜でも混じっていると云うのか?
くそっ、また投げて来た!⦆
どこからか弾薬を補給して来た〈トロル〉が、再度黄色い飛礫を宮森へと投げ付けて来る。
〈トロル〉から片時も目を離していない宮森だったが、地上に降りた様子の無い〈トロル〉が、どこで飛礫を補給したのか見当も付かない。
何発か黄色い飛礫を放った後、〈トロル〉は器用に蔓触手を渡り〈
その間、明日二郎からの
『ミヤモリよ、黄色い飛礫の正体は花粉だぜ。
あの逆さまスカート(
『こっちでも確認した。
あれを吸い込むとまずい気がするんだけど……』
明日二郎からの報告通り、一同からは見えない位置で仏炎苞の中に手を探り入れ、
宮森は急いで一行に注意喚起した。
「皆さん、黄色い飛礫は〈地獄の植物〉の花粉です。
吸い込むと危険かも知れませんので、水で顔面を覆って下さい!」
宮森の注意喚起に〈
水筒を多野へと投げ渡す。
多野は
井高上大佐との闘いでも見せた、水の
これで暫くは花粉吸引の抑制が可能だ。
間合いを取って次から次へと花粉飛礫を繰り出す〈トロル〉。
宮森がコルトM1911で狙い撃つが
⦅何故こちらの射撃が当たらないんだ。
こちらが射線上に〈トロル〉を捉えても、〈地獄の植物〉の蔓が動いて射線上から逃がされてしまう。
まさに以心伝心の……もしかしたら奴らは!⦆
自らの推測と
「皆さん、自分の推測ですと、あの〈トロル〉と〈地獄の植物〉は精神感応しています。
そして、少なくとも〈トロル〉の方は思考と感覚の高速化を行なっている可能性が高いです!」
宮森が呼び掛けている間にも、〈トロル〉と〈
〈トロル〉は花粉飛礫を一行に向かってだけでなく、何故か離れた地面にも投げ付けていた……。
花粉飛礫を投げ尽くした〈トロル〉は補給には戻らず、〈
両手両足の鉤爪を伸ばして襲い掛かる。
四肢の鉤爪を伸ばした姿は巨大な
その活発樹懶をサベージM1907で迎え撃つ多野。
しかしサベージM1907の三二口径弾では威力が小さく、両手の鉤爪で弾丸を弾かれた。
着地した〈トロル〉は持ち前の俊敏性を発揮。
多野に向かって跳び蹴りを放つ。
〈
〈トロル〉は両膝を曲げて力を溜めた後、〈
その突進は極めて低姿勢で、多野の
そして低姿勢のまま仰向けになり、多野の首を刈り取りに掛かる。
〈トロル〉は多野の顎下で両手を広げ、回転し乍ら鉤爪を交互に繰り出した。
五回転目で
多野を丸裸にする。
「グルルッ……」
多野の
〈トロル〉は右手の鉤爪を振り抜くとそのまま勢いを保ち、最後の回転を仕掛ける。
左手の鉤爪で多野の首を……
「甘いわ!」
「ギーーーーーィィッ⁈」
刈り獲れなかった。
多野の身体が突如発光。
帯電する。
帯電した多野からは、いつ電撃が放射されるか判らない。
〈トロル〉は電撃を警戒し攻撃を諦め、後方転回(バック転)を繰り返してその場を離れる。
途中、体勢を立て直した〈
一旦退いた〈トロル〉は再び〈
◆
ザ・グール・オブ・ザ・デッド Ⅱ Bルート その三 了
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