ザ・グール・オブ・ザ・デッド Ⅱ Bルート その二
一九一九年七月 長野県重井沢 外吮山八合目
◇
何らかの異変を感じ取った明日二郎が宮森に申告する。
『ミヤモリ、〈ヴーアミ族〉の死骸に生命反応を検知!
何かとんでもないコトになってるぞ』
『なんだってー!
済まん、取り乱して……なんだってー!』
宮森が取り乱すのも無理はない。
死骸に生命反応と云う矛盾の出所が、予想外の事態に陥っていた。
先程の闘いで絶命した〈ヴーアミ族〉の死骸全てから、粘液質の
死骸から抜け出したそれは互いに寄り集まり、一つの巨大な塊を形成して行った。
「皆さん、〈ヴーアミ族〉の死骸から正体不明の物質が出て来ました。
注意して下さい!」
宮森の呼び掛けで粘液塊を認知した他の面々だったが、相も変わらず降ってくる飛礫に防戦一方で、粘液塊にまで手が回らない。
一行が手を出せないうちに八体の〈ヴーアミ族〉から吐き出された粘液塊は合体を果たし、今度は天へ向かい急速に伸長して行った。
良く観ると地面にも粘液の一部が伸びて行くのが判る。
そこから粘液塊は爆発的に増殖し、その質量を肥大させた。
その変容速度は、あの〈ショゴス〉にも匹敵する。
地上から七、八メートル付近にまで粘液塊が達すると伸長が停止。
今度は
中央の柱状粘液塊の下部から上部へと、薄い
薄い葉状組織一つ一つが重なり合い、
[註*
偽茎を持つ代表的な植物は、ネギ、ショウガ、ハナカンナ、バナナなど]
偽茎組織は急速に木質化を開始。
なぜ擬きなのかと云えば、その姿が植物全てを
木質化した葉鞘の葉脈が怪しく脈打つ。
外吮山の土から養分を吸収しているのだろう。
太く成長した偽茎の上部には、〈ヴーアミ族〉の顔八つが浮き出ていた。
偽茎を一周するように張り付いたその顔達は、不可解な事に
顔達の直上には、巨大な
又、
最上部には
[註*
お化け蒟蒻とも呼ばれる。
その特徴的な花序からは、
虫を誘引して受粉を成功させる為に発生させる匂いも強烈で、英語名は
短時間で凄まじい成長を成し遂げた植物擬き。
周囲の緑が色あせている事から、水分と栄養分を他の植物から吸い取っている事は明らかである。
「むぅ、あれはまさか……」
植物擬きの異容を目の当たりにした多野 教授が呟き、宮森が食い気味に詳細を求める。
「知っているのですか多野 教授!」
「うむ。
アレは恐らく〈地獄の植物〉だろう。
種子を埋め込まれた宿主が特定の条件を満たした時に発芽、成長する。
その種子には霊力に感応する成分が含まれていると云われ、古代の魔術師は霊力を封入してそれを使役していたらしい」
「では教授、〈地獄の植物〉の種子は九頭竜会も所持しているのですか?」
「在るには在る。
だが、研究用の標本として所持しているだけだ。
数が少なく貴重なので、我が派閥では実戦での使用許可を出す事などない。
まあ、いま目前で大盤振る舞いされているがな……おおっと⁉
飛礫が飛んで来よったわ」
飛礫に
流石は師と弟子と云った所か。
多野が講義を続ける。
「〈地獄の植物〉の種子は主に、古代遺跡などから発掘されていた。
しかし今では、掘れる場所はほぼ掘り尽くされてしまっている。
もう出ないかと思っていたのだが、目の前に在ったとはな。
状況から考えて、播衛門 殿を名乗る〈食屍鬼〉が
宮森に続き、〈
「多野 教授、〈地獄の植物〉の性質を具体的に御教え下さい」
「
日光を浴び、土から養分を得て成長。
条件が整えば繁殖する。
勿論他の生物が良い肥料になるのは
その為には、他の生物を殺す事も
現に、〈地獄の植物〉周囲の草が枯れておる」
「戦闘は不可避だと云う事ですね」
「勿論術者の操作があれば別だが、今は叶わんだろうな」
「では目ぼしい対処法は……」
「記録に乏しく確実な事は言えん。
只、アレが暴れるとなると並の術者ではまるで歯が立たんのは確実。
げに恐ろしき怪物よ……」
多野の講義が一段落すると、飛礫の正体が木立から跳び出して来る。
その化け物は見た目こそ〈ヴーアミ族〉に似ているが、倍近い体躯を有していた。
相違点としては〈ヴーアミ族〉の武器である鉤爪が見られない事と、面貌が
〈ヴーアミ族〉だとすると破格の体躯を持つこの個体。
なんと、〈
そして
これ迄の飛礫が
広範囲に広がる飛礫を一行は避け切れず、
外れた分の石が地面にめり込んでいるのを見ると、その威力がどれ程のものかが窺える。
巨体〈ヴーアミ族〉は飛礫を全て投げ付けた後、別の蔓触手に跳び移った。
そして〈
それを観た〈
巨体〈ヴーアミ族〉が次の蔓触手に渡ろうとしたその時、〈
弾道は蔓触手の振り子運動に合わせたもので、巨体〈ヴーアミ族〉の未来位置を的確に捉えている。
その場の誰もが命中すると思っていた。
「何ですって⁈」
命中しなかった。
蔓触手がまるで意志を持っているかの如く動き、ぶら下がっていた巨体〈ヴーアミ族〉を方向転換させたからである。
方向転換した先は〈
巨体〈ヴーアミ族〉は蔓触手を両手で掴み、彼女の左側から横蹴りを食らわす。
彼女は左手で持っていた
この分だと、防御からの反撃まで充分間に合う。
攻撃を受け切ってからの反撃を予定していた〈
「がふぅっ⁉」
防御すら間に合わなかった。
慌てた宮森が巨体〈ヴーアミ族〉を狙い撃つが、〈
宮森は思考と感覚の
しかし、巨体〈ヴーアミ族〉は背中に目でも付いているかの如く限り限りで躱し続ける。
宮森の脳内で『
いま巨体〈ヴーアミ族〉から目を離す訳にもいかず、宮森には〈
彼は取り
その場で苦痛に呻く〈
「早く治療せよ。
そのままではジリ貧になるぞ」
「御詫びの言葉も御座いません!
二度とこのような失態がないよう……」
「早く治療せよと言ったのが聞こえなかったのか」
瑠璃家宮の口調は極めて
恐怖で眼の定まらない〈
霊力を集中し、必死で再生に取り掛かる。
◇
ザ・グール・オブ・ザ・デッド Ⅱ Bルート その二 了
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