ザ・グール・オブ・ザ・デッド Ⅱ Bルート その四

 一九一九年七月 長野県重井沢 外吮山八合目





ハイドラ頼子〉と多野 教授が〈トロル〉と渡り合っていたその時、〈地獄の植物ヘルプラント〉の蔓触手は宮森と瑠璃家宮にもその魔手を伸ばしていた。


〈トロル〉が多野らを相手取っている今が好機と踏んだ宮森は、蔓触手を掻いくぐって〈地獄の植物ヘルプラント〉の偽茎に肉薄を試みる。

 偽茎への肉薄は成功。

 満を持してウィンチェスターM1912ソードオフタイプをぶっ放した。


 散弾は〈イブン・ガジの粉〉が混合された一二ゲージ爆裂弾。

 動物なら文字通り蜂の巣に出来るが、見るからに頑丈な〈地獄の植物ヘルプラント〉相手にはどうなるか。


 根を張り動けない〈地獄の植物ヘルプラント〉に躱すすべは無い。

 散弾は見事な着弾をみせ、宮森の霊力に反応して爆発が起こる。


 宮森は銃把筒ハンドグリップを操作し連続射撃スラムファイア

地獄の植物ヘルプラント〉の肉穂花序が放つ腐乱臭と濃厚な蜜香みつこう

 それらに硝煙しょうえんと〈イブン・ガジの粉〉の香りがぜになり、生者を地獄へと誘う芳香を生み出した。


 爆裂弾で偽茎をえぐられた〈地獄の植物ヘルプラント〉は、蔓触手を振り回し宮森を追い払おうとする。


 都合三回の射撃で、〈地獄の植物ヘルプラント〉の偽茎を損傷させる事は叶った。

 だが、如何いかんせん茎回りが大きい。


 宮森は更なる損傷を与えんと別角度から射撃を試みるも、明日二郎からの緊急警報エマージェンシーアラートで中断せざるを得なくなった。


『地面の下から反応が有る。

 早くその場を離れろ!』


「うっ、うわあぁ⁈」


 地面からしなむちが飛び出すと云う不意打ちを食らい、体勢を崩して尻もちを付く宮森。


「しまった!

 根の存在を失念していたとは……」


 宮森は立ち上がるのを諦め障壁バリアを展開するが遅い。

地獄の植物ヘルプラント〉に埋まっている犬顔が呻くと、地中からの鞭が宮森をグルグル巻きにする。


 ここで明日二郎から、〈地獄の植物ヘルプラント〉の恐るべき特徴についての精査スキャン結果が舞い込んだ。


『ミヤモリ解ったぞ。

〈地獄の植物〉の幹……じゃなくて茎になんのか?

 ソレの上部、あの犬顔が付いてる所な。

 あそこの内部に脳ミソが在る!

 あそこから各部に指令を送ってるぜ。

 多分、〈トロル〉とテレパシー通信してるのもソコだ。

 水分と栄養分の流れから見て間違いねえ。

 後、地面の下から出て来たヤツは〈地獄の植物〉の根っこじゃなくて地下茎だぞ!』


『ありがとう明日二郎。

 脳さえ潰せればいいんだろうけど、この状態では……』


 攻略の糸口は掴んだものの、宮森は地下茎触手で宙吊ちゅうづりにされ身動きが取れない。

 そこへ〈地獄の植物ヘルプラント〉の蔓触手が襲い来る。


『バスーーーーン!』


 宮森へと一直線に迫る魔手は銃声と共に千切れ飛んだ。

 彼の危機を救ったのは、スプリングフィールドM1903から放たれた30-06サーティ・オー・シックス細胞融解弾。


 瑠璃家宮は素早く遊底ボルトを操作し、宮森を縛っている地下茎触手に次弾を撃ち込んだ。

 次弾も見事命中。

地獄の植物ヘルプラント〉の魔手は細胞融解弾の餌食となる。


 慣れた手付きで一連の遊底操作ボルトアクションを完遂した瑠璃家宮。

 これまた慣れた手つきで弾薬を補充し、思念で宮森に問う。


『〈トロル〉と〈地獄の植物〉は精神感応。

 そして〈トロル〉の思考と感覚の高速化か。

 妥当な帰結きけつである。

 それで、どうするのだ宮森』


 蔓触手の先からは白泡はくほうが滲出。

 凄まじい速度で組織を修復して行く〈地獄の植物ヘルプラント〉。

 弾薬補充の為に動きが止まった瑠璃家宮を狙い、新たな地下茎触手を矢継やつばやに繰り出して来る。


 宮森はウィンチェスターM1912を銃嚢ホルスターへ戻し、コルトM1911で瑠璃家宮の援護に入った。

 そして、成功するかどうかも判らない苦肉の策を精神感応テレパシーで具申する。


『殿下、恥ずかし乍ら今は良案が浮かびません。

 ですので、ある種の力業ちからわざで解決を試みます』


『内容を申せ』


『はい。

 先ずは〈トロル〉と〈地獄の植物〉の精神感応を断つ事が肝要かんようかと存じます。

〈地獄の植物〉内部を透視してみた所、生物の脳に似た器官が在る事が判りました。

 そこを叩きます』


『方法は?』


『はい。

 では、先ほど自分が銃撃した箇所と殿下の銃撃した箇所を順に御覧下さい』


 宮森に促されて該当箇所を見比べる瑠璃家宮。


 宮森が銃撃した箇所からは当然、例の白泡が滲出している。

 しかし、瑠璃家宮が銃撃した箇所よりも量が少ない。


 瑠璃家宮も疑問に思い細説さいせつを求める。


『宮森が放った散弾銃での弾痕だんこんは、小銃を用いた余の弾痕よりも遥かに大きい。

 しかし乍ら、散弾銃での弾痕よりも小銃での弾痕にあの白泡が多く滲出している。

 何故だ?』


『それは、殿下が銃撃された箇所の内部に〈地獄の植物〉の脳が在るからです。

 あの白泡は栄養分で組織を素早く修復させる為の物。

 と云う事は、脳を防衛しようと優先的に小銃の弾痕を修復しているものと推測できます』


『なるほどな。

 重要な箇所を死守したいと。

 で、そこを叩くにはどうすれば良いのだ?』


 又もや〈地獄の植物ヘルプラント〉の地下茎触手がふたりに襲い来る。


 地下茎触手を躱し乍ら精神感応テレパシーで具申を続ける宮森。

 ここからは、〈トロル〉の攻撃を凌ぎ切った多野 教授、頼子とも感応して具申内容を伝える。


『はいっ!

 最初の手順は、白泡が滲出している箇所から〈地獄の植物〉内部に穴を穿うがちます。

 自分が精査した所、〈地獄の植物〉は単子葉類たんしようるいの特徴を備えています。

 単子葉類は組織内に維管束いかんそくが不規則に散在しているので、目標である〈地獄の植物〉の脳に達する維管束は数多いです。

 次に、穿たれた穴より上部の維管束を、可能な限り凍結させに掛かります。

 その際に必須となるのが、気圧操作で維管束内の空気を抜く作業です。

 成功すると、水分の昇華で維管束が凍結。

〈地獄の植物〉の脳を活動停止にまで追い込めるかと』


地獄の植物ヘルプラント〉の地下茎触手をさばきつつ、合いの手を入れる多野。


『その手法は青森で井高上 大佐が使ったものだろう。

 流石我が弟子、応用が早い。

 では、役割分担をせねばならんな』


 多野が辛くも追い払った〈トロル〉が今度は宮森に襲い掛かる。


 宮森は思考と感覚の高速化クロックアップを使っているとは云え、〈トロル〉との運動能力の差は歴然だ。

〈トロル〉の仕掛けた肉弾攻撃は宮森の手に負えないものだったが、間一髪かんいっぱつハイドラ頼子〉の援護防御で事なきを得る。


 宮森は〈ハイドラ頼子〉に礼を言いつつ、作戦の役割分担を打ち明けた。


『自分と頼子さんと多野 教授の三人で〈地獄の植物〉に密着します。

 理想の位置は、自分が散弾銃で付けた弾痕ですね。

 密着した後、自分が再度散弾銃で銃撃して傷口を広げます。

 その後は頼子さんが水分を凍結させに掛かって下さい。

 自分は気流操作で気圧を下げ、水分が昇華し易くなるよう手伝います。

 多野 教授には、自分と頼子さんが仕事をしている間障壁を展開して貰い、〈地獄の植物〉の攻撃から自分と頼子さん、教授 自身を守って下さい。

 先程〈地獄の植物〉とやり合って実感したのですが、奴は至近距離での迎撃は苦手としているようです。

 ですので、一旦近付いてしまえばそう難しくはないと思われます。

 問題は〈トロル〉の方ですね。

 こちらが術式操作で相方を潰そうとしている事が知れると、十中八九じゅっちゅうはっく阻止しに来るでしょう。

 そこで殿下には我々から離れた位置に陣取って頂き、〈トロル〉の牽制を御願いします。

 殿下の御手前おてまえならば〈トロル〉もそう簡単には近付けないかと存じますが、いかがでしょう?』





 ザ・グール・オブ・ザ・デッド Ⅱ Bルート その四 了

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