ザ・グール・オブ・ザ・デッド Ⅱ Bルート その七

 一九一九年七月 長野県重井沢 外吮山八合目





 瑠璃家宮からの君命が下り、作戦行動に移る臣下達。


 当然〈トロル〉と〈地獄の植物ヘルプラント〉も攻勢を掛けて来る。


 瑠璃家宮を囮にする為、弾丸の如く疾走する〈ハイドラ頼子〉。

 行き先は弾薬などが入った背嚢バックパックだ。


 瑠璃家宮から返却されたコルトM1911を構えてはいるが、襲って来る〈地獄の植物ヘルプラント〉の蔓触手は無視。

 一直線に背嚢バックパックを目指した。


 多野 教授は帯電したまま〈トロル〉へと発砲を続ける。

 瑠璃家宮の傍を離れるのが気が気でないのだろう。

 彼の表情は明らかに引きっていた。


 宮森は自身の胴乱マガジンポーチから一二ゲージ爆裂弾を取り出し、ウィンチェスターM1912へ装填。

 五発装填した所で銃把筒ハンドグリップを操作。

 散弾を薬室チャンバーへ送る。

 更に散弾一つを装填して、合計六回分の射撃が可能となった。


 瑠璃家宮はスプリングフィールドM1903を構えるも表情が冴えない。

〈トロル〉から貰った一撃が効いているのだ。


 蔓触手目掛けて何とか射撃を試みたが、左上腕の負傷の為か反動をぎょし切れず撃ち漏らす。


 これまで百発百中だった瑠璃家宮の撃ち漏らしを〈トロル〉との精神感応テレパシー経由で感知したのか、〈地獄の植物ヘルプラント〉の蔓触手が四本纏めて瑠璃家宮へと襲い掛かって来た。


 背嚢バックパックを回収した〈ハイドラ頼子〉は、〈トロル〉に向けコルトM1911を連射。

 残弾を撃ち尽くした上で、自身の胴乱マガジンポーチから新たな弾倉マガジンを取り出し装填。

 背嚢バックパックを背負い再度〈トロル〉へと向かう。


 多野がサベージM1907の弾丸を撃ち尽くすと、〈ハイドラ頼子〉が〈トロル〉に向け突貫。

 顎杖ジョーズロッドで肉弾戦を挑む。

 その間に多野は弾倉マガジン交換へ入った。


 宮森はウィンチェスターM1912を構え、味方を誤射しない位置へと移動。

 その後〈地獄の植物ヘルプラント〉の偽茎一本を蔓触手ごと吹っ飛ばす。

 そのため瑠璃家宮へと襲い掛かった蔓触手は二本減少。

 焦った〈トロル〉は、宮森にも注意を払わねばならなくなった。


 宮森の行動が絶妙な目眩めくらましとなり、〈トロル〉は手負いの瑠璃家宮を標的から外す。

 それを気取けどった瑠璃家宮は、自前のサベージM1907で蔓触手を射撃。

 うち一本を融解させた。


 瑠璃家宮はそのまま射撃を続行したが、もう一本を撃ち漏らしてしまう。

 撃ち漏らした蔓触手が、先程〈トロル〉に負傷させられた彼の左上腕へと再び突き刺さった。


「ぐああぁ……」


 瑠璃家宮の腕に食い込んだ蔓触手が、膨張と収縮を繰り返す。

 血液を吸っているのだ。


「グルルルルゥ……」


 瑠璃家宮の血を吸い、偽茎の犬猿顔が不気味な唸り声を上げる。


「ギャギャッ、ギャババババァァ……」


 その唸り声は他の偽茎にも伝染し、あまつさえ〈トロル〉も笑い出す始末だ。


 怪物達の笑い声を耳にした多野と〈ハイドラ頼子〉の顔が憎悪に染まる。

 今直ぐにでもお化け実芭蕉バナナと活発樹懶なまけものをブチ殺したいのだろうが、瑠璃家宮からの指示で主君には近付けないでいた。


 瑠璃家宮の更なる負傷で勝ちを確信した〈トロル〉と〈地獄の植物ヘルプラント〉。


地獄の植物ヘルプラント〉がうねらせる蔓触手を、自在に渡ってお道化どける〈トロル〉。

 まるで、曲芸サーカス道化師ピエロ気取りだ。


 血を吸って調子がいいのか、破壊された〈地獄の植物ヘルプラント〉の蔓触手や偽茎からは、白泡がふんだんに滲み出ている。

 再生速度が上がっているのだ。

 その御蔭で、宮森が吹っ飛ばした偽茎も今や元に戻りつつある。


 一行も行動していない訳ではない。


 多野と〈ハイドラ頼子〉は〈トロル〉へ向け射撃。

 宮森は再生を続ける〈地獄の植物ヘルプラント〉の偽茎に散弾を浴びせている。


 しかし〈トロル〉に銃弾は当たらず、散弾の破壊速度よりも〈地獄の植物ヘルプラント〉の再生速度が上回って来た所為でらちが明かない。

然も、放棄した筈だった本体の維管束をも再生させ始めた〈地獄の植物ヘルプラント〉。

 枠登りジャングルジムが増えると思ったのか、気を良くした〈トロル〉も手を叩いて喜んでいる。


 宮森は〈地獄の植物ヘルプラント〉と地面の下を透視した上で精査スキャンを掛け、その様子を克明こくめいに捉えていた。


⦅凄い……。

地獄の植物ヘルプラント〉のひげ根が遥か下方にまで伸びている。

 この山の栄養分を全て吸い尽くす勢いだ。

 その栄養分を使って次々と組織を再生、拡張している。

 一体どこまで成長すれば終わりが見えるんだ……⦆


 戦場中心部の維管束も完全に修復し終えた〈地獄の植物ヘルプラント〉。

 これで、〈トロル〉の動きを捉えられる事は完全に無くなった。


 悪態の限りを尽くす〈トロル〉と繁栄の限りを尽くす〈地獄の植物ヘルプラント〉。

 そんな奴らを見て呆然とする、多野、〈ハイドラ頼子〉、宮森。


 だが、〈地獄の植物ヘルプラント〉の蔓触手が食い込んだままの瑠璃家宮が唐突とうとつに含み笑いをする。


「所詮は樹懶なまけものと雑草よな。

 余が血を吸われている間、なぜ臣下達が余を助けないのか考えもしない」


 瑠璃家宮に馬鹿にされた事が理解できたのだろう。

〈トロル〉と〈地獄の植物ヘルプラント〉が、殺意をみなぎらせて強襲を掛けた。


 多野と〈ハイドラ頼子〉の射撃で〈トロル〉は相変わらず瑠璃家宮へは近付けないものの、〈地獄の植物ヘルプラント〉は瑠璃家宮の左腕からより一層血液を吸い取る。





 ザ・グール・オブ・ザ・デッド Ⅱ Bルート その七 了

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