ザ・グール・オブ・ザ・デッド Ⅱ Bルート その六
一九一九年七月 長野県重井沢 外吮山八合目
◇
戦場中心に在る〈
しかし新たに出現した六つの新芽が急成長を遂げ、本体には及ばずとも立派な偽茎を立てる迄になる。
六本の偽茎に備わった蔓触手も伸長し、今や〈トロル〉御用達の
そして、待ちかねたとでも言うように蕾が開花する。
開花した
一行はそれを
蕾奥を飾る犬猿顔の奥には、〈
〈
只今からは〈トロル〉に加え、それを補佐する〈
〈
蔓触手四本を動員して〈
案の定処理で手一杯になる〈
これでは多野 教授や瑠璃家宮を助けに行けない。
多野には蔓触手一本を差し向け牽制する〈
多野は未だ帯電しているので蔓触手に接触される恐れは無いが、動きを
それと連動した〈トロル〉はと云うと、体勢を立て直して直ぐの宮森へ突進。
両手の鉤爪を振り抜く。
宮森は
瑠璃家宮へと軌道を急変させた。
〈トロル〉の三角飛びに何とか反応した瑠璃家宮は、〈
〈トロル〉を狙うが鉤爪で防がれる。
跳弾した四五口径弾は、多野を牽制していた蔓触手に命中。
仕込まれていた細胞融解素で蔓触手一本を破壊した。
二発、三発、瑠璃家宮が立て続けに発砲するが、全て鉤爪で弾いた〈トロル〉。
弾かれた弾丸は〈
しかしその間にも、〈トロル〉の鉤爪が瑠璃家宮へ迫る。
自由になった多野が瑠璃家宮の許へと急ぐが追い付けず、仕方なくその場から〈トロル〉に向け電撃を放った。
〈トロル〉はその
多野の電撃と〈トロル〉の突き。
果たして先に届くのはどちらか。
〈トロル〉の鉤爪で左上腕を貫かれ、瑠璃家宮は地面に倒れ込む。
〈トロル〉は止どめを刺したかったのだろうが、多野の放った電撃が目前まで迫っていた。
〈トロル〉は瑠璃家宮への止どめを諦め、〈
この一連の流れを観ていた宮森。
自らは負傷するも、状況の悪化を最小限に食い止めた瑠璃家宮の手並みに再度驚いていた。
⦅あの場面で小銃を使わず自動拳銃に切り替えたのは英断としか言いようが無い。
小銃は手動装填だから次射への間隔がどうしても長くなる。
もしそのまま小銃を使って射撃していたなら、発射できた弾丸は一発のみだったろう。
そして恐るべきはあの跳弾……。
当然念動術も使ったんだろうけど、〈トロル〉の鉤爪の強度や反射角の完璧な把握、そして動作の先読みまでこなしていた事になる。
恐るべき男だ。
でも、今まで派手な攻撃魔術は使っていない。
何故だ?⦆
宮森の独白が続く中、負傷した瑠璃家宮を見て息を呑む家臣達。
「殿下⁈」
悲痛な叫びを上げた多野は、老体に鞭打ってまで瑠璃家宮へと走り寄る。
同じく蔓触手を振り切った〈
多野と〈
緊急事態ゆえ、多野は瑠璃家宮を守るよう
『あぁ殿下、私共が付いてい乍ら申し訳御座いません。
あの犬畜生共はこの私共が滅しますよって、
頼子 君、邪念水は?』
『申し訳御座いません。
奴らの邪魔で取りに行けず……』
気落ちする〈
『良い。
今は闘いの最中であるぞ。
この場を切り抜ける事にのみ思案を巡らすのだ』
『深手なんだろうけど、涙まで浮かべるのは少し
しかし、
何がふたりを……いや、瑠璃家宮を
幾ら考えても今は答えが出ない。
宮森は思考と感覚の
⦅〈地獄の植物〉の蔓触手は、瑠璃家宮の射撃で三本が破壊された。
観た所、再生の前兆である白泡は少ない。
使える栄養分が残り少ないのかも知れないけど、今迄の行動を
問題は〈トロル〉の方だ。
奴には全く手傷を与えられていない。
何らかの方法で〈地獄の植物〉を倒しても、機動力の高い〈トロル〉には逃げられるだろう。
しかも先程瑠璃家宮が負傷した。
もしこれ以上負傷者が増えればかなりの不利を背負う事となる。
これ以上負傷者を増やさない為にも、〈トロル〉の撃滅は諦め〈地獄の植物〉へ攻撃を集中すべきなのか……⦆
『殿下、御怪我をさせてしまい御詫びのしようも御座いません。
豊富な植物の知識を御持ちの宗像さんがこの場に居ない事が悔やまれます。
又、冷凍
つきましては、この場は生き延びる事が先決かと存じます。
動き回る〈トロル〉は後回しにして、〈地獄の植物〉を全力で叩くべきかと……』
瑠璃家宮は
黙していた瑠璃家宮が開口した。
『宮森よ。
頭の切れる其方でさえこの状況を打破できる妙案は浮かばぬか。
ならば仕方あるまい。
多野 教授、
後を頼むぞ』
瑠璃家宮の宣言に、多野と〈
『なりません殿下!
あのような格下の
失礼を承知で申し上げますが……明らかな
『殿下……。
殿下はこのような所で
この場は私共が命に代えても御守りしますので、どうか思い止どまる決断をなさって下さい……』
多野と〈
だが、瑠璃家宮が隠し玉を持っている事は判った。
宮森はこのまま成り行きを見守る。
『なに、心配はいらん。
一瞬ならば後遺症も最小限に抑えられる。
その為に其方が居るのであろう?
なあ、多野 教授よ』
『た、確かにそうですが……』
多野と〈
瑠璃家宮がこれ以上ないぐらい鷹揚な口調で語り掛けた。
『これより余が
其方達は〈トロル〉を牽制し、〈地獄の植物〉の攻撃が余に集中するよう取り計らえ。
出来ればあの〈トロル〉にも余が止どめを刺したい。
そこで余が……』
先程の揺れではないが、瑠璃家宮から明かされた計画に宮森は腰を抜かす。
『今迄の苦労は何だったんだ……』と自身を
臣下達が納得したのを見計らい、瑠璃家宮が言い渡す。
『……故に、命の保証が出来ん。
余が幾ら傷付いても、許可を出す迄は絶対に近寄るな。
これは君命である』
◇
ザ・グール・オブ・ザ・デッド Ⅱ Bルート その六 了
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