比星 家跡にて その三
一九一九年七月 長野県重井沢 外吮山中腹
◇
突如として一帯が鳴動し、墓石を中心に巨大な亀裂が入った。
明日二郎が宮森に
『ミヤモリ、直ぐにソコを離れろ!』
明日二郎の警告で何とか地割れに飲み込まれずに済んだ宮森。
瑠璃家宮、多野 教授、蔵主 社長は、元より亀裂中心から離れていたので落ちずに済む。
だが余りにも地割れの広がりが早いので、冷凍
「綾 様、こちらに!」
「失礼します!」
思うように動けない綾を、権田 夫妻が両脇から抱え込んで亀裂の縁まで跳躍した。
綾もなんとか地割れからは逃れる。
宮森は宗像を心配して地割れの中を覗き込んだ。
明日二郎に頼んで
「聞こえとりますかー、ワイはここですー!」
地割れの底から顔を覗かせ、力強く叫ぶ宗像の姿があった。
宮森は宗像に状況を問う。
「宗像さ~ん、大丈夫ですか~。
怪我は有りませんか~」
「宮森はん大丈夫やー。
地割れの底は
ほんでなー、こっから先なー、なんか洞窟みたいになっとるー」
その声に反応したのか、再び〈白髪の
『今の
墓の下に地下道が在るじゃろう。
その地下道は儂と我が孫の居る山頂にまで通じておる。
勿論地下道を行かず、そのまま山頂に登って来ても良い。
但し、その地下道には特殊障壁が張ってあるでな。
四人までしか入れんし、一度入ったら山頂に着くまで脱出できんようになっとる。
試してみれば判るが、洞窟内部に入ると精神感応も不可能じゃからな。
いまひとり入っているようだの。
地下道には儂の
それを聞いて絶叫する宗像。
「な、何やと~⁈
はよ、宮森はん
頼むわー」
宗像の絶叫が聞こえたのか、〈白髪の
『どのみち儂と孫は山頂におるでな。
残り七人でそのまま山頂を目指せば確実さは増すであろう。
どうするかは、お主達で決めるが良い……』
一行は顔を見合わせたが、綾が
「アタシ、洞窟探検したい♪
いいでしょ、ねえいいでしょー?」
「いけません綾 様。
探検だなんて危ない真似はお止し下さい」
「そうですぞ綾 様。
もし御子に何かあったら、それこそ取り返しが付きませぬ!」
頼子と多野が必死で止めるのも聞かず、瑠璃家宮の腕に
当の瑠璃家宮は暫し
「良かろう。
綾、洞窟探検を存分に楽しんで参れ」
「やったー!
探検超楽しみー♪」
綾の
「宗像が余に尽くす限り守ってやると約束したからな。
今更それを
これより人員を二手に分ける。
洞窟探検組は、今のところ宗像と綾だ。
他に希望者はおらぬか?」
瑠璃家宮は尤もな正論を展開し臣下を納得させ、思考を作戦の構築に移行させる。
「ではわたくしがぁ。
外吮山の地下構造を観ておくのもぉ、今後必要になるかも知れませんからねぇ」
蔵主の立候補を視野に入れた戦力調整の結果、洞窟探検組の残り一人は益男が務める事となる。
この結果を受け、山歩き組は瑠璃家宮、多野、頼子、宮森となった。
人員配置が決定した後は、
銃器の弾薬をそれぞれに渡し、邪念水と血入り紅茶は等分した。
箱型懐中電灯、
その為に山歩き組よりも重装備になるが、最も体格のいい益男が荷運びを担当して補う事となった。
全員の準備が完了した後、綾を抱えた益男が亀裂内部へ跳び込み蔵主がそれに続く。
すると展開されていた特殊
残りの一行は亀裂の縁から弾き出された。
肉声と
「お兄様ー、行って来るねー♪」
「それでは皆さぁん、頂上で逢いましょうぅ」
「頼子ー、殿下を頼んだよー」
「ほな行って来ますー。
宮森はーん、どっちが先に山頂に着くか勝負やー。
ワイが先着いたら、酒おごってやー♪」
亀裂の底から洞窟探検組の挨拶が届くと、山歩き組もそれに
『綾、後で話を聞かせよ。
楽しみにしておく』
『蔵主 社長、そちらの指揮は任せましたぞ……』
『あなた、綾 様をしっかりとお守りして下さい。
何かあったら承知できませんからね』
瑠璃家宮、多野、頼子は思念で挨拶を返したが、宮森は肉声で返す事にした。
「宗像さーん、そっちが負けてもどうせ飲むんでしょー。
二日酔いで辛くなっても知りませんからねー」
挨拶のやり取りが終わった所で、〈白髪の
『編成は完了したようだな。
それにしても緊張感の無い奴らよ。
では、お主らの健闘を祈っておるぞ……』
どことなく楽しそうな雰囲気だった〈白髪の
どちらも鼻歌が聞こえて来そうな軽快な足取りで道を進む。
その行く手には、想像以上の試練が待ち受けている事も知らずに――。
◇
比星 家跡にて その三 了
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