第三節 比星 家跡にて
比星 家跡にて その一
一九一九年七月 長野県重井沢 三高ホテル
◇
宮森が集落の古老から比星 家の話を訊き出した翌日。
本日は瑠璃家宮 以下、比星 家屋敷
しかし一同が集っているこの客室には戦闘前の
瑠璃家宮が
「皆の者、本日は宮司殿を取り返しに〈食屍鬼〉共の巣へと
ささやかではあるが、余がホテルの支配人に命じ用意させたものだ。
では、英気を養ってくれ」
思い思いにサンドイッチや菓子を摘まみ茶を
宗像の所作は優雅とはかけ離れているが、彼は彼で大口を開け、サンドイッチや菓子を放り込み楽しんでいる。
このホテルでは昨年アメリカで製造され始めたばかりの電気冷蔵庫を購入し、宿泊客に
夏らしいのは良いのだが、いまいち気乗りしない宮森。
彼は周囲から一歩身を引き、なるだけ
宮森の態度には理由が有った。
今この場で振舞われているこの紅茶が、〈
この三高ホテルは外国人や国内の上流階級
魔術結社の
それに伴い、血入り紅茶を始めとする非倫理的な物品を用意できる事も
宮森を心配した明日二郎が語り掛けて来る。
『ミヤモリ、ちゃんと裏に変わったか?
でないと、
『ありがとう明日二郎。
既に切り替えは済んでいる。
あの西洋風茶道具を見て嫌な予感がしたからな。
どうせこのホテル、いかがわしい事に使われてるんだろ?』
『そりゃもう、いかがわしいなんてもんじゃあない。
チョット従業員さんらのアタマ覗かせて貰ったけど、コカインに
あ、他人のアタマ覗いたコト、非難すんなよ。
今はオニイチャンと連絡がつかねー非常事態なんだからな!』
『なるほど。
後はその麻薬類を服用して、上流階級民や外国人は乱交三昧と云う訳か。
この調子だと
久蔵さんの話を
外国の魔術結社がこの地に入ってからもそれは変わらず、依頼された邪霊召喚儀式を通じて様々な結社と親交を深めて行ったんだろう。
だから瑠璃家宮 達は最初から外吮山に
明日二郎の記憶が
自身の記憶に
蔵主 社長の手配した諸々の銃器や装備品類で、一同は早速準備に取り掛かった。
先ずは一同、屋外での行動に支障が無い服装に着替える。
身重の綾を除いた全ての者に、
綾は全身を覆う
アメリカで発売されていた物を取り寄せた後、綾が自身の足に合うよう職人に調整させた物だ。
銃器目録は、威力と携帯性の
破壊力と攻撃範囲に優れた散弾銃、ウィンチェスターM1912の標準
又、銃身と
そして、最も射程が長く威力の大きいスプリングフィールドM1903
[註*スプリングフィールドM1903=アメリカ合衆国陸軍のスプリングフィールド国営
一九〇五年に配備が始まり、一九四九年まで長期間使用された]
その他の装備品類は、
弾薬の方は、〈
そして、新顔のスプリングフィールドM1903用に調整を加えた
只、それら弾薬には属さない物も在った。
その物体は縦長の
管の先には
不思議がっていた宗像が蔵主に質問する。
「蔵主 社長、これ何でっか?」
「これは冷凍
〈食屍鬼〉襲撃で得られた情報を元にぃ、我々の派閥の魔術師と蔵主 産業の総力を結集して
中身の方はぁ、液化
急造品ですから効果の程は保証できませんがぁ、〈食屍鬼〉やその他の怪物共は強力な様子ぅ、色々と試してみませんとねぇ。
使い方を説明しますとぉ、先ずは噴射口を対象に向けてぇ、耐圧容器の頭に付いている
あとぉ、この
液化窒素が急速に膨張ぉ、容器が耐え切れず大爆発を起こしますぅ。
また冷凍
宗像に教えた
宗像が
「おっ、これ結構重いわ。
誰が持つんやろ……」
基本的に身重の綾と年配の多野は銃撃要員としては考えず、護身用のサベージM1907一丁のみをその
身体能力が最も高い権田 夫妻は、機動力を重視してコルトM1911を二丁づつ装備。
益男の
各人の
宗像だけは、
そこには採集用具の他、宗像が発見した粘菌である、ムナカタヒザメホコリの胞子を保管した煙草箱も入れていた。
[註*ムナカタヒザメホコリ=宗像が発見した新種の変形菌(粘菌)。
魔術結社に籍を置いている関係で、宗像は未だに発表できていない。
この功績が世間に知れ渡るのは、宗像の死後になるだろう。
ムナカタヒザメホコリの初めての活躍は、【カルマメイカー ~焦海の異魚(ひがたのにんぎょ)~ 序幕 & 第一幕 第四章 雷獣の咄(はなし) 第七節 岩かじり撃滅作戦】を参照されたし(作中での設定)]
上流階級の人間ならではなのか、狩猟の趣味を持つ蔵主はウィンチェスターM1912の標準
同様の瑠璃家宮は、最も遠距離からの射撃が可能なスプリングフィールドM1903を選択した。
また蔵主と瑠璃家宮 共に、護身用としてサベージM1907も一丁づつ持つ。
前回の経験を買われた宮森は、ウィンチェスターM1912のソードオフ
宗像は残りのコルトM1911一丁だけと思いきや、冷凍
待遇に不服だったのか、宗像が蔵主に反論を試みた。
「これちょっと、ワイには重過ぎるで。
力持ちの益男はんに運んで
「益男 君は近距離での肉弾戦が持ち味の前衛ですからねぇ。
戦闘中に耐圧容器が壊れてはいけませんからぁ、益男 君に運んで貰うのは止した方がいいでしょうぅ。
わたくしは散弾銃持ちで殿下は小銃持ちですしぃ、非力な宮森さんが運ぶとなるとぉ、機動力を削がれるでしょうしねぇ。
残りは身重の綾 様とお年を召した多野 教授ぅ、そして御二人の護衛を担当する予定の頼子 君になりますがぁ……」
「わかった、わかりましたわ。
せやったらワイが運ばさして貰います!」
結局、宗像が冷凍
一行が一階の
支配人が代表して挨拶した。
「瑠璃家宮 皇太子殿下とその御連れ様方、当ホテルを御利用頂き誠に有り難う御座います。
では、どうぞこちらに」
この国では未だ高級品の
『上流階級は違うな……』と
重井沢の木漏れ日に照らされ自動車八台が連なる様は、勝利を確信しての
ただ彼らが赴くのは、楽しい
◇
比星 家跡にて その一 了
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