灰色の夜明け その五
一九一九年七月 帝居 奥宮殿
◇
今日一郎が奥宮殿から去った後、多野 教授は奥宮殿を覆っている
間もなく益男が救助され、地下の小祭事場で任に就いていた頼子と綾も合流。
互いの持っている情報を共有した。
情報を共有する中で、新たに判明した事実も有る。
多野によると、宮森と益男が
巨大蜘蛛は、恐らく〈レンの蜘蛛〉だとの事。
綾と頼子が闘ったと云う〈
澄を攫った〈
それもその筈、今回確認された怪物達の多くは
正確には、人間の精神を構成する
それが幻夢界と呼ばれる次元だ。
幻夢界の最下層は邪神が封印されている魔空界と繋がっており、条件が整えば邪神の精神体である邪霊が現出する。
そして、幻夢界の持ち主の邪念と魔空界の邪霊とが
持ち主の魄を捕食し、邪霊の定着を促そうとするのだ。
夢の世界に巣食う幻魔と云う存在。
ソレが、物質界に
魔術結社の
只、〈
これはいったい何を意味するのだろうか。
綾と権田 夫妻に続き、目立った負傷の無い宮森も奥宮殿応接室へ通される。
千切れ掛けていた益男の両手首が急激に熱を帯びる。
早速体組織の再生が始まったようだ。
頼子が益男に語り掛けている。
「あなたともあろう者が、今回は手酷くやられましたね。
宮森さんが居て下さらなかったら、今頃は
「それについては本当に
確かに冥土の土は踏みたくないな。
後、ワイシャツと靴下と
なるべく破かないよう、宮森さんと努力したんだが。
……済まない」
「冗談が言えるのも、命あっての物種ですものね。
今回は許してあげます」
生憎と
権田 夫妻の
「お兄様きいてきいて!
小祭事場で泳ぎの上手い〈食屍鬼〉と闘った時にね、綾と頼子さんが危なくなったのね。
その時にね、なんとこの子が助けてくれたんだよ!
さっすが、お兄様の御子だと思ったもん♥」
嬉しそうに腹を
一同がひと通り情報共有と惚気を終えた所で、瑠璃家宮から今後の沙汰が下る。
「綾、権田 夫妻、宮森、今回は良くやってくれた。
配下の者に帝居を巡回させているが、今の所〈食屍鬼〉等は目撃されていない。
あ奴らは引き
激しい闘いで
宮森には明後日使いを寄越す故、その時は宗像と共に必ず馳せ参じよ。
では、解散」
◇
この後帝居各所との連絡も回復し、被害の
正殿や旬梅館などの建物、各種設備の損壊は勿論、帝宮警察官や魔術師達、九頭竜会が非合法に囲っている建設作業員や下働きの者など、多くの犠牲者が確認される。
その中には、〈
又、今回帝都を襲撃した〈
調査班には魔術師も加わっていたが、転移魔術などの形跡は認められなかったとの事。
幻魔の謎は深まるばかりだ。
後に判った事だが、小石山植物園内の保養施設にも〈
そして、〈
その遺体は、何故か発見されなかったと云う。
宮森も気になって多野に訊いてみたが、『そんな者など知らん!』と拒絶された。
宮森もそれ以上食い下がれず、酔っ払いの件は
夜が明け始めた頃、宮森は下宿への帰途に就いた。
帰りの道すがら、彼は昨夜の出来事を思い返す。
⦅突如として帝居を襲撃して来た〈食屍鬼〉達。
宗像さんらが居た弾薬庫で準備を整え、益男と共に〈食屍鬼〉達の撃退に当たった。
昇降機では〈ヴーアミ族〉、〈レンの蜘蛛〉に襲われ、正殿では〈鎧食屍鬼〉と死闘を演じる羽目になる。
綾達は〈水棲食屍鬼〉と闘い、その最中 綾の胎内に宿った胎児が目覚めたらしい。
色々あり過ぎて忘れていたが、自分の血を分けた……子、なんだよな……⦆
綾に宿る胎児の遺伝的父親は宮森である。
その事でどうしても神経質になってしまう彼だったが、気を取り直して昨夜の出来事の整理を続行した。
⦅中殿前の中庭では〈夜鬼〉と遭遇。
あの酔っ払いは誰だったんだろうか。
自らの事を『太帝であるっ!』とか言ってたけど。
酔いもあそこまで行くと哀れですらある……。
自分の力及ばず、〈夜鬼〉に攫われてしまった澄さん。
そして、襲撃の黒幕であるあの〈白髪の食屍鬼〉。
奴は今日一郎の祖父だと名乗っていた。
〈食屍鬼〉が祖父だって?
大盟殿前では、女性が〈食屍鬼〉に犯されそうになっていたが……。
そう云えば、澄さんと出会う前に明日二郎の奴が消えてから戻って来ない。
今日一郎も、行ってしまった……⦆
疲れ切って途方に暮れる宮森。
彼の迎えた夜明けは、これからの雲行きを暗示するかの如く、灰色であった――。
◇
灰色の夜明け その五 了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます