灰色の夜明け その三
一九一九年七月 帝居御所内 旬梅館
◇
旬梅館に到着した時、その
言葉を失った宮森の代わりに、興奮の色が
「ものの見事にやられましたね。
逃げ遅れた御雇い外国人や外国の要人、そしてその接待役達が
肝心の〈食屍鬼〉共はもう居ません。
〈食屍鬼〉共が死体を置き去りにして姿を消すなど到底あり得ませんが、今回に限っては常識が通用しないようです。
宮森さん、もう生存者は居ないかも知れませんが、一応捜索してみますか?」
「はい。
二階へ向かいましょう……」
一階に散乱する遺体は喰い掛けも喰い掛け。
少々
余りに上品過ぎて、〈
何者かの意志が介在している事は間違いないと踏んだふたりは、二階へと移動した。
二階も一階に負けず劣らずの惨状である。
全ての遺体は四肢が千切れ飛び、血と
その光景を見た直後、宮森の脳中に奇妙な感覚が広がる。
『どうした明日二郎⁉
流れて来るこの感情は何だ!
お前に何が起こっている?』
明日二郎に呼び掛けるが応答は無い。
そして、明日二郎の存在自体が、宮森の脳中から消える――。
⦅明日二郎との精神感応連鎖が切れたのか?
いや、この感覚はそれだけじゃない気がする。
ここに何かが有るのか……⦆
自問してはみるものの、答えを見出せない宮森。
これまでにない緊急事態だが、中継役の明日二郎が消えた事で、今日一郎との
⦅明日二郎の事は心配だが、今はやれる事をやるしかない……⦆
そう気持ちを切り替えた宮森は、二階の部屋を一つ一つ回って行く。
そして廊下奥の部屋に違和感を覚えると、その正体を〈
「益男さん、一番奥のあの部屋は何です?
接待部屋……ではないようですね。
従業員の控室か何かですか?
障子も破れてないし、あの部屋の前だけ〈食屍鬼〉の足跡が見当たらない。
この状況で荒らされないのは明らかに不自然です」
「あれは確か……いえ、私の口からは何とも。
とにかく入ってみましょう」
口を
ふたりは警戒態勢を維持したまま、奥の部屋に突入する。
コルトM1911を構え障子戸を開け放つ宮森。
敵が飛び出て来た場合に備え、身を低くして障子戸の陰に隠れた。
〈
「……どなた、ですか?」
部屋内に〈
真っ白な肌と髪が嫌でも目を引いた。
[註*
宮森はこの女性を知っている。
比星
彼らの母、比星
澄の持つ
比星
「そ、そこの御方、御怪我は有りませんか?
今から我々が安全な場所まで護衛しますので、付いて来て下さい」
「……はい」
澄は、小動物にも負けそうなか細い声で承諾する。
立ち上がった彼女が宮森の差し出す手を取ろうとしたその時、〈
「ふたりとも伏せて!」
ふたりが畳に伏せるのと同時に、外に面した窓
突如として窓辺に現れたのは、黒衣の怪物〈
その冒涜的な様相はまさに【
〈
〈
〈
いま発射されている散弾は、魔術師が使用する前提で調整された爆裂弾だ。
例え
その爆裂弾を装弾数五発とも全て叩き込む〈
流石の〈
⦅
〈
窓辺から姿を現したのは、無傷の〈
〈
宮森は気付く。
〈
『しまった!』と宮森が思った時には既に遅く、〈
〈
欲を言えば
〈
〈
互いの両手指が掴み合う、いわゆる
〈
それを好機と捉えた宮森は、最大限の霊力を次弾につぎ込むべく精神集中を開始。
宮森が直ぐ射撃に移らなかったのには理由が有る。
直ぐに射撃したとしても、〈
又、コルトM1911用の弾薬には細胞融解素が使用されている。
跳弾が澄に命中でもしたら、それこそ取り返しが付かない。
今日一郎とは連絡が取れず明日二郎も居ない今、宮森は次弾に賭けるしかなくなった。
よって彼は残存霊力の殆どを貫通力に変換、次弾に付与する。
至近距離なので狙いを外す事は無い。
射撃体勢に入った宮森。
渾身の霊力を込めた弾丸を放つべく、
『タッ!』
が、宮森の策に気付いた〈
貫通力が極限まで高められた銃弾は部屋の畳を貫通し、一階の床板はおろか、旬梅館のベタ
[註*ベタ
地震や湿気に強く、木造建築では非常に有効]
コルトM1911を取り落とした宮森は
しかし〈
尻尾を使い、宮森をむりやり澄から引き剥がした。
狙いを察知した〈
〈
〈
大翼を目いっぱい
何とかその場で
その後は、両足の鉤爪と鋭利な棘を有する尻尾で〈
〈
鉤爪、
本数で劣る上、両足と尻尾を器用に操る〈
何とか
瞬く間に劣勢となり、身体のあちこちを負傷し始めた。
「宮森さん、その方を連れて逃げて下さい!
〈夜鬼〉は私が何とか抑えます!」
威勢のいい台詞だが、〈
〈
〈
「ぐあぁっ……」
文字通り無力になった左手をぶら下げた彼の顔は苦悶に歪み、今や右手一本で宙吊りになっている。
〈
その光景を見ていた宮森は、澄を連れ部屋を脱する。
〈
廊下に出るも追い付かれた宮森は、澄を守るようにして〈
しかし〈
「や、止めて……」
隣室で伸びている宮森には目もくれず、澄を両腕で抱え再び空へと舞い上がる〈
今の彼には、月を背に飛び去る〈
◆
灰色の夜明け その三 了
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