第十一節 ヴーアミタドレス山より
ヴーアミタドレス山より その一
一九一九年六月 ハイパーボリア大陸
◆
遂にハイパーボリア大陸へと足を踏み入れた今日一郎と入門。
今日一郎が開いた
『こちら草野です。
宮司殿、入門 殿、聞こえますか?』
「草野 少佐、ちゃんと聞こえとる。
突入は成功ぞよ」
草野が無線通信を続けた。
『これからヴーアミタドレス山に向け暫く飛行した後、サニーストームを着水させます。
私の遠隔透視でも、メルカトルの地図に描かれている巨大な川が確認できました。
では、これから着水態勢に入ります』
草野からの通信通り、眼前にはヴーアミタドレス山。
眼下には、萌える草原を流れる巨大な川が広がっていた。
『宮司殿、入門 殿、少し揺れますぞ』
草野の
機体に装着してある
徐々に
機体が停止した所で、草野から再び通信が入る。
『機体が停止しましたな。
発動機を停止させたあと円蓋を開きますので、少々御待ちを……』
機体の
草野は、自身からかなり離れた場所に於いても
開いた
ただ今日一郎と入門が機体から降りようとした際、思わぬ問題にぶつかってしまう。
乗降用の
潜水空母ボウヘッドの甲板には
元々備わっている手掛け足掛け
その
『はは。
御ふたり共、
私が念動術で手伝いますよ』
半笑いで加勢を申し出る草野が気に
「いんや、ここは和仁に任せて欲しいぞよ!」
『そうでしたな。
御株を奪うような発言申し訳ない。
では、後は御任せします。
この機体はここらで待機させておきますので……』
申し出を断る入門に、草野も何か心当たりが有るらしい。
『ブーーーーーーーーゥゥゥン……』
入門が精神を集中すると、今日一郎と入門の座面から鈍い音が発生した。
成り行きを見守る今日一郎。
⦅僕が次元孔を開く時に似ているな……⦆
『……ッッッヴァァァァァーーーーーーーーーーーーーン』
より大きい音が響くと、今日一郎と入門の身体がフワフワと浮き始める。
機体の
途中、入門が得意気に漏らす。
「これは念動術ではないぞよ~。
密度操作ぞよ~」
ふたりは川の岸辺まで浮遊し、段々と高度を落として無事着陸した。
陽気に堪り兼ねた入門が防寒服を脱ぐと、こもった湿気が広がり今日一郎が嫌な顔をする。
蛙そっくりの得意顔で、今日一郎に声を掛ける入門。
「本心は浮いておった方が楽なのであるが、これから仕事がありますでな。
無駄な霊力は使えぬ故、ここからは歩くとしましょうぞ」
ふたりの魔術師が歩くは、春の草原。
花が咲き、虫が地面を這い回り、川には魚が飛び跳ね、空には鳥が舞う。
遠方には、絶滅した筈のマンモスの姿さえ見て取れた。
マンモスには今日一郎はおろか、入門さえも興味津々である。
このような北極点の姿を誰が想像できるだろうか。
詰まり、ハイパーボリア大陸と外界の行き来が格段に容易になる。
この事が後の世にいかなる作用を及ぼすか。
それらはまだ、語られる事は無い――。
◇
緑の草原に聳える黒い山は多分に現実離れしていて、近寄り難い威容を見せ付けている。
それでも彼らは、ヴーアミタドレス山内部の入口に近付いて行った。
灰色の外壁に華美な装飾類は見られないが、その
割と滑らかな質感で、
余りにも巨大なので全貌を掴めないが、研究施設然とした雰囲気を漂わせている。
開口部らしき部分が見えたが、その
明らかに、現生人類が使用する門の五、六倍は有る。
とてもではないが、
ふたりが巨大門に到達すると、入門が動いた。
「ふふふ、やっとここまで来れたぞよ。
宮司殿、暫し待たれよ……」
入門が霊力を集中する。
それに連なる形で、今日一郎は入門に定着している邪神の姿を幻視した。
⦅
入門が邪念に染まった霊力波を巨大門へ照射すると、それに応えるかのように、巨大門表面からも白光が差して来た。
その白光はユラユラと揺れて細く分裂し、入門の首筋や腹に接触する。
彼の背中へと回り込む物も在った。
今日一郎は霊力で視覚を拡張、その白光を
⦅何だあれは。
光かと思ったが違う。
質量を備えた物体……。
それも、非常に細い糸に視えるぞ。
糸自体は無色透明らしいが、光の乱反射で白光を放っている。
その糸が、入門の首などに針の如く刺さっているのか。
余りにも糸が細過ぎるので、入門は痛みすら感じていない⦆
超極細の
特定の邪念を持つ者にのみ開く門――。
これが、この施設の
ハイパーボリア大陸周囲を囲む電磁
入門の情報が行き渡ったのだろう。
巨大門に色とりどりの光が明滅した後、彼から
どうやら、施設への入場許可が出たらしい。
巨大門が音を立てて開門。
全開になるのを待たず、入門は施設内部へと足を踏み入れた。
入門が施設内に足を踏み入れた瞬間に照明が灯る。
内部の気温は暖かい外気と変わらず、ふたりは空気の
今日一郎などは、『いったいいつから稼働しているのだろう……』と太古の昔に想いを馳せていた。
施設内部には、今日一郎も見た事の無い設備が並んでいる。
その滑らかで有機質な質感は、帝居地下神殿の鳥居を思い起こさせた。
又、仕組みは解らないが床面の一定範囲に光が点滅している。
入門が光っている床面に乗り、今日一郎にも乗るよう促した。
『フーーーーーーーーゥゥン……』
入門が〘
ふたりが光る床に乗ると、丁度サニーストームの操縦席から出た時と同じく体が浮いた。
五分程の浮遊移動の後、ふたりは途轍もない広さの
その広さと有機的な機械類を見れば、現生人類の造った物でない事は明確。
ふたりの行き先を示す光が、その階段を上昇するよう告げている。
ふたりが『登る』と思考すると階段が点灯し、その上を自動で浮遊
登り切った頂点は正方形で、平坦な床面を始めこれと云った特徴は無い。
だがその四隅には、縦長棒状の柱上に、やや潰れた球が乗っかっている形の奇妙な
ふたりが床の中心部まで進むと移動停止。
浮遊効果が切れ着地する。
着地して直ぐ、床面には色取り取りの光が踊り、入門の足元周りにだけ集まって来た。
入門が今日一郎に向け声を掛ける。
「宮司殿、もう少し離れてたもれ……」
今日一郎がその場を離れると、四隅に立っていた物体の球形部分、その中心付近が水平方向に開いた。
その様はとてもユーモラスで、
[註*
名前そのまんまの素敵なお姿]
その大口海鞘の口から多量の光……
多量の
入門の情報全てが
今日一郎はその光景を見て結論を出す。
⦅この祭壇は操作中枢。
入門は、ここでいったい何をする積もりなんだ?⦆
◇
ヴーアミタドレス山より その一 了
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