いざ、北極へ その五

 一九一九年六月 クイーンエリザベス諸島沖 試作型潜水艦IXSS‐0 Bowhead(ボウヘッド)艦内





 宇部田と蔵主の製品解説が佳境に入る。


「……なるほど。

 それが丸い一本の筒ではなく、二本の筒が並んだ眼鏡型ボディーを採用したという理由の一つなんですね~。

 ボウヘッドの性能、いかがだったでしょうか。

 凄かったでしょう?

 でもここから。

 こ、こ、か、ら、が、本当にスゴイんです。

 テレビの前の皆さん、お困りな事、御座いませんか?

 ヴーアミタドレス山に近付きたいけど近付けない。

 ハイパーボリア大陸の周りは敵勢力の艦船だらけ。

 見つからないか怖い。

 見つかっても怖い。

 行き場のない閉塞感……。

 確かに、ボウヘッドはコスト度外視で建造された最新鋭の潜水艦。

 でも、不意に頭をよぎる撃沈の可能性……。

 あとチョット、あとチョ~ット近付ければ、ヴーアミタドレス山の電磁バリア内に転移が叶うのに~」


 やっと本題に入ったか、と思い乍らも、宇部田の語りトークを聞き漏らすまいと傾聴けいちょうする一行。


 宇部田が蔵主に目で合図を送ると、ふたりは大きく息を吸い込み呼吸を合わせ、ほぼ同時に決め台詞ぜりふを放った。


「お任せ下さい‼」

「お任せ下さいぃ‼」


 蔵主の方がやや間延びしてしまったが、会心の笑みで宇部田が畳み掛ける。


「な、ん、で、ボウヘッドは潜水艦としてここまで巨大なのか。

 な、ん、で、眼鏡型と云う特異な形状をしているのか。

 全てはこの為です!

 はいドン!」


 気持ち強めに解説図フリップを立てる宇部田。


 そこに描写してある事柄には、今日一郎でさえ驚嘆せずにはいられなかった。


「なんとこのボウヘッド、内部に飛行機を格納してるんです!

 重要なのでもう一度言いますよ。

 内部に、飛行機を、格納、してるんです!

 しかも偵察機ではありませんよ~。

 攻撃機、攻撃機なんです!

 当然、爆弾とか魚雷とか装備できちゃうんです!」


 宇部田がわざとらしく耳に手を当てる仕草をして、画面の向こうの視聴者に聞き耳を立てて来た。


「……はい、はい。

 潜水艦に飛行機を搭載しようと云う計画は確かにあります。

 一部の国はもう製造しているかも知れません。

 でもどうでしょう、搭載と云っても甲板に載っけるだけだったり、潜水艦内部に格納するにしても、甲板に出してからいちいち組み立てねばなりません。

 そんなの、砲弾や魚雷が飛び交う戦場では使い物になりませんし何よりめんどくさい……。

 しかしこのボウヘッドは違います!

 では社長、お願い致します」


 宇部田から蔵主へと語りトーク引き継がバトンタッチされた。


「はいぃ。

 このボウヘッドはですねぇ、内部の格納庫に飛行機を搭載できるんですぅ。

 一機じゃありませんよ二機でもありませんよぉ。

 な、な、なんと三機ぃ!

 三機も搭載できるのですぅ~」


「社長、それだけじゃないんですよね。

 飛行機のほうも凄いんですよね。

 はいドン!」


 宇部田があいの手を入れ別の解説図フリップを立てると、更に魅力を強調した蔵主。

 

「この飛行機ぃ、通称サニーストームはぁ、な、な、なんと主翼ぅ、水平尾翼ぅ、垂直尾翼の上端を折り畳める仕様となっているのですぅ。

 でぇ、すぅ、かぁ、らぁ、甲板に出していちいち組み立てる必要がないのですぅ~。

 それ故に迅速な作戦行動が可能なのですぅ……と云う事はぁ?

 お空を飛んでヴーアミタドレス山に近付けるぅ……と云う事ですぅ~~~」


 カメラを向けられる事に慣れて来たのだろうか、画面の向こうでは蔵主が得意気にもみ手をしていた。


 海上や海中からではなく、空中からヴーアミタドレス山に接近を図ると云う、この時代にしては突飛とっぴな発想。

 収納する為に各種翼を折り曲げられる飛行機と、それを格納運用する為の潜水空母と云う画期的エポックメイキング絡繰りギミック


 視聴者一同は、感銘にも似た感情が込み上げて来るのを感じていた。


 宇部田と蔵主が番組のシメに入る。


「はい!

 と云う訳で御座いまして、蔵主 産業のすいを尽くした潜水空母ボウヘッドと搭載攻撃機サニーストーム。

 サニーストームは三機セット、三機セットでのご提供です!

 お値段の方、いったいお幾らに、な、る、ん、で、しょ、う、か?

 社長、お願い致します!」


「お値段はぁ…………付けられませぇん、非売品ですぅ!

 でもこの作戦が成功したらぁ、量産品が飛ぶように売れますぅ!

 九頭竜会と蔵主 産業の科学力はぁ、世界一なのですぅぅぅ!」


「そろそろお別れのお時間がやってきてしまいました……。

 蔵主ぞすネット宇部田と蔵主 産業一同、皆様の作戦成功を心よりお祈り致しております。

 それではまたお会いしましょう、さよなら~~~~」

                「さよならぁぁぁぁ」


 余程楽しいのだろう、宇部田と蔵主はにこやかに笑い手を振っている。


 合唱団とピアノ奏者が再び登場、位置に着いた。

 そして例の曲が始まる。



「「北の端から南の端までステキな~武器を届けます~♪

 心騒がす無体むたいな生活、電話一本! 叶えます~♪

 蔵ーー主ぞーーすネット、蔵ー主ぞーすネット~(フウフウ)♪

 武器の蔵主ぞすネット宇部田うぶた~♪

 蔵ーー主ぞーーすネット、蔵ー主ぞーすネット~(フウフウ)♪

 武器の蔵主ぞすネット宇部田うぶた~♪」」



 番組が終わり、色々な意味で唖然としている一同。

 画面の向こうで繰り広げられる別世界の出来事。


 これはもう、ある種の催眠術か精神攻撃ですらあると、今日一郎には思えていた――。





 いざ、北極へ その五 了

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