いざ、北極へ その四
一九一九年六月 クイーンエリザベス諸島沖 試作型潜水艦IXSS‐0 Bowhead(ボウヘッド)艦内
◇
今日一郎、入門、権田 夫妻は、草野 少佐が示したブラウン管
画面に映し出されたのは、どこかの小規模
立ち机が置いてあり、その後ろには横幅の広い踏み台が設置してある。
踏み台の脇には、ピアノと女性奏者が待機。
踏み台上には、尋常小学校を出てはいないだろう年頃の子供達が十二、三人並び、今は仲良く御喋りしていた。
画面中央の立ち机に肘をついた男性が、画面外の
「でさー、ミドリちゃんとはどうなの?
もうひと押しでさー、ヤレちゃうんじゃない……え?
もう回ってる?
回ってるんだね?」
画面中央の司会者と
「はいはいはいはい。
みんなー、もうキャメラ回ってるからー。
し、ず、か、に~!
ほ、ん、ば、ん~!
じゃあ演奏者の方、お願いしまーす」
独特な
子供達を纏めた男性は、急に背筋を伸ばしてカメラ目線になる。
ピアノ奏者が軽快な
その
「「北の端から南の端までステキな~武器を届けます~♪
心騒がす
武器の
武器の
歌い終わった合唱団とピアノ奏者がはける。
世界初のテレビ番組の開演だったが、案の定画面前の皆はポカンとした表情。
只、草野だけはゲラゲラと笑いを
放送を受信しているここの様子を知る
「ハイこんにちは~。
〘
この放送は長崎県
宇部田とか云う司会者の言葉に今日一郎が反応した。
⦅
昨年着工したばかりだと云うのに、もうここ迄の事が出来るとは……⦆
画面の向こうでは宇部田が前振りを続けている。
「いや~、ヨーロッパでの戦乱も一段落しました。
凄かったですよ~。
もうね、戦車、飛行機、潜水艦。
爆雷、毒ガス、列車砲。
火炎放射器、機関銃。
ここだけの話……。
実はこれらの兵器、我が蔵主 産業が技術協力してるんですよ~。
すごいでしょ!
でもまだまだ。
まだまだこんなもんじゃありませんよ、蔵主 産業の技術は……。
と云う訳で御座いまして、今回ご紹介する製品はコチラ!
ってあれ、このスタジオには入りません……。
そうです!
今あなた方が乗り込んでらっしゃる潜水艦、ボウヘッドが製品なんです!」
何だこの茶番は……と最初は誰もが思っていた世界初のテレビ番組だったが、やけに耳に残る
「なんと!
今日はスペシャルゲストをお招き致しております。
どうぞ~」
登場して来たのは、七三分けの髪形をポマードでべっとりと
時代背景的に当たり前だが、テレビ慣れしていない蔵主は相当あがっている。
モジモジしている蔵主に構わず、宇部田が元気に
「いや~、わざわざお越し頂きありがとう御座います社長!
今日は社長自らボウヘッドをご紹介下さると云う事で。
では、お願いします!」
「は、はいぃ……。
蔵主 産業社長の蔵主 重郡ぉですぅ。
早速ですがぁ、ボウヘッドの説明を致しますぅ。
このボウヘッドは日米の海軍が共同で開発致しましてぇ、あぁ、勿論秘密裏にですぅ……」
あがり切ってシドロモドロになってしまった社長を見かねてか、仕方なく宇部田が紹介を引継ぐ。
「お任せ下さい!
先ずはこのボウヘッドの大きさからご紹介致します。
驚きますよ~、なんと全長一二二メートル!
一二二メートルですよ!
全幅は一二メートル。
水中排水量は六五六〇トン!
こんな大きな潜水艦見た事ありますか聞いた事ありますか?
ないでしょう~、世界初ですからね~。
ここからは更に、性能の方をご紹介致しますよ!」
作戦の説明ではないのか……と転移して来た皆は思ったが、物珍しい事もあってつい見入ってしまう。
「では社長、ボウヘッドの細かい性能なんですが……」
こうしてふたりは、立ち机に備えてあった
性能なぞ今日一郎や入門にはどうでもいい事だったが、ボウヘッドが表に公開されている技術の二十年先を行っている化け物だと云う事は理解できた。
◇
いざ、北極へ その四 了
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