慰労の宴 その三
一九一九年六月一三日 帝居地下 御殿
◇
歓談室での論功行賞の後、一同は地下の御殿へと移動した。
御殿の和風座敷には、既に
瑠璃家宮が上座に座り、その他は用意されている席に着いた。
瑠璃家宮の右隣には、もう一席
宮森にはこの意味が良く解った。
⦅綾が来る……⦆
案の定、
昨年の十一月に儀式を行なったので、彼女は現在妊娠七箇月弱。
その
そして胎児の遺伝学上の父親は……宮森なのだ。
今日以外にも、帝居に訪れた際は
しかし段々と膨れる彼女の腹を見るにつけ、自身の
どうしても綾の
甘い寒気を感じる。
見ているのは、
綾の方か。
――。
沈んでいた宮森に、隣席の宗像が話し掛けて来る。
「なあ宮森はん、殿下のお隣はどなたや?
殿下はまだ御成婚されてないやろ。
妊娠されとるようやし、まずいんとちゃうの?」
「お隣の方は綾 様と申されます。
殿下の
やんごとなき方々の事ですから、
「そうか……。
お、宮森はん、またどなたかいらっしゃったで」
座敷に入って来たのは、和服姿の中年男性。
藍色の羽織に、
中の着物は
ここまでは良いが、
烏帽子の中には頭頂部全体の毛髪が収められ、その重みで烏帽子自体が額の上まで垂れ下がっているのだ。
現代人が見たならば、烏帽子カバー付きのリーゼントヘアーだと判断するだろう。
[註*
[註*
蛙が挨拶する。
声量が大きいのに加え、いやに音程が高い。
ネットリと
「
今回は宴の席に御招き頂き光栄の至り。
はて?
御初に御目に掛かる
よしなに」
どうやら、『
宮森と宗像も着座したまま礼を返す。
和仁ぞよオジ様の登場で、今日帝居に来て初めて明日二郎が声を上げた。
『ま~た濃いオッサンが出て来たぜ。
宗像のオッチャンだけでこっちは手一杯だってのによ~。
ヤツが宗教団体
そう云やあ、お前さんの大学の先輩だって話だったな』
『明日二郎、まだ入門 和仁吾郎の力の程が判明してないんだぞ。
不用意な精神感応は控えてくれ』
『わーったよ。
そんなにガミガミ言うない。
但し、ピンチの時には迷わず進言するゾヨ……』
明日二郎に注意して再び入門に注目する宮森。
⦅この国に根を張るアトランティス勢力の長と云われるが、圧倒的な威厳や非凡な才能と云ったものは感じられない。
悪く言えば
良く言えば
だが奴が
奴には、そう云った性質の邪神が巣食っていると云う事かも知れない。
それにあの多野 教授がこの宴席を辞退までしたんだ。
入門の在学中に教授と
宮森が入門の分析に
「今回の宴は余に協力を申し出てくれた入門 殿の歓迎と、先日熊野で起こった事態の収拾に尽力した者達の
では、存分に楽しみ給え」
そうこうしている内に宴会が始まる。
宗像は好物の酒が
綾も瑠璃家宮から食べさせて貰うなどしており、仲の良さを存分に見せ付けている。
瑠璃家宮と綾の光景を
入門も『
宮森も料理に
大方の客が膳を平らげたのを見計らい、給仕係が追加で
と云うより、給仕係の顔面に、
小鉢が行き渡った後、瑠璃家宮が自慢げに
「今日に合わせて上物を仕込み、たった今収穫したモノである。
皆、遠慮なく食し給え」
運ばれて来た小鉢には、小指の先程の大きさで松ぼっくりに似た形のモノが、
得体の知れない小鉢を
「うぉえ~っ!
え、えらい匂いやな……。
食えるんかコレ?」
宗像が宮森に向け
『おいミヤモリ、いま直ぐ
あの小鉢の中身は人間の脳の一部分、
表のまま食っちまえば、
宮森と宗像 以外の一同には満面の笑みが浮かぶ。
いや、本性が
権田 夫妻は
入門は悪徳を値踏みする蛙の眼。
綾は官能の光を
瑠璃家宮は
魔人達は遠慮なく松果体を
◇
慰労の宴 その三 了
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