第一節 慰労の宴
慰労の宴 その一
一九一九年六月一三日 宮森の下宿先
◇
『え~~っ。
そりゃないぜオニイチャンよー』
爽やかに初夏が
その嘆息をこれでもかと絞り出すのは、
彼らは今、別の場所に居る明日二郎の兄、比星
不満タラタラの明日二郎を今日一郎が
『明日二郎、これはもう決まった事だ。
それにお前は、宮森さんの師匠なんだろ?
弟子の成長を
『でもよ~オニイチャン。
いくら霊感を研ぎ澄ます為の修業だからって、一日一食はないぜ~。
食だけがオイラの生き甲斐なのに、これじゃ何の為に生きてんのか分かりゃしねー』
『残念だけど僕らには時間が無い。
宮森さんを
最短経路で頼むよ明日二郎』
なぜ明日二郎がここまでブーたれているのかと
明日二郎はこの物質界に実体が無い為、食事の快感を楽しむには、他の人間に憑依してその感覚を共有しなければならないのである。
その楽しみがほぼ一日一回しか楽しめなくなるのだ。
不満が噴き出すのも無理はない。
宮森も明日二郎を諭しに掛かった。
『仕方ないだろ明日二郎、慣れるしかないよ。
弟子より先にシショーが参ってどうする』
『ム~、分かった。
一日一食で我慢しようではないか。
『はいはい。
明日二郎が
『宮森さん。
今日は確か、
『ああ。
ここで自分を売り込んで、組織の上層部に食い込まなければならない』
『それを
宗像
何よりあの
天芭 史郎。
あの天才魔術師を相手に、宮森 達がいま生きていられること自体が奇跡とも言える。
それ程の
皆が天芭の事を思い起こしていた矢先、階下から女将の呼び出しが掛かる。
「宮森さ~ん、お客さんがみえたわよ~」
「は~い、
どうやら帝居からの使いが来たようである。
既に身支度を終えていた宮森は階下へ出向き、帝居からの使者と対面した。
「おはよう御座います宮森さん。
御変わりありませんか?」
「
見ての通り元気そのものです」
帝居からの使者は、先の熊野旅行で一緒だった
彼もまた魔術結社
「では女将さん、行って来ます。
戻りは夜遅くになると思いますので、晩御飯は用意して
「はいよ。
じゃあ、いってらっしゃーい」
『ダァ~、晩飯も抜きかよ~』
まだ朝であると云うのに悲嘆に
◇
一九一九年六月一三日 帝居 歓談室
◇
宮森 達が帝居へ到着すると、いつもの歓談室に案内された。
いずれも重厚過ぎず優美さを加味した
この部屋には女性も多く出入りする為か、シャンデリアや壁面の
先客が居る。
宮森の恩師であり、現在は
瑠璃家宮の側近中の側近にして魔術師。
邪神復活計画の為に宮森を利用しようと、彼を九頭竜会に引き込んだ張本人である。
「ふむ、来たか。
掛け
益男 君も御苦労。
もう直ぐ
宮森と益男は多野の反対側の席に着くと、一分と経たないうちに頼子が宗像を連れ入室する。
「多野 教授、宗像さんを御連れしました。
宮森さんも暫くですね」
「失礼するで~。
おう宮森はん、元気しとったか?」
多野の威圧感にやや
頼子と宗像が着席した所で、多野が宗像に挨拶する。
「御初に御目に掛かりますな、宗像 藤白 殿。
私は真道院大学の学長をやっとる多野 剛造です。
熊野では災難でしたな」
「ご丁寧にありがと御座います。
ワイが宗像 藤白であります。
多野 教授の事は、お弟子の宮森はんからよう聞いてますよ。
熊野ん時は、宮森はんと権田 夫妻に
「教え子がそちらの御役に立ったようで何より……」
多野は部屋に
「もうじき殿下が
宗像 殿にも御起立願おう」
「ややっ、もう殿下が御出でになるので?
多野 教授、ようお判りになりますなあ」
全員が起立してから十秒も
即座に全員が
「皆の者、今日この場に集って貰い感謝する。
席に着き給え」
瑠璃家宮の号令で全員が着席し、熊野の一件での
[註*
◇
慰労の宴 その一 了
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