女神、いりませんか? ~スキル【女神創造】を持った男の商売業。使い方は問いませんが、規約違反の場合は殺します。最強なので、反抗はできませんよ?~

室星奏

第1話 女神、お売りします

 裏路地というのは、本当に恐ろしい物である反面、好奇心がくすぐられる場所である。武器屋や防具屋さんとかの出店に何らかの理由で行った事のある人にはわかるかもしれない。

 表では到底出せないような代物をそろえる事が出来る場所、それが裏路地なのである。私のような旅人の身分の間では『闇店』と呼ばれたその場所は、いわばロマンの塊であり、新しい街を訪れたら真っ先にその闇店を探し歩くのだ。


「……神の家?」


 今日も今日とて、新しい街へとやってきた私は、裏路地を軽快に散策する。

 すると、ある建物の看板が目に留まり、立ち止まった。ただの看板なら立ち止まる気すら起きないだろうが、今回の場合は違った。

 明らかに奇怪な文章が綴られていたのである。


『女神、お売りします』

「いやいや、おかしいでしょう」


 思わず声に出して突っ込んでしまった。聞かれていないか? と周囲を見渡すが、そもそもこんな暗い路地に意味もなく立ち入るなど、私くらいであった。

 そもそも闇店自体危険な物が多く、毎度事件に巻き込まれたりするなどの事件が絶えないのが現状な為、今となってはこうやって不用意に散策する人は誰もいなくなってしまった。悲しいものである。

 女神を売る、そんなの出来る筈がない。出来たとしても、それは不敬罪なのではないだろうか?


 女神、それはその名の通り女性の姿をした神様である。

 様々な街にその伝承が知れ渡っており、現存している街の8割以上は、女神による加護を授かっていると言われている。2割は男神だが、殆ど興味はない。

 私の故郷とて、女神による加護を受けている。名前は―……忘れてしまったが。


 それはそれとして、明らかに危ない店であるのは間違いないだろう。入ったら『騙されたな? はーはっはっは』とか言って、怖い男が数人現れて、女の子である私を無理やり捕らえて、あんなことやこんなことするに違いない。

 ――が、裏路地マニアである私は、そんな悩み等知らないと言わんばかりに、その建物の扉を叩いた。襲い掛かってきたら、最悪魔術で反撃するしかない。腕はそれなりにたつ方である。


「――おや、お客様ですか? どうぞ中へ」


 声が聞こえ、私は一息ついて扉を開けたその入口をくぐる。

 心地の良い臭いと雰囲気が漂う木製の内装。棚には色々な薬品が並べられており、その値札を見ればここが闇店だという事が鮮明にわかる。どれも異様に値段が高いのだ。

 そしてカウンター。そこには先ほどの声の主だと思われる黒髪の男性と、その後ろでせわしなく事務作業をする金髪の美しい女性の二人がいた。その両方の腕には見た事のない紋章が刻まれている。

 紋章という物はかなり珍しい代物で、この世界では国から認められた人物にしか贈与される事は無いという。魔術師として力量を認められた方とかが最もな例だろうか。

 私もこれまでいろんな紋章を見てきたが、二人のような紋章は見たことない。それだけでも、二人が只者ではない事が分かる。


「好きなだけ見ていくといいよ。気になる品があればお教えしますので」


 男はにっこりと笑う。


「あ、あの……」

「はい?」

「看板にあった、女神を売る、というのは……」


 二人の眉がピクリと動く、その時の表情は『あぁ、そういう人か』と納得するような表情。


「成程。気になりましたか?」

「今時、珍しいですね」


 女性が苦笑しながら、徐にカウンター後ろの階段から2階へと上がっていく。

 男性と私だけが取り残され、一時の静寂が訪れる。男性は、しびれをきらしたかのようによっこらせと立ち上がり、私の方へと歩み寄る。


「店の知名度も上がるかなと思って看板に書いてはみたが、反応してくれるのはごく少数でして」

「……やはり、冗談ですよね、ははは」

「いえ、全く。ここは女神も取り扱っていますよ」

「……え、えぇ!?!??!」


 大きく目を見開き、店主の顔を見る。眼は左右に動いておらず、ただこちらを真っすぐみてニコリと笑った。冗談を言っている顔ではない。

 女神を売るなんて言語道断だし、まず女神という存在が本当にいるのかどうかも分かっていないというのに、この人は何を言っているのだろうか?

 おかしい、おかしすぎる。


「な、なぜ女神を……大概失礼にも程がありませんか!?」

「まあ、そう思いますよね。でも私からすれば、自ら愛情こめて育てた我が子のような子供を良い人に巣立たせるような感覚ですので……」

「……その例えだと、貴方が女神の子供みたいに聞こえてくるのですが」

「さあ、どうでしょう」


 男は表情を変えずに答える。まるで私を馬鹿にしているかのように。

 実際私はなんだか馬鹿にされているような感覚だった。


「よろしければ、見て行かれますか? 女神様を」

「み、見て……!?」

「ええ。二階で皆騒がしく主人となる人を待っておられますので」

「……よ、よろしくお願いします?」


 どう反応したらわからず、つい疑問形で回答してしまった。

 男はニコッと笑い、私を二階へと案内してくれた。


 

 2階は何やらこの世界で言う冒険者ギルドのような内装となっていた。酒場のようなカウンターに丸いテーブル、値段表と思われる紙が貼られた掲示板が置かれた簡素な作り。

 その部屋には、先ほどいた女性の店員の他に、二人の女性が存在していた。その二人には、胸元にブローチの物が付けられており、そこには価格と思われる数字が刻まれていた。チラッと見えた程度だが、到底普通の人間が購入できるような価格ではない。冒険者が頑張って上級クエストを何度もこなし、ようやく購入することができる程の価格か(上級クエスト自体が金貨10枚程の報酬である。普通の民間人の年収は金貨2枚程度)。


「あら、案内したんですね」

「ええ、大切なお客様ですから。貴方も、一応準備してくれてたのでしょう?」

「勿論です」

「……」


 先ほど二階に上がっていった女性がこちらに気づき、テトテトと足音立てて駆けよってくる。

 先ほどは遠目だったから分からなかったが、こうやって彼女の近くに寄ると彼女が只者ではない事がはっきりわかった。まず魔力の気配が常人よりけた違いなのだ。

 普通でさえ感じれるか微妙だというのにも関わらず、彼女からはハッキリとその魔力を悟る事が出来る。

 しかもただの魔力じゃない。感じとっただけで、身の毛がよだっていく。驚きで声すら出す事もできなかった。


「お客様、どうです? ここがこの店の真相です」

「……な、なんというか、言葉が出ないです……。まだ女神だとは信用できないですが……」

「ふふ、それは当然かもしれませんね。証明する方法なんて、私達には持ち合わせていないのですから。あ、申し遅れました。私は女神フィオナと言います。売り物ではなく、彼の補佐役ですが」

「おや、そういえば自己紹介していませんでしたね」

「あ、あぁ、いや、お気になさらず……」


 私は慌てて遠慮したが、どうやら向こうはそんな物お構いなしのようだった。


「私はフレイと言います。この神の家の店主をしております。といっても、この店の従業員は、私と彼女だけですが」

「他は、売り物なのですか?」

「ええ、売り物でもあり、大切な我が子ですよ」

「は、はあ……。あ、私はキリアって言います、冒険者の身で」

「キリア様ですね。その名前、お忘れいたしません。どうぞ、よろしくお願いいたします」


 咄嗟に出された握手の腕に、私は無意識に応答してしまう。あれ? これは、お得意さま扱いされそうになっている?

 まあ、私は女神を買える程お金に余裕があるわけではない為、丁重にお断りするのだが。

 しかし、この店には興味がある。フレイという店主と、フィオナという補佐、この二人は何者なのか。そして、この店は一体何なのかを。


「……あの」

「はい、何でしょうか?」

「しばらくの間、ここに滞在しても良いですか? なんだか、気になってしまったので」

「ふむ。まあ、私もフィオナもこの店から離れる事はそんな無いですし。構いませんよ。一緒に寝泊まりする事になりそうですが。フィオナもよろしいですよね?」

「はい、勿論です。折角ですし、店の手伝いでもしてもらおうかな?」

「フィオナ、一応お客様ですから……」

「あ、大丈夫ですよ。それで滞在金とか賄えるのなら」

「ふむ。……貴方がいいというのなら、そうしてもらいましょうか」


 快く承諾してもらえた為、私は一先ず安堵した。ヤバそうな店だというのは明らかだったし、普通に追い出されると思ったからである。

 ……それに、女神(と思われる人)と触れ合える機械なんて、今後絶対に起こらない筈なのだから。

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