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久々に乗る新幹線の中は移り変わっていく窓の景色を眺めるには程よく静かで、都市から地方へと進むにつれて緑の多い風景が広がっていく。それに反比例するように乗客は少しずつ減っていき、目的の駅に着いた時には私を含めて五人も座ってはいなかった。
そこから地域の交通網になっている路線へ乗り換えてニ時間ほど乗っていれば、今も小規模ながらも発展を続ける田舎町がみえてきた。
故郷にある駅名が読み上げられるとその場で立ち上がり、揺れが収まってからゆっくりと車両から降りる。ICカードはまだ導入されてはいないので切符を改札口で駅員に渡す手間はあるが、都会のような混雑はないのでスムーズに通り抜けられていた。
そのまま出入口へと進み、およそ十年ぶりに戻ってきた思い出の土地を踏みしめる。
街並みに大きな変化はないが、住んでいた頃にはなかったチェーン店や綺麗に改装された個人経営の店舗が幾つか建っているので、まだ町としての活気は残っているようだった。
出てすぐにあるバス停に向けて歩くと、その近くで数年ぶりに会う母が迎えに来てくれていた。
「ただいま」
「おかえり」
声だけだと変わりがないように思っていたが、実際に見ると顔の皺は増えていて昔より丸くなった背中が老いを現れていた。
「毎年帰ってこいって言った時は頑なに来ないのに、こういう時には戻ってくるなんて都合がいいわね」
「自分の娘にそれだけ憎まれ口がたたけるのなら、まだまだ元気そうね」
私の軽口に鼻で笑う母の様子にまだまだ元気さを感じ、胸の端にあった親への不安に少しだけ安堵していた。
今度は、もうちょっと顔見せようかな。
「それにしても、急に帰る気になるなんて。どういった風の吹き回しよ」
隣ですたすた歩く母が、理由を訊ねてくる。
そのことを聞かれて上手く答えられそうな言葉を探してはみるが、まさか夢に出てくる子に呼ばれて戻りましたなんてことを言えるはずもなかった。
「……久々に会いたい人がいる、って言えばいいのかな」
「自分のことなのに何で疑問形なのよ」
鋭い突っ込みに返す台詞はなく、とりあえずの愛想笑いでその場を濁す。
あの約束もまだぼやけたままで、はっきりとしたことは何一つないけど、彼女に会ってみたいという気持ちだけは嘘ではなかった。
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