4-7
久々の実家で両親への顔見せと少しの休憩を挟んでから、今日の会場の母校へと出発する。卒業してから通うことのなかった通学路をゆっくり進んでみるが、当時の頃から変わっている様子はなく学校へと続くあの上り坂も健在だった。
唯一変わったと言えば私の体力が落ちたぐらいで、今まで駆け上がることのできた距離も歩いていくだけでも多少の息切れを伴っていた。
疲労で少し足を止め来た道を振り返ってみると、空は既に赤く染まり故郷の街並みはオレンジ色に彩られている。夕日に照らされるだけの景色なら今の生活でも十分に拝めるのだが、都会と生まれた場所ではまた違うものになっていた。
帰ってきた記念にと思い、手持ちのスマホで一枚写真を撮る。仕事で使っているカメラは持ってきてはいないので写りは劣ってしまうが、決して見れないものではないため記録としては十分な役割を果たしていた。
なんだか、昔もこんなことをしていた気がする。
幼い頃からずっとカメラを構えて生きてきたのだから、今の様子が過去の自分のどれかと重なっていても何もおかしくはない。普段ならそう考えて片付けてしまうけれど、今はそんな微々たる記憶ですら意味があるようにしか思えてならなかった。
校舎の正門が薄暗い道の先に現れると電灯の明かりが輝きを放ち、私と同世代の人たちの声で既に賑わっていた。
その門の脇に受付の列が出来ていたので、そこの最後尾へと並ぶ。
自分の番になって一歩前に出ると、目の前にはよく校門に立って生徒指導の先生と一緒に私たちに睨みを効かしていた生徒会にいた人が担当していた。
一瞬目が合い何か言われるかと身構えていたが、淡々と受付での記入方法の説明を始めている。直接的な面識はほぼないけれど、そういうところは変わってないんだなと勝手に安心して今日の名簿への記入をしていた。
そのまま十年ぶりの学校へ足を踏み入れ、来客用のスリッパを履いて会場の体育館を目指して歩いていく。
しばらく来なかった間に廊下の塗装は擦り切れ、備品の一部には錆が見え始めており、壁にはヒビが入ってしまい通い続けていた校舎も老朽化が進んでいた。
「古くなったなぁ」
昔と比べるとどうしても古びている学校に哀愁を感じてしまい、このまま廃れていくのかと思うと少し寂しさも込み上げていた。
その気持ちを抱えて更に奥に行くと、今度は大きなパネルが何枚も並び私たちを迎えている。
よくみると、そのパネルにはどれも中学時代の写真が貼られていて、参加者のほとんどが自分のクラスが展示されている場所で立ち止まって感慨深く眺めていた。
私も、自分のクラスの写真のあるところで足を止めて、その思い出を覗き込んでみる。
「……これ、私が撮ったものばっかりだ」
そこには、私が今までシャッターを切ったものばかりが並べられていた。
この頃からカメラとばかりに向き合い続けてきたことをみせられると、今の自分がこうしているのも納得してしまいそうで少し頬が緩んでしまう。
ずっと夢に見続けていた景色の先へと一人で歩き続けて、今ようやく望んでいた場所へと手が届こうとしている。
そのことに迷ったり悩んだりはしたけれど、後悔はしてはいない。
でも、その先へと進む自信が足りなくて、その一歩が出せずに足踏みを繰り返している。
もし、今の姿を当時の私が見たらなにか違う生き方を見出したりするのかな。
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