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吊り下がるぼんやりとした光が道を遠くまで照らし、その上を家の近所に住んでいる子供や時々通う雑貨屋の家族がコハルと同じような格好をしてゆっくりと歩いていく。昼間の照りつけるような暑さから打って変わり、ひんやりとした空気と頭上で揺れる小さな灯りが幻のような夜をどこまでも広げていた。
普段とは違うその空間の中を二人で巡りながら、街道に沿うように並ぶ出店も覗いてみる。時折金魚を掬ったり射的の結果に一喜一憂したりしているうちに、受験の疲れなんて忘れてしまい普段はないほどにはしゃいで通りを渡っていた。
「ねぇミノリ。あそこって」
屋台の列も半分を過ぎたころ、コハルが唐突に遠くの人だかりを指で差す。
薄暗い中を人が動くのですぐには分からなかったが、目を凝らせば私たちと同じ学校の生徒が集まっているみたいであり、その内の一人は見覚えのある人物だった。
「あれって、圭?」
「一緒にいるのは同じ部の人たちかな」
離れていてもその明るい雰囲気で圭がいるのは一目で分かり、並んでいる屋台に目移りしながらも私たちの方へと歩いて近づいていた。
動きに注視していると不意にお互いの目線が重なってしまい、反射的に目を逸らして逃げる。その先には、複雑な表情を浮かべるコハルが私の様子を窺っていた。
きっとこのまま進んだら、彼女と合流することになるのかな。
それ自体は決して悪いわけではなく、むしろせっかくのお祭りで賑やかになるのならそれはそれでいいかもしれない。
——それでも、今は。
「コハル、こっち」
親友の手を引いたまま、街道から歩道の端へと隠れるように逃げていく。
それから程なくして圭たちが近くにまで迫ってくるが、こちらに気づく素振りはなく部員の子たちと一緒に談笑しながら通り過ぎていった。
見つからなかったことにほっと胸を撫で下ろし、過ぎていく後ろ姿を少し申し訳なさそうに見送っていく。
「……どうしたの、急に?」
その隣で、コハルからは急に身を隠したことを不審がられてしまう。
「今は……二人きりが良いな、なんて思ったから」
彼女の瞳から逃れるように右へ左へと視線の逃げ道を探してしまいそうになるが、気にかけてくるコハルを前に誤魔化そうという気持ちを抑え、正直に今の気持ちを伝える。
実際、今日はコハルとの約束が優先ではあるので、他の人がいるのは気が引けてしまうというのも事実ではある。
ただ、言い回しが何だか独り占めしたがっているようになってしまい、伝えた後で少し気恥ずかしくなっているのは胸の内にしまっておくことにした。
「そっか……。そっかぁ」
その返事に対するコハルは、最初は目を丸くしていたものの噛みしめるようにそう呟いて、言葉の意味を理解するように何度も頷く。
時折、提灯の淡い光のせいか小春の頬が赤く染まっているように映っていた。
「それなら、良いかな」
最終的にはその一言で全てを収めて、彼女から手を引いて再び歩き出し、私もその後に続いていく。
この選択で良かったはずなのに、さっきの言葉がまだ脳裏をよぎって身体が徐々に汗ばんでしまい、そのせいで妙に脈も早くなっている。
先を行くコハルも顔が染まったままで進み、特に話しかけてきたりもしない。
緊張とも羞恥ともいえない不思議な空気が、私達の周りをより暑くさせていた。
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