2-3
鳥居を出てからは雑談をしながら進み、楽しい気持ちが暑さを感じさせないほどにゆったりとした時間を作り、気づいた時には目の前に正門が見えてきていた。
校門の前では複数の人が落ち着かない様子で立っていて、よく見ればそれは生徒会の人たちと学年主任の先生が仁王立ちで生徒が登校するのを待ち構えていた。
今週は生徒指導週間となっていて、学校に入る前に服装と手荷物の検査を行っている。その様子は、テレビでたまに流れる空港の検問と非常によく似ていて、門の奥の校舎が今だけは異国の建造物のようだった。
一人ずつ確認をしているので、当然ながらその矛先は私たちにも向けられる。
「それでは、鞄の中身をみせてください」
順番に呼び止められていくので、淡々とした口調に抗うことなく鞄を大きく開いてみせる。その中を覗き込み、目で隅々まで確認していくが不審な物は見当たらないようで、次は制服に視線を向けてくる。逃れようのない鋭い目つきに硬直してしまうが、これも特に何も問われることはなく書記の女の子が用紙に記入を始める。
「以上で終わりです。ご協力ありがとうございました」
その子はそれだけ告げて会釈をし、次の生徒へと移っていく。ほっとしてから正門を抜ければ、先に終わっていたコハルが待っていてくれていた。
「朝から大変だね」
「見つかるんじゃないかってヒヤヒヤした……」
そう言いながら、ほっと胸を撫で下ろして自慢げに自分の鞄をぽんと叩く。
その内側のポケットには、親のお下がりではなく新しく自分で買ったデジカメをこっそり忍ばせていた。
私達の学校はこの近郊では基本的な水準が高く、常に生徒の状態を把握しようとするため監視の目は厳しいので、少しでも外れるようなことがあればさっきの人たちからお叱りを受けることになる。
それは私の趣味も例外ではなく、過去にカメラを隠して持ってきては没収されるのを何度か繰り返したことがあった。カメラが見つかる度に周りからは置いてこいと注意されてしまうが、それでも持ってきてしまうのは今見える景色を撮り逃したくないのかもしれない。
しかし、個人の熱意とかで持ち物に目を瞑ってくれるほど先生たちは優しくはなくて、少しでも外れようとすると罰せられてしまう。
そのはずなのだけど……。
「……相変わらず、コハルの髪にはお咎めなしなんだよね」
腰にまで伸びる日本人にしては珍しい髪の色を一瞥してから、ぽつりと呟く。
「どうかしたの?」
「何でもないよ。そろそろ行こうか」
私の独り言が聞こえてしまったのか、不思議そうに私の顔色を窺ってくる。その目線を誤魔化そうと、何事もなかったように教室へと歩き始めていた。
その様子にますます疑問符を浮かべ小首を傾げているが、行き交う生徒の焦る足音に時間に余裕がないことを知らされ、急いで私の後ろを追ってきていた。
朝から待ち構えるほどに生徒の身だしなみや普段の行動に厳しく目を光らせている進学校で有名な場所なのだけれど、何故かコハルの髪に関しては何故か誰も咎めている姿を見たことがない。
彼女の髪はひいおばあちゃんから遺伝したものらしく、前に写真を見せてもらった時は顔から身長まで見事にそっくりで、一瞬本人なのかと目を疑ったのを今でも覚えている。
学校側がその事実を知っているかは知らないけど、入学して以降誰からも呼び止められず本人も特に手続きのようなものをしたとも言っていないので、それを不思議に思う人の声も少なからず耳にしていた。
ただ、私としては彼女の髪は初めて会った時から変わらずに綺麗で、このままでいてくれるのならそれが一番嬉しいことだった。
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