第2話『黄昏』
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花が咲き誇り色鮮やかな姿をみせてくれた後には、陽の光を浴びた葉が生い茂り爽やかな季節がやってくる。
今年は例年よりも気温が高いおかげで早くその光景を見ることができて、見上げた先に空もより一層その青さを色濃くしていた。
そんな快晴な朝の下では、降り注ぐ太陽の力とアスファルトの照り返す熱で肌を焼きながら歩く人たちが、この暑さに項垂れながらそれぞれの目的地へと思い足を進めていた。
彼らのことを坂の上から眺めてから、私も地を蹴るように一歩を踏み出す。
元々夏の日差しには慣れていることもあって、暑さなんてものともせずに通い慣れた通学路を軽快に駆け上がり、その途中でひっそりと構えている神社の鳥居を躊躇なく潜っていく。
そこから境内へと伸びる石段を一段飛ばしで跳ね上がっていき、登る視界と共に最上段から漏れる光を目指していくと、二体の狛犬が堂々とした姿で私を出迎えてくれていた。
中では山からの風が吹き込み、ひんやりとした空気が暖まった身体を冷ましながら頬をそっと撫でていく。
その季節風を身体に取り込むように一呼吸おいて、入り口の石像の隣に並んで佇む。
それからタイミングよく聞こえてくる足音が、心地良い短いリズムを刻みながらこちらへと近づいていた。
境内の奥へ顔を向ければ、夏用の水色の制服に鞄を提げ特徴的な髪を揺らしている少女、コハルが私の下へとやって来ていた。
「おはよう、ミノリ」
「おはよ、コハル」
お互い挨拶を交わして、優しく微笑みあう。
風に煽られて擦れる木の葉が、真夏の朝に爽やかな音を奏でていた。
「それじゃあ、行こう」
その言葉を合図に手を差し出され、応じるように右手を重ねる。
すぐ隣にコハルの顔が近づき、しっかりと繋がれた手に安心感を覚えたまま階段を降りはじめ、そのままの足取りで学校を目指していた。
出会ったあの日から、気づけば三年の月日が流れていた。
その歳月の間、少しずつ言葉を交わしたり一緒に行動したりしてお互いの距離を縮めいき、今ではよく理解し合える親友のような関係になっていた。
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