第14話
帰りの道のりは、3人とも普段より口数が少なかった。
遠くまで出向いて、疲れたせいではない。
ステージで輝くルナの姿に圧倒されて、どこか放心状態になってしまっているのだ。
「ルナ、本当に綺麗だった…」
「私もびっくりした…アイドルの子目当てだったのに、一番印象に残ってるのルナだよ」
「あれが、世界でも通用するってことなんだろうね」
国を出て、海外でも受け入れられるほどの美貌。
努力だけではなく、天性の才能を彼女は持ち合わせているのだ。
「でも、ルナが着てた服、全部暗い色ばっかりだったね…顔は可愛い系なんだから、ピンク色とか黄色とか着させてあげればいいのに」
「そりゃそうでしょ」
リリ奈に向かって、二人して視線を移す。
モデルとしてのルナの立ち位置を、彼女はしっかりと理解しているようだった。
「ルナは、シックで独特な世界観が人気なんだよ。唯一無二のオーラがあるから、ああいうダークなイメージの方が合うんでしょ」
その言葉が、酷くしっくりくる。
彼女だけが作り出せる世界観。
他者を寄せ付けないオーラは、確かに落ち着いた色合いの方が合っているのかもしれない。
それが、世間一般的に見たルナで、決して間違ってはいない。
だけど、それは咲が知っているルナとは違うのだ。
帰宅する頃にはすっかり日も落ちており、今日の晩御飯は簡単なカレーを作る。
ルーを使ったお手軽なもので、野菜を切ってお肉と一緒に煮込んでしまえばあっという間に完成するのだ。
グツグツと沸るカレーをかき混ぜていれば、玄関から「ただいま」という声が聞こえくる。
一度火を止めてからエプロン姿で出迎えれば、ニコニコとどこか楽しそうに笑っている彼女の姿があった。
「ただいま。あ、エプロンしてる!」
「はいはい、お疲れ様」
「咲、来てくれてたね?可愛いとこあるじゃん」
「別に…」
「どうだった?私カッコ良かった?」
ねえねえ、と聞いてくる姿はまさしく子供そのもので。
この子も、ひと月ほど前は中学生だったことを思い出させる。
ステージにいるルナとは正反対の雰囲気を纏っているが、化粧を落とさずに来たのか、いつもより派手な顔をしていた。
ただでさえ目鼻立ちがはっきりしているせいで、綺麗すぎる印象を受ける。
だけど、中身は咲がよく知っている、少し世間知らずで自由人なルナなのだ。
「うん、こっちの方がいいよ」
脈絡のない言葉に、ルナは不思議そうにぽかんとしている。
クールな姿も良いけれど、年相応の表情でニコニコと笑っている姿が、一番似合っているように見えるのだ。
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