Lesson1: 彼女たちのアイドルデビュー
Green eyes monsters
甘いコーヒーを飲んでも太らない事情
入学式終了後、俺と
モノレールから見える桜は、少しだけ散り始めていた。車窓から紛れ込んでくるその香りは、あの日とは違う生暖かい春の息吹を俺に届けてくれたんだ。
「はぁ〜。やっぱし悠斗の淹れてくれるコーヒーはいつも美味しいよ」
愛花は喫茶店へやってきても相変わらずのどかな顔でコーヒーを飲んでいる。ここまで平和そうな顔をしていたら、その顔に明日まで消えない油性ペンで落書きしたくなるような衝動が湧いてくるくらいだ。
「お前さっきも大船の喫茶店でコーヒー飲んでただろ。そんなに飲んでると本当に太るぞ」
「いいじゃん別に。だって悠斗のコーヒー、美味しいんだし」
「とても明日デビューライブを控えたアイドル様のセリフに聞こえないのは、俺の耳がおかしいからかな」
「そんなことないって。てか悠斗、コーヒーダイエットって知らないの?」
「ああ一応これでも喫茶店のマスターだ。それくらいは知ってるさ」
「だったら今ここでコーヒーを何杯飲んだって問題ないでしょ?」
「ああ問題はないかもな。もしそのコーヒーがブラックであればの話だが」
「……え、嘘!?? ミルク入りじゃダメなの??」
「お前のコーヒーにはミルクどころか砂糖までしっかり入ってるじゃね〜か!」
まぁ愛花が太らない程度に適量の砂糖にしてあるんだけどな。昨晩もドラマの撮影で遅かったみたいだし、入学式だというのに朝から眠そうだったことも知っている。そんな身体にも優しいコーヒーを淹れたつもりだ。美味しいと感じるのは俺の力量とかじゃなくて、単に愛花の身体がそれを欲していただけだろう。
ちなみに今日もこの後、御咲と再合流して、明日のデビューライブに向け最後のダンスレッスンを受けに行くらしい。その時間は夜らしいので、こうして一旦帰宅して着替えだけはしっかりしていくようだ。だけど今日から高校生だと言うのにその新しい制服はまだどこか地に着かず、愛花の幼さが残る顔立ちからしても中学生と見間違われてもおかしくなさそうだ。そんな彼女が明日、アイドルグループ『
愛花の家はこの喫茶店から徒歩三分ほどの場所にある。つまりは小さなガキの頃からその顔を見てきた幼馴染と言ってよい。だから余計にアイドルデビューという言葉がしっくりと来なかった。
ま、考えてみればそれもそのはずだよな……。その似合わない伊達眼鏡のせいで、アイドルと呼ばれる存在とはイメージが遠くかけ離れてしまっているわけだから。
てか、今日も誰にも気づかれなかったのに、伊達眼鏡なんて本当に必要なのか?
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