第6話 過去編 ~壊れた人形の作り方~ (性的描写あり。注意!)



 グレード・マリーンズ、ブロック-B。Bデッキ、メインホール。


 貴族や富豪、国のトップなど、支配階級の人間しか立ち入りできないAデッキの階下であるBデッキ、その中心部に位置するメインホールは、一等船室を利用する人々と、医者や聖職者、政府要人などに割り当てられた二等船室を利用する人々だけが参加できるレセプションや舞踏会などを開くための、多目的の大広間だった。


 しかし、エルステイン制圧の実行犯たちによって航行される現在、そこは豪華な内装が散りばめられただけの何も無い空間になっている。


 そして、エルヴィスの案内でそこに連れていかれたヴェラは、左右の壁に固定された鎖で手足を縛られ、広い部屋の中心で拘束されていた。


 肌に食い込むほどにキツく、特に上半身を何重にも鎖で巻かれたことにより、自分の足で立たずとも直立する形になっているヴェラは、まるで十字架を背負うようなポーズで項垂れている。

 そうして彼女の自由を奪ったエルヴィスは、自身が手掛けた作品を観察するかのように周囲を歩き始める。鎖に縛られたことで鮮明になる、発育した胸や腰周りのボディライン。それを舐めるように見回し、やがてヴェラの背後に差し掛かった彼は、唐突に動きを早めてその豊満な体に抱き着いた。

 

 無抵抗なヴェラの白い首筋に舌を這わせつつ、エルヴィスは羽交い絞めのように両手を彼女の脇の下に潜り込ませ、黒いローブの上から乱暴に乳房を揉みしだく。

 

 「本当に……はぁ、3年って月日は恐ろしいなぁ? 久しぶりに見た時は一瞬、誰だか分からなかったくらいだぜ。オレ好みの良い女に成長しやがった」

 「…………」

 「なあ? 3年前は背も胸も貧相で、男か女か分からないくらいのガキだったのによぉ。へへっ……ずいぶんと大切に育ててもらったようだな? あの村の連中によぉ?」

 「…………」

 

 鼻息荒く語るエルヴィスに、ヴェラが答えることはない。ナメクジのように這いずる舌の不快感や、乳房を玩具おもちゃのようにもてあそばれる痛みを感じながらも、表情の一つも変えることは無かった。生気の無い瞳にフローリングの床を映しながら、彼がぶつける欲望の全てを受け入れていた。

 

 やがて、興奮を強めていくエルヴィスはヴェラが着用している黒いローブを引き裂き、さらにその下に着込んだメイド服をブラごと強引に剝ぎ取った。その結果、ヴェラはパンティと鎖の間にわずかに残った襤褸ぼろ切れだけの、ほとんど全裸の状態になってしまう。

 それから再びヴェラに後ろから抱き着いたエルヴィスは、プルンと外に零れる乳房を直接、鷲掴わしづかみにし、さらにピンク色の頭頂部を強く抓んだ。

 

 「……っ」

 

 これにはさすがに、表情を少しだけ歪めるヴェラ。その横顔を嗜虐的な笑顔で眺め、エルヴィスは両手に伝わる柔らかい重みを堪能しながら言う。

 

 「一度、お前をこうして抱いてみたいと思ってたんだ。村でお前を回収した時は正直、あのまま連れ帰ってオレ専用の玩具にしてやろうと思ったくらいだ。ベンジャミンさえいなけりゃなぁ……まあ、さすがに計画があるからどっちにしろ無理だったかな」

 「…………」

 「……さて、それじゃあそろそろこっちの具合も確かめてみようか」

 

 そう言って、エルヴィスは右手を胸から離し、ゆっくりと下ろしていく。腹部、鼠径部そけいぶを辿り、股の下に手を潜り込ませ、中指をパンティの生地に沿って撫でた。何度も何度も、押し込むように往復させ、さらにふちから内部へと指を侵入させると、その先の割れ目の中に浅く突っ込んだ。

 

 「……ん、ぁ……、んん……っ」

 

 そうして前後の運動を再開させると、ヴェラの太ももが閉じ、口からは切ない吐息が洩れ始める。しかし、それは決して快楽によるものじゃない。無理やりこじ開けられる痛みから来る悲鳴だ。

 それでも、生理的反応の賜物たまものか、やがてクチュクチュと粘っこい水音が聞こえてくるようになる。すると、エルヴィスは手を戻し、ヴェラから離れてズボンのチャックを開け、自身のいきり立つそれを取り出した。

 

 そして再度、ヴェラに覆い被さろうとした、その時――

 


 「何をしている」



 外野から冷たい声が放り込まれ、エルヴィスは「ちっ」と舌打ちを吐き捨てた。振り返ると、メインホールの入り口に立つベンジャミンの姿が。

 

 「んだよー、もう来たのかよー」

 「これから大事な調整をするというのに、お前は何を考えている? 頼んだのは33号の拘束まで。凌辱りょうじょくしろと言った覚えは無いぞ」

 「いーじゃねえか、これも検査の一環いっかんってことで。もうちょっとで終わるからさ。少し待っててくれよ。あと十分でいいからさ」

 「ダメだ。その女は我々の切り札。余計な刺激を加えて調整に支障が出ることなどあってはならない。分かったら早くその粗末なものを仕舞ってそこから離れろ!」

 「……ちっ。あー、はいはい。分かりましたよ、クソッタレが」

 

 もう一度、大きく舌打ちしたエルヴィスは、それをズボンに仕舞い直しつつヴェラから距離を開けていった。

 

 そんな彼に軽蔑の眼差しを向けながら歩き出すベンジャミンは、ヴェラの前で足を止める。そして、ほぼ全裸のヴェラを見据え、おもむろに両手を差し出した。

 

 「――さあ、目覚めよ。我が命に導かれし道化どうけ執行人ヘンカドーレよ!」

 

 叫び、両手に魔力を込める。次の瞬間!

 

 「……、う、うああっ、あああああああああ!!!」


 それに呼応するかのようにヴェラの全身から莫大な魔力が放出され、荒々しい風がホールに吹き荒れる。間も無く、室内に充満する魔力はヴェラの頭上で凝縮し、頭部に大量の目玉を備える六本腕の怪物――ヘンカドーレと変貌を果たした。

 

 「美しい……」

 

 ユニークスキル、盲目もうもくたる断罪者だんざいしゃを保有するヴェラが本気で戦う時に生み出す、魔力によって構成された自立型の生物。

 本来はヴェラでしか制御できない能力であるはずのそれを、自身の魔力で引きずり出すことに成功したベンジャミンは、その地獄の番人と言っても差し支えない禍々まがまがしい姿形すがたかたちを、恍惚こうこつな目で見上げていた。

 

 「久しぶりだな、この化けモンと会うのも。ったく、いつ見てもおぞましい姿だぜ」

 

 しかし、身形みなりを整えて戻ってきたエルヴィスは、お楽しみを邪魔されたこともあってか、刺々しい口調で悪態あくたいをついた。すると、ベンジャミンは途端にまゆを曇らせ、エルヴィスをギロリと睨みつける。

 

 「ふん……お前のような感性の欠片も無いような人間には分かるまい。この作品も素晴らしさが……この生命力に溢れ、攻撃性と無垢むく性の二つをむくせ持つ、原始的で野性味のある人間の根本的な欲求。本能。その全てがこいつには含まれている。これはもう、単なる戦闘用の兵器ではない。芸術の極致そのものだ。この作品の美しさを是非とも全世界の人間たちと共有したいものだ。私がエルステインの王になった時、私の傍に仕えるこのヘンカドーレの姿を……もうすぐ、全ての人間たちが目撃するのだ……!」

 

 唇の無い口から生臭い吐息を漏らすヘンカドーレを見上げ、ベンジャミンは静かな空間の中に高笑いを響かせる。

 

 そんな狂気としか思えない光景を目の当たりにするエルヴィスは、少しして苦笑を噛み締めた。

 

 「そうだな……そりゃあ楽しいに決まってるわな。あの日から思い描いていた未来を、もう少しで実現できるところまで来たんだからよ」

 

 ベンジャミンに聞こえないくらいの声量で呟き、エルヴィスは天井を見上げる。そこに、りし日の思い出を浮かべながら――




 ◇◆◇




 「『スキル改造手術』?」

 

 エルステイン制圧事件からさかのぼること7年前、とある地下研究施設にて。

 

 エルヴィスは、白衣を着たベンジャミンと並んで、光る花に照らされる洞窟の中を歩いていた。

 

 「そう。それが後日、お前があの御方おかたに施される手術だ。それが無事に成功すれば、お前は人間を遥かに超越した力を手に入れることができる。それこそ、ユニークスキルなど目では無いほどのな」

 「……で? 失敗した場合は?」

 「いろいろと結果は異なるが……まあ、人間性を残したまま戻ってくる者は見たことがないな。それ以前に戻ってくる者がほとんどいないが」

 「要するに、死ぬか廃人になるか、ってことか。まあ、それほどの力を得るのにノーリクスってわけがないわな。それは最初から覚悟していたことだ」


 そう言いながらも「はぁ」と嘆息し、エルヴィスはすぐにベンジャミンに顔を戻す。


 「ってかよぉ、そもそもスキルを改造するってどういうことなんだ? 改造できるモンなのか? スキルって」

 「できる。そもそも、スキルというのは元来、人が天性として持っていたものではない。外的要因によって後天的に獲得したものなのだ」

 「外的要因?」

 

 「そうだ」と頷くベンジャミン。


 「事の発端は、あの御方が始めた星回り現象の研究だ。様々な要素の巡り合わせにより、魔法の威力を何十倍もの規模に増幅させる星回り現象。しかし、その現象はただ魔法の威力を高めるだけに留まらず、魔法学の範疇はんちゅうや物理的法則を超えた神懸かり的な現象をも引き起こすことができる、とされている。この星回り現象を操ることができれば、どんな願いも叶えることができるのではないか? そのような仮説から、この研究は始まった」

 「ふ~ん……星回り現象、か。話には聞いたことがあるけど……でも、そんなにすごい力だったとは知らなかったぜ」

 「幸い、あの御方には無限に等しい時間があった。長年に渡って研究を重ね、何万回にも及ぶ試行錯誤の果てに、星回り現象が起こり得る環境、時間、魔力量などを調べ上げた。その法則を用いて全属性の魔法を星回り現象によって拡大化させ、そのエネルギーを保存。それらを重ね合わせ、全ての魔法の中に含まれる共通項を見つけ出して抽出ちゅうしゅつし、さらにそこから属性の不純物を取り除く作業に数十年を費やし、ついに星回り現象の核となる部分の具象化に成功した」

 「……? えっと……つまり、どういうことだ?」

 「星回り現象を物質として確保することができた、ということだ。まあ、物質と言っても小さな光の玉のようなものだったらしいが……それでも、抽象的な存在を目に見える形として成立させたのは、あの御方しか成し得ない快挙に違いない。この光の玉を『星のしずく』という」


 会話をしながら歩き、やがてエルヴィスたちは洞窟の奥にある大きな鉄製のドアに行き着いた。その横にある魔道式操作パネルを扱いながら、ベンジャミンは話を続けた。


 「星の雫にはあらゆる可能性が存在しているらしい。スキルというのは、この星の雫の力によって出来たもので、それを扱うあの御方ならば改造も可能、ということだ。まあ、肝心の星の雫自体はすでに無くなってしまったようだが……この施設は、星回り現象について研究していた時に使っていた場所だ」


 慣れた指使いでパネルをタップし、ベンジャミンが最後にボタンを押すと、ガチャン、という大きな音が洞窟内に響き、鉄製のドアがひとりでに横にスライドしていった。

 

 「うおおおお……!」

 

 そうして開かれたドアの向こうにあったのは、人間や魔物らしき生物を収容した円柱水槽に、動物を閉じ込める大量の檻、異形いぎょうと成り果てた死体の標本を飾るショーウィンドウなど。そんな設備の中を、ベンジャミンと同じく白衣を着た人間たちが忙しなく行き交う広大な研究施設だった。

 

 「はぁー。まさか、あの大聖堂の地下にこんな悪趣味な巨大施設が隠されていたなんてなぁ」

 「この場所はいいぞぉ。何もしなくても救いようのない子どもや身寄りの無い大人がやってくるからな。実に研究がはかどる」

 「ふーん。で? お前専用の研究場所は?」

 「こっちだ」

 

 手招きするベンジャミンの背中を追い、エルヴィスは研究員で溢れるタイル張りの通路を歩き出した。

 

 それからしばらく施設内を歩き、エルヴィスたちは各設備から離れた一番奥の部屋に辿り着く。ベンジャミンは首に掛けているカードを取っ手の上に位置する差込口に挿入し、開錠したドアを開いてエルヴィスを中へとうながした。

 そこは、巨大な円柱水槽が鎮座している個人用の研究室。鼻を突くような薬品の臭いに耐えながら水槽に近づくと、淡い緑色の水の向こうに、素っ裸の10歳くらいの子どもの姿がぼんやりと浮かぶ。

 

 「これは……なんなんだ?」

 

 それを指差しながらエルヴィスが訊ねると、ベンジャミンは水槽のガラスに手を添えて、不気味な笑顔と共に言い放った。



 「これが私の現在の研究対象。被験体-『0033ゼロゼロサンサン』。通称、33号だ」





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