第11話 無限の戦場
「鵺姫からのショックウェーブ! 四%の戦力が壊滅しました!」
旗艦『レクヨーハルテ』からの報告はGRITSにも届いていた。その言葉は日本語に翻訳されている。
空間を伝わって、全宇宙全方位へ放たれた次元烈波は、数の上で圧倒的なはずの全並行宇宙の銀河連盟のUFOの群に熾烈なダメージを与えた。
宇宙は広大だ。
それにも増して、全並行宇宙は膨大なまでに多大だ。
だが、一匹の蝶に宇宙中の雀蜂が猛攻をかけている様な現状で、鵺姫は戦場を容易にもちこたえている風に見えた。
暗黒の宇宙にひっきりなしに爆発の光点が明滅している。それは星以上の数があると見えた。
超光速機動。銀河連盟のUFO群全機は、量子能力で自身の存在確率を操作し、宇宙に遍く存在するかの如く位置情報を曖昧にすると、次の瞬間、一斉に鵺姫の近辺へと存在確率を収束させた。確率的に最もエントロピ増大を最小に出来る様に次元を渡ったのだ。
これ以上の接近は出来ないという至近距離まで瞬間移動したUFOの雲は、即座に攻撃と防衛を開始した。
ハルマゲドン開戦。
鵺姫にエネルギーを吸われ、暗化して沈黙した恒星が数多に浮かぶ宇宙の中心で、まるで坩堝の中で絶対に溶けあわない化合物が煮えたぎり始めたが如き、無数対無数の戦いが始まった。
超能力者達が機器によって増幅された念動力で鵺姫に直接攻撃をかけている間にも、黒い穴はMIBや悪夢の様な怪物の他、科学的な外見の機械群を吐き出し、迎え撃っている。数多のUFOは超能力による攻撃の他、レーザーや誘導弾、荷電粒子砲、流動性プラズマ放射、電磁バリア、時間凍結装甲、逆量子状態分身など、嗚呼琉の知らないレベルの科学兵器も駆使して戦うが、数の上で圧倒的優位にあるはずの銀河連盟が事実的劣勢にあると感じられた。
どの場所から全方位を見ても、光線と爆発光が瞬く戦場だった。
「MIBがあんな姿になるなんて!」
スキャナ付きのヘルメットかぶった嗚呼琉は、GRITSの操縦席でまるで触手の生えた蜘蛛の様な痩せた姿になったMIBが放つエネルギー吸収光線をかわしながら叫んだ。
この宇宙域でのMIBはまるで都市伝説のスレンダーマンの如き姿をしている。無数のそれが銀色の光線を放つ。
周囲で幾十もの銀色の光線に狙い撃たれた生体UFOが色を失って沈黙する。あれらは死んだのだろう。
GRITS内のディスプレイでZOC占有域を表示している画面が支配色を失う。それらを占めていたUFOが集団で撃墜されたのだ。
「ZOCなんてウォー・シミュレーションゲームの用語だと思ってたけど……!」
慈海が今も驚いた様な声を出す。彼女がこのゲーム用語を知っていたのは嗚呼琉にとっては小さな驚きだ。
ゾック。ゾーン・オブ・コントロール。主にウォー・ゲームで使われる概念がここでは軍事用語として採用されていた。自機の周囲で敵の突破を防ぐ、戦術的支配域。制圧空間。一騎のZOCはひとつの泡の様に自機を囲むが、それが無数につながって、巨大な粘体の如く全体図が描写される。
この宇宙戦争の概要はリアルタイムで蠢くカラフルな雲海の様な3Dグラフィックで投影されていた。寒色系の鵺姫と暖色系の銀河連盟の二色系の雲海の重なりが、絡み合って互いの支配域を主張している。粘り気のある液流の複雑な渦。この戦争に参加している敵味方各騎の攻撃距離や威力、有効範囲など戦闘影響力がZOCとしてグラフィックで描画され、まるで二色のスライムが絡み合う様に流動的に互いの主張範囲の、いわば陣取り合戦を行っているのだった。撃墜されたものはこのZOC図から消滅し、敵のZOCが拡大する。ZOC周辺が重なり合った雲の周辺の形はまるで過激で複雑な化学反応を行っている様にアクティブだ。
凄まじい情報量。銀河連盟の全UFOがリンクして戦域全体図をリアルタイムで作図し、共有するが、三体間問題よりはるかに複雑な相互影響演算をメイン・ディスプレイに表示している。
GRITSの情報把握には旗艦レクヨーハルテとのリンクが欠かせない。レクヨーハルテは多数の電子戦闘艦とつながっていた。刻一刻と情報総体が変化する膨大な情報量。
広域の戦場の全体図は、このZOCの主張範囲でリアルタイムで有利不利が解る様になっていた。
鵺姫の周囲は寒色系のZOCが濃い。縁取る泡が一進一退の攻防をしているが、敵中心に辿りつくには敵の層が濃すぎた。
今、GRITSはこのZOCの一端を受け持つ一機として、宇宙空間を機動戦闘していた。パルス・レーザーで機械状の敵機を一機撃墜する。するとディスプレイで味方のZOCが一つの泡分、わずかに広がった。
周囲は蝗害の如き敵だらけ。そしてそれと交戦する友軍機の群。飛び交う光とデブリ。
GRITSのパルス・レーザーだけでは埒が明かない。
嗚呼琉は思念を集中する。パイロキネシス。
視界にある内のMIBの群がまるで火の粉が散った様に次次に灼熱で溶け、雲が燃えたかの様にGRITSのZOCが一気に広がった。
銀河連盟のUFOは木の葉落とし、急角度ジグザグ軌道、急停止急発進などUFO特有の軌道で敵を翻弄するが、なかなかに戦場で優位を握れない。
雲海の分子を構成する銀河連盟の様様なタイプのUFOが同じく多様な姿の怪物を駆逐していくが、敵は反撃でこちらを多数撃墜していく。
銀河連盟のUFOは果敢に戦う。
プラズマ流動放射が、火炎放射の一万倍の規模の電磁誘導された熱量の規模と放射量の白熱放射で一度に何千もの魔物を焼く。
逆量子状態分身。敵の攻撃がヒットする寸前、存在確率を曖昧にし、機体が何重にぶれたかの様に渦巻く分身をする。攻撃がヒットした分身はその瞬間に未確定状態が決定し、攻撃の空振りに終わる。この分身状態の機体を叩くには最終的に分身を全て倒し、残り一つに本体を確定しないといけない。尤も無敵の分身は一瞬だけであり、こちらから攻撃出来ないが。
戦闘が始まって、三十分ほど経っている。
全並行宇宙から銀河連盟は攻めるが、相手は次次と穴から湧いてくる。
戦力の削り合いは銀河連盟の不利だという現実だ。
せめて一機でも穴に辿りつければ、と嗚呼琉が思った時、鵺姫は全方位のショック・ウェーブを放つ。
今回はそれで味方の全戦力の十七%が壊滅した。
ウーキー・ニーキーは時間凍結装甲でショック・ウェーブから身を護る。あらゆるストレスから内部を護るこの防御装置はエネルギーの急速消費と、外部情報収集と連絡が遮断されるという弱点があり、長時間、維持出来なかった。既に維持限界を越えてウーキー・ニーキーは時間凍結装甲を解除した。そこを魔物が襲い掛かる。
一つの巨大星雲規模の戦場。
地球製のUFOはもう半数近くが破壊されている。
このままでは銀河連盟側が敗北しそうだ。もう全ての意味で後がない戦いに。
「消耗が激しい前陣と損傷が少ない中衛、後衛を入れ替えた方がいいな。……いや、それでも一時間経たない内に押しきられるか……」
GRITSの小ディスプレイの一つで、トレロ・カモミロが状況を分析する。
それよりも嗚呼琉の脆弱な心身が、狭いコックピット内の長時間のストレスに悲鳴を挙げてた。
「大丈夫、嗚呼琉」
サイドシートにいる慈海が声をかける。
嗚呼琉は彼女の表情を見つめ、それを安定剤として沈静した。
「慈海」嗚呼琉はテレキネシスで操るこのUFOをスレンダーマンからの射撃から回避させて、パルス・レーザーの安全装置を解除する。「僕が君の夢の登場人物だとしても愛してくれるかい」
「そんなもの、愛の障害になんかならないわ」慈海の台詞と共にスレンダーマンの編隊がレーザーの一閃で焼き尽くされる。
「恋はいい」トレロ・カモミロの上半身CGが占有しているディスプレイ内で呟く。「愛は真に必要なものだ。商業利用で陳腐化されたりもしたが、生きているものには愛が必要だというのは真実だ」
この戦いの最前線からの視覚映像が旗艦とのリンクで中継されてくる。
間近で見る穴、から次次と新しい敵戦力が補充されてくる。怒れる巣から湧いてくる毒虫達はこの銀河連盟の参加者達が抱いている恐怖や敵対心を具現化させた物であるはずだ。
「もし、もしもだ」嗚呼琉はふと気づいた。「憎みや敵対心を持って挑む事があれらの怪物を生み出すなら。それ以外の感情を持ってあの穴に向かえばどうなるのだろう」
「フムン」トレロ・カモミロが唸った。「撃てば撃ち返してくる。ならば、愛をもって接すれば、そこから生み出されるのは何だろうな」
「終末の化身に慈愛を抱くの」と慈海。「そんな事が出来るのかしら」
「無理だと思えてもやった方がいい」言い切る、トレロ・カモミロ。
「そこにこの戦を終結させる鍵があるかもしれないぞ」今、嗚呼琉の心には決意があった。「慈海。もしかしたら僕は君の見ている夢の登場人物かもしれない。でも、君は僕の見ている夢の登場人物だという確信があるんだ。この宇宙の全ての生物がそれぞれ主観的に見ている夢の集合がこの宇宙の実態かもしれないんだ。夢か、現実か、そんな事はどうでもいい。僕は君が好きだ、慈海。この宇宙全てと引き換えにしてもいいくらい、好きだ。でも、この宇宙を投げだしたら君はいなくなる。僕がこの宇宙を守るのは、君を失いたくないからだ」
「私もあなたが好きよ、嗚呼琉。私の全てを投げ出してもいい」
「もし、この宇宙を、この夢を、あの鵺姫を書きかえる事が出来るなら、僕達は愛という心をもって、彼女に接するべきなんじゃないか」
「嗚呼琉」と慈海。「あなたの言葉は素敵よ」
「世界を変えたければ、まず鏡の中の自分から変えるんだ」とトレロ・カモミロ。このポップスターが生前から歌っていたフレーズだ。
愛か。言葉にすれば陳腐になるそれを武器にするとは結構、無謀な事だ、と嗚呼琉は思う。
もう一度、横に座る慈海の顔を見た。
嗚呼琉の決意は固まった。
自分達が鵺姫を愛するのだ。
愛こそが最後の武器だ。
しかし、このGRITSが鵺姫である穴の縁にさえ辿りくのとても難しいだろう。
その時。
アポカリプティック・サウンド。
音声の伝導媒質のないこの宇宙の戦場で、雄大な管楽器の音が荘厳に響き渡った。それはUFO全機のコックピットのスピーカーからも鳴り渡り、機体を震わせた。
深遠なる宇宙の彼方から響き渡る遥かな轟き。
この戦場に新たな二大勢力が現れた。
数は膨大だった。
完全な球体の白い光であるG*O*Dに導かれ、白い馬に乗った神軍がまるで巨大な彗星の様に白光の尾をひき、流星の塊の如く、怒涛となりて広大な戦場に突撃した。
銀色の戦鎧に身を包んだ戦闘天使達が長槍や大弓を構えて、大翼を開いての神速の突撃を敢行して戦場へ飛び込んだ。
それに遅れまいと飛来する無数の色色な星星の宗教教祖達とその信徒の群。
ヴァルハラでこの最終戦争に備えて鍛錬をしていた死せる北欧の戦士達とそれにつきそいて刃を閃かせる、盾と剣のバルキリー。
リンボより蘇った者達が戦装束で戦馬を駆る。
その左で六対の翼持つ白い光である堕天使S*A*T*A*Nに率いられた血の如き赤い馬に乗った魔軍が、同じ様に巨大な赤い彗星になり、人の魂を連想させる流星群となり、大洪水の様に戦場へ突入する。
七十二の魔貴族に率いられた悪魔達が各各の魔界武具を携えて竜麟の如き整列で突撃する。
地獄の獄徒として身を責められていた邪悪の教祖達が尚従う信徒を連れ、責め鍛えられた肉体を持って雷撃の如く戦場へ飛び込んだ。
修羅界で終わらぬ戦いを鍛錬とした修羅の戦士が己の得意な武器をとり、鋭い眼光を備えて攻め手を構える。
あらゆる星星の異形の宗教存在が尽きぬ光の尾となって宇宙を渦巻いた。
目的を共にする聖と魔がここに参戦した。
凄まじい情報量だ。
大洪水の如く、戦場の中央の敵を洗い流す。
二つの紅白の大彗星は戦場の中央へ猛進し、銀河連盟のUFOに加担し、鵺姫の軍勢にそれぞれが挑戦した。
その二つの彗星の突撃が宇宙を削り、星雲の如き大戦場を割った。
UFOのディスプレイに映る大戦争のZOC図が二つに裂け、この戦争に参加していた者達が初めて見る、敵味方のクリアされた直線通廊を明らかにした。
戦場の端にいたGRITSにとって、それは願ってもない『穴』へ突進する為の直進の通廊だった。
「行くしかないな」
「行くしかないわね」
同時に呟いたトレロ・カモミロと慈海の言葉がが耳に届く前に、嗚呼琉はGRITSのサイドスティックを握り直した。
「これが恐らく最初で最後のチャンスだ!」
無段階加速。
GRITSは瞬間的に最大加速の最高速度に達し、光線の如く、鵺姫へとほぼ瞬間移動に等しい突撃を敢行した。
鵺姫から更に生まれようとしている魔機はパイロキネシスで焼く。穴の縁で金色の火の粉が瞬いた。
GRITSが穴の中へ飛び込んだ。
今、愛を武器にする。
憎しみでも敵対心でもなく今、心にある慈愛を武器とする。
嗚呼琉は慈海を想う。
慈海は嗚呼琉を愛する。
二人は平和を願う心を破滅の化身に向ける。
言葉で言うのは簡単だが、実際に思わなければ嘘になる。その偽善を鵺姫は見抜くだろう。
果たして、鵺姫に愛は届くのか。
慈海は嗚呼琉を見つめた。「嗚呼琉。今、あなたの真キルリアン場はこのコックピットを突き抜けて、GRITSそのものの翼の様に大きく羽ばたいているわ」
二人はただ超能力を使う様に心のイメージを、彼女の奥底へと向けた。
真インフルエンサー。その自分達が鵺姫に直接、飛び込むのだ。
そのはずだ。
自信が揺らいだのは次の瞬間だった。
「これが鵺姫!?」
慈海が叫ぶ。
歪な影である穴に飛び込んだGRITSはその暗黒の中で、更に黒い人の似姿を見た。
二つの腕に二つの脚。
この銀河連盟に所属している知生体と同じ姿の、シンメトリーの美しく黒い女神がそこにいた。
それは地球の平安時代の美姫だった。
身の丈、百数十メートル。
暗黒の貴族装束をまとって、着物の裾野から上半身へと視線が辿るのにつれてシルエットの闇は深くなり、頭へ至る頃にはかろうじて髪と顔の輪郭と金色に光る双瞳と朱唇が見えた。
畏怖すべき金眼が邪悪に微笑む。
彼女は実体だった。
それと同時に穴なのだ。立体ではなく、背景から切り取られた。
「これが破滅の……」
白い頬に血の色を浮かせて嗚呼琉は呟いた。
恐らく地球人の自分達が見ているから地球人の女性の姿なのだろう。例えばレプティリアンが見れば、その種族の姿になるのだ。
(よく、ここまで来れたものだ。真っ先に貴様を潰すべきだと思っていたのだがな。しかも敵対心でなく、愛情を向けてくるとはな。言葉だけではない。孤独な私に対する慈しみを)
GRITSの中に女性感覚の意識が響いた。
(四重螺旋の者よ。とうとう、ここまで辿り着いたお前達は何を願う。破滅か。私の死か。私との合体か。全ての宇宙の玉座か)
直接、声を出していないのに朱色の唇が動く。
(それとも健康な肉体か)
「宇宙の破滅を取り消してくれ、と言ったら」
コックピット内の嗚呼琉は、慈海とトレロ・カモミロの映像を意識しながら、メインディスプレイに映る彼女に答えた。
(それは出来ない。宇宙はやがて時を消費し尽くし、緩慢な死を迎える。私はそれを許さない。時のない永遠より、今すぐの宇宙の破滅。それが私の存在理由であり、存在意義)
「唯一である、お前は孤独だ」
嗚呼琉は鵺姫に対して一つの確かな感情を抱いていた。その美しさに対するひとめ惚れ。慈海がいるというのに。
これは試しだ。
宇宙の最後を賭けたチャレンジだ。
(極大エントロピーの化身である我は、宇宙のあらゆる可能性を食らって生きている様なものだ。我の生存か、お前達の存続か、ここに並び立つものはないのだ)
「僕はお前の存在を許す」嗚呼琉はコックピットを開放した。
ここは宇宙の真空ではない。宇宙に切り取られた影の中だ。
(お前如きがその言葉を。我はお前達の存在を許さない)
「慈海がいる、この宇宙を壊させるわけにはいかない。そして、お前の存在を許す。僕は並び立たせてみせる」
(その女の名が慈海か。しかし、その女は我に嫉妬しているぞ)
「何?」
(我に対するお前の恋情に気づいているのだ)
慈海は嗚呼琉のひとめ惚れに対して過敏に反応しているのか。
(揺るぎない愛を与えられないお前にそれでも愛を語る資格があるのか)
嗚呼琉は焦った。感情のままに語ると論理がこじれていく。
破滅の化身と自分達の宇宙、どちらも捨てるわけにはいかない。
論理的解決がない。
博愛がこんなに難しいとは。
それにはどうすればいい、と思い悩む嗚呼琉の脳裏に一つの光景が思い浮かんだ。
慈海とのいきなりのファーストキス。
永遠の孤独を解消する方法。
「それには……こうすればいいんだ!」
嗚呼琉はコックピットを開放したままのGRITSを急発進させた。
量子的移動。無段階加速。
穴である鵺姫へ飛び込んだのだ。
彼女は宇宙に空いた穴だ。
ならば、穴の向こう側があるはずだ。
恐怖をすれば恐怖しか生まない穴に、言葉だけの博愛を向ければどうなるのか。
偽善は果たして、実行しても偽善でいられるのか。
自分の心を信じる。
そして慈海を。トレロ・カモミロを。
鵺姫の表情は驚愕していた。
その身体である穴に飛び込む。
距離感が鵺姫の姿態を視野一杯にまで拡大し、後は奥へ進む自分達の縮小感覚を味わう。巨大すぎる。鵺姫は見える以上に巨大だった。
実数時間宇宙的実体である自分達が、虚数時間宇宙に飛び込む。
それは始まりであり、終わりだった。
アルファ・オメガ。
穴(ピット)は、門(ゲート)でもあった。
GRITSはまるで羊水を浴びながら胎外へ飛び出る様に、鵺姫を突き抜けた。
後方に鵺姫の悲鳴を聴いた様に思えた。
それはエクスタシーの声にも思えた。
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