其の二、耐える

 付き合ってからのあたしと彼はいつも一緒にいた。飽きるほど。


 いつでも、お互いにお互いのぬくもりを感じられる距離にいた。


 そんな幸せが、いつまでも続くって信じてた。


 でもね。


「ちょっと休憩入ります」


 と工場長代理兼経理係の母に小さく告げてから休憩室へと急ぐ。


 いくらかの切なさと共に涙を吹っ切って元気な声で電話に出る。


「もしもし……あたし」


 ぬくもりは決して感じられないけど、それでも話し声だけでも聞ければと微笑む。


 あたしが彼の夢を知ったのは高校二年生の夏。


 夢を叶える為に都会の大学へ進学したいと打ち明けられた。あたしは成績がいい方じゃなかったから彼が望む大学へ一緒に進学するのは絶望的だった。簡単に言えば、あたしの学力では彼が進学したいと願う大学の門も叩けないレベルだった。


 それでも、彼はこう言ってくれた。一緒に頑張れば大丈夫だと。


 当然だけど、初めの始めから救いがない戦い。


 それでも、いくら望み薄の戦いだろうとも彼と一丸になって頑張った。彼も親身になって勉強をみてくれた。あの時ほど、なにかを頑張った覚えはないと思えるほどに努力した。全ての持てるものを犠牲にして夢を叶えようと必死になった。


 流れ落ちる苦労など苦労だとも感じなかった。


 そして、


 その果て、担任の先生から、よく頑張ったな、これだったら大丈夫だと言われた。


 うん、そう、志望校である彼の目指す大学に行けると、お墨付きをもらったんだ。


 あたしは飛び上がって喜んだ。彼も、自分の事のように喜んだ。


 いや、むしろ当時のあたしと彼は一心同体だったから自分の事として喜んだんだ。


 これは、恥ずかしいから秘密にしているけど。


 その時、


 隠れて密かに泣いた。


 一人で。


 やったんだ。あたしは、やり遂げたんだ、と。


 そうして、勝ち目が薄かった戦いに勝利する寸前まできたんだ。


 でもね。


 そう、でもねなんだ。


 受験を直前に控えて、


 あたしが最後の追い込みをしていた時、万全の準備で受験に挑もうとした時にね。


 あたしの父親が、交通事故に遭ってしまった。


 ウチは父が経営する町工場で作る部品を大企業に納める事で成り立っていた。そして大黒柱の父が事故に遭って入院する事になってしまった。家計が切迫する。工場長を失った町工場も、もちろんピンチ。なんでよって思った。なんで? って……。


 なんで神様は、あたしに、こんなにも過酷な運命を与えるの? って天を恨んだ。


 そして、


 父を含め、たったの三人で回していた工場だったから二人になってしまって……。


 でも、苦しかったんだろうけど、それでもラインは動き続けた。


 懸命に工場は回った。


 母と、もう一人、通いの従業員さんの力でだ。


 あたしが彼と一緒の大学に行く為、頑張ったよう工場も必死で耐えてくれたんだ。

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