第33話 訓練②

 彼女、アラシャさんの実力は実際に戦わないでも分かる。いや、強制的に分かってしまう。

 そもそも、存在としての格が違いすぎるのだ。

 さらに、彼女から放たれるプレッシャーも強過ぎる。


「それでは、始めようか。第二関門はいかにスムーズにスキルを発動できるか、だ。そのためには実践あるのみ。お主の戦い方で良い。なんでも良いから私にかかってきなさい」


 正直、神相手にどのくらい通用するのかわからない。魔術はまず効かないと見て良いだろう。いや、でもあの魔術なら少しは通用するのでは……?


「作戦は考えたか?それなら早速始めようか」


「ち、ちょっと待ってください!もう少し時間をください!」


「良いだろう」


 しかし、あの魔術は反動がでか過ぎる……こういう実践形式の訓練では使わないほうがいいのだが……反動で言うなら、前まで使わないようにしてきたノヴァよりも大きいし。


 ノヴァは前にも使ったように、対攻撃用の魔術だ。まあ、攻撃のダメージを無いものにするというえげつない能力を持つ魔術だが、反動もその分大きい。だが、この魔術は攻撃に使うことはできない。あくまでも、自分が即死する攻撃に対して創ったものだ。前世では一度しか使わなかったが、最近使うようになってしまっている。となると、他にも創っているヤバい魔術の使用に慣れる必要があるのかもしれない。


 そう考えるのならば、ノヴァと対となるように創ったあの魔術、ブレイクを使うしか無い……あまり使いたくないが。


 この魔術は、ノヴァが盾、ブレイクが矛となるように創ったものだ。しかし、しっかりと矛盾は生じないようにしている。ノヴァを破れるのはブレイクのみだ。この魔術はただただ攻撃力に全振りした魔術である。

 故に反動もノヴァ以上となる。

 また、この魔術は炎魔術などのように放出するものだ。だから、この魔術が通った後は悲惨なものになる。


 使う覚悟は決まった。最初に一発放って、左腕を犠牲にする。その後はスキルの色彩弾カラーバレッドで攻めよう。絶対に彼女には


「準備ができました」


「それじゃあ、お主のタイミングで攻撃をしてこい」


 そう言われたので、まずは右手に炎、左手に風の魔術を出す。


「……ほう」


 そしてこの二つを合わせて、


火炎旋風ファイアトルネード!!」


 僕の手から出されたそれは砂埃を上げながら彼女に迫っていく。

 何も僕はこれでダメージを与えられるとは思っていない。

 これを目眩しにしつつ、移動してブレイクの準備をする。

 さらに並列思考という魔術を4つ展開し、その内3つをブレイクの処理に当てて処理速度を3倍に上げる。残る一つは別の魔術を展開する。闇属性の暗闇ダークネスだ。

 今回はとにかく彼女の視界を奪う。そうして攻めていく。


 しかし、思いもよらないことが起こった。


 彼女が腕を振るっただけで火炎旋風ファイアトルネードは消えてしまったのだ。だが、その前に移動等は済ませていたからよかったのだが。

 しかし、火災旋風ファイアトルネードが一瞬で消えるとなると、ブレイクでも怪しくなってくる。

 まあ、事は試しだ。早速やっていこう。


暗闇ダークネス!!」


「むっ……」


 彼女の視界を奪った。その間にさらに彼女の後ろに移動する。そして移動中に処理を終え、彼女の真後ろに着いた瞬間、僕は放った。


ブレイク!!」


 左手から出されたそれは、黒い靄だった。そしてそれは猛スピードで彼女に迫った。それが通った地面は黒く変色していて、深い闇の様だった。

 しかし、僕はこの後に起きた事に驚かざる負えなかった。


 確かに彼女にそれは当たった。しかし、彼女は振り向き様に腕を横一閃に振った。手刀を振るった。そしてそれは一瞬で消え去った。凄まじい風圧がその靄を吹き飛ばしたのだ。やはり、彼女にはダメージの一つも入っていなかったのだ。


 僕はもしかしたらという期待が一瞬で崩れ去ったのを感じた。そしてこうも思った。


 ───この人には魔術が一切通用しない。


 この人にダメージを喰らわせるにはそれこそくらいじゃないとダメだろう。


「ふむ、先程の魔術は中々に素晴らしい。だが、代償を伴うことでこの威力では、人として見るのならば凄いのだろうが、まだ足りない。しかし、これで分かっただろう。分かったのなら早くスキルで攻撃してみろ」


 確かに、魔術ではこの人にはダメージが入らない。

 クソ……使うしか無いのか。

 ああもう!やってやるよ!得体の知れないこんなもの使いたくなかったんだがなあ!


色彩弾カラーバレッド!!色指定カラーセット!!赤、青、白!!」


 右手を出し、無意識に出たその言葉はすぐに結果を出した。

 右手の人差し指と中指と薬指にそれぞれの色の弾が出た。


タイプ、ガトリング!!発射ファイア!!」


 その瞬間、それぞれから勢いよく弾が大量に発射された。それはさながらガトリングガンのようで。

 僕はその威力に空いた口が塞がらなかった。


「へえ、こんなに出てくるのか。凄いな」


 彼女はそう言いながらも、簡単に全ての弾を捌いていく。

 この光景を見て、改めて彼女は神なんだな、と実感したのだった。


カラー、白の残量が200を切りました。白の排出を辞めますか?》


 すると、頭の中でこんな声が聞こえた。

 白の残量?何かわからないけど、とりあえず辞めておこう。

 その旨を頭の中で伝えると、


《白の排出を終了します》


 そう聞こえて、薬指にあった白のところから何も出なくなった。

 これ、結構便利だぞ……

 殲滅も余裕でできそうだし……

 でも彼女には効いて無いんだよなあ。


「おや、白の弾が出なくなったな」


 彼女も白がなくなった事に気づいたようだ。

 その後、赤、青ともに残量が少ないと忠告を受けたので、排出を止めた。


「よし、今日はここまでにしよう。これから毎日やっていくぞ」


 慣れないことをしたので疲れていたが、終わりにしてくれるようで助かった。


 ……でもこれ毎日は辛いっす。



 こうして彼女との毎日の訓練が始まり、気付けば1ヶ月が経とうとしていたのだった。


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