第34話 2章エピローグ

 アラシャさんとの訓練も1ヶ月経った頃に終わりを告げた。

 彼女曰く、もう大丈夫、とのことだ。

 彼女は終わった次の日にはどこにも居なかった。人知れず帰ったのだろう。


 この1ヶ月、他の人たちは何をしていたのかというと、第三兵団は先の戦闘での負傷者が多く、この1ヶ月は療養期間とした。それは第六兵団や、別のところで戦っていた第二兵団と第七兵団も同じだそうだ。

 その間の王都周辺などの警備は空いていた兵団員がやっていくれたそうだ。それほど今回のことはやばかったらしい。


 また、第八兵団が発表したことだが、この件に黒幕がいたらしい。

 名前はラムレ。彼の証言によると、今回の事件について指示をしたのはギガス公爵だそうだ。もしかしたらアリシアはこのことを知っていて彼を魔王会議に連れて行ったのかも知れない。


 このことから、僕らが倒したあの悪魔は混沌カオス級から一つ下の上級に下がった。しかし僕は納得がいっていない。あの強さで上級はおかしいと思う。


 後、事件発覚から3日後にアリシア達は帰ってきた。アリシアはゴーレインからの報告を受け、すぐにギガス公爵を拘束し、地位剥奪、全財産没収、そして家族全員が犯罪奴隷にされた。僕的には処刑でも良かったと思うのだけど、アリシアに聞いてみたら、


「奴隷として扱き使った方が、有用じゃ無いですか。ただでさえ人手不足なので」


 とのことらしい。僕にはわからない。



 ***



「アラシャ様」


「あの時以来だな、確か名は……アリシア、だったか」


「はい」


 訓練が終わる2日前、夜中にアリシアの部屋にアラシャが訪ねてきた。


「それで、要件は何でしょうか?貴方様にはできる限りお答えしますが……」


「なら早速。何故、シンがいる。何故、彼奴が生きているのだ」


「……と申しますと?」


「彼奴の事は我々邪神の間でも話題になっていてな。結構印象が強かったので覚えていたが……」


「そうなのですか……」


「で、彼奴のことだが……あいつの魂は既に限界の筈だ」


「……どういうことですか?」


「彼奴は既に2回転生しているからな、故に──」


「えっ?転生を、2回?」


「知らなかったのか?彼奴は2回転生している。今回で三度目の生だな」


 アリシアはその言葉に呆然とした。

 知らなかった。まさか彼はその前にも転生をしていたなんて、と。


「で、話を続けるが、普通、転生すると魂は大きく摩耗する。しかもそれは回数を重ねる毎に倍になっていく。故に、人間の魂では精々1回が限界だ。しかし彼奴は2回目の転生をしている。さらに、転生前に神聖樹の中で精神と魂のみの状態で1000年くらい生き伸びた。どういうことだ?たとえ神聖樹の中だとしても、意識を持っていられるのは500年ほどだ。しかもそれは一度も転生したことがない魂で、だ。彼奴は何かがおかしい。神である私でも分からないのだ。こんなことは有り得ない」


 そこでアラシャは一息入れた。

 アリシアにとってこの話は分からないことだらけだ。


(シン様は転生を2回している……?でもそんなこと一切言ってくれなかった。どういうことですか?)


「お主なら何か知ってるかもと思ってきてみたが、その様子じゃ、2回転生しているということすら気付いていなかったんだな」


 その言葉はアリシアの胸に深く突き刺さった。

 これでは、アリシアはシンに信用されていないと言われいるようなものだ。しかもそれが事実なだけに、彼女の精神的なダメージは大きかった。


「私は、一体、彼の、何を、見て……」


「……ま、知らないならそれでいいさ。それでもう一つ話があるんだが」


「……何でしょうか」


「彼奴を神に仕立て上げたいのだが、その協力をしてもらいたい」


「っ!?」


 それは予想の遥か上をいく相談だった。


「そ、それは、どういうことですか!?」


「彼奴には神になる素質がある。強力な魔術、さらには短時間での色使いの掌握。とても摩耗しきった魂を持つものとは思えない所業だ。はっきり言って恐ろしい。故に彼は神になれる。そういうものこそが神となれる。お主にはその手伝いをしてもらいたい」


「ですが……」


「お主のその様子じゃ、彼奴に対してどう思っているのかよくわかる。まあ、無理にとは言わん。お主が抱えているが解決した後でもいい。結論は急がないから、頭の片隅にでも置いといてくれ」


「っ……分かりました」


「それでは私はこれにて失礼させてもらうよ」


 そう言ってアラシャは部屋から出て行った。

 一人残されたアリシアは先ほど言われた言葉の数々を未だに飲み込めないでいた。


(もう、何が何だかわかりません。ですが、シン様に必ず聞かなければならないことができましたね)


 アリシアは大きなため息を吐くと同時に窓の外を見た。


 黒い雲が月を覆っている。今にも雨が降りそうだ。

 それは、アリシアの心の中を表しているようだった。

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